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第27話 呪術師ミカ・アンバー

 今回は最後の元パーティーメンバー、ミカ・アンバー視点でのお話です。

 自慢なんだけど、私は性格が悪い。


 なんで性格の悪いのが自慢なのか。

 それは。


「魔」

 

 魔物。

 悪魔。

 そして、魔法。

 魔と付くものは(がい)して邪悪なもの。

 そして、その「魔」を一番上手く使えるのは(がい)して「性格の悪いやつ」。


 だから性格の悪い私は、魔法を使うのが上手い。

 天才的と言っていいかもしれない。

 そもそも性格の良い人間は「よ~し、魔法でも使っちゃおうかな~!」なんて思わない。

 魔法ってのは、なんていうか陰湿でドロ~っとジメ~っとしてるものだ。

 だから仮に性格のいい人間が魔力を持って生まれてきても神官やらを目指す。

 あのアホでバカの私の幼馴染──。

 ハンナみたいに。


 つまり、そもそもが(ひね)くれ者。

 他人に対して心の中でグチグチ言っているようなタイプ。

 それが魔法使いという人種だ。


 ちなみに魔法使いってのは「魔」のエネルギーを使って色んな現象を起こす職業の総称。

 魔導士。

 魔術師。

 錬金術師。

 精霊術師。

 召喚術士。

 死霊術師。

 なんてものから。

 空間術師。

 時空術師。

 なんていうチート級のものまで様々に区分されてる。

 これらをぜ~んぶ引っくるめて「魔法使い」。


 で。

 そのなかで私が選んだのは。


『呪術師』


 直接的に何かを起こすわけじゃない。

 ちょっとずつ世界の因果(カルマ)を捻じ曲げる。

 それだけの術師。

 でも、それゆえに最強。


 呪い。

 対価を支払い、望むものを手に入れる魔の術式。

 私が差し出した対価は。

「時間」

 時間を差し出した。

 別に悪魔と契約を交わしたわけじゃない。

 ただの誓約(レストリクション)

 私の中でだけ完結してる誓い。

 おかげで私の姿は今でも八才のときのまま。

 たまに不都合(こまること)もある。

 けど──。


 私は満足してる。


 だって、()()()()()()()で。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()んだから。


 そう、私がこの十年間かけ続けている呪い。

 それは──。



『ケントに下心を持った女が苦しむ呪い』



 効果範囲は私を中心に都市三つ分程度。

 都市三つ分の大きさということじゃない。

 三つ先に離れた都市まで。

 それが私の呪いの効果範囲。

 ケントの居場所は予測がついている。

 おそらくは呪術の効果範囲内に入っているはず。

 これで……私が術師として一人前となるまでケントは他の女に奪われない……。

 ふふふ……。


 十年前、私は魔法を学ぶために水上魔導都市アノスを訪れた。

 そこで運良く伝説の大魔道士リンネ・アンバーの弟子になることが出来た。

 私もアンバーの名字を貰った。

 ミカ・アンバー。

 それが私の今の名前だ。

 リンネ師匠は誓約(レストリクション)というわけでもないのに自らの趣味で肉体を子どものままにしているという変わった人だった。

 なんでも私と並ぶと「ニコイチ」というもので見栄えがいいらしい。

 師匠は一つの分野の専門家ではなく、多くの知識を求めた雑食の魔法使いだった。


「魔力の強さではなく引き出しの多さ。そして状況判断の的確さ。それこそが真の強者たる者の条件なのだよ」


 それが師匠の口癖だった。

 馬鹿なのかな、と思う。

 最強なんて必要ない。

 だって最強は──。


 私の愛した男性(ひと)

 ケント・リバー。

 ただ一人なのだから。


 過去に一度ケントの話を師匠にしたら異様に食いつかれたことがある。

 それ以来、師匠の前でケントの話はしていない。

 これ以上ライバルが増えるのはゴメンだ。

 生真面目なセオ(ねぇ)

 バカのハンナ。

 この二人だけでも手強いってのに。

 そこに私と幼女キャラのかぶってる師匠まで加わっては、私がケントの妻になるという計画に支障が出る。


 そう。

 妻になる。

 私は。

 ケントの……。



 妻になるの~~~~~~~~!



 うふふ!

 だってだってそうでしょ!?

 ケントはぁ~、もうおじさんだからぁ~。

 セオリアやハンナよりもぉ~。

 若い私のほうがいいもんねぇ~?

 きゃきゃっ!

 うふふっ!


 …………。

 はぁ……。

 すぐに我に返ってしまう。

 天才だから。

 そして性格が悪いから。

 こんな浮かれてる自分を見て「バッカじゃね~の」って思ってしまう。

 損。

 損してると思う。

 きっと、幸福度ってものがあったとしたら。

 アホのハンナや真面目なセオ姉の方が高いんだろうなぁ。


『またケントと四人で冒険する』


 そんなアホなことを今でも本気で考えてそう、あの二人。

 冒険。

 はいはい、冒険ね。

 いいでしょう、冒険。

 冒険したとしましょう。

 で?

 冒険したとして……で、その後は?

「あー、楽しかったねー!」って言ってみんなで帰って終わり?

 十年前は足を引っ張ってごめんね~! って言って終わり?

 え、なにそれ?

 意味ある?

 違うでしょうが。

 私達が本当にしたいのは「冒険」じゃなくて……。



 結 婚 !



 私達の憧れの!

 私達の理想の!

 ケント様と結婚して!

 イチャイチャして!

 可愛い子供なんか作っちゃったりして~!

 きゃ~!


 …………。

 はい、我に返った。

 憎い、自分の天才っぷりが。

 そして性悪っぷりが。

 もぉ~、いいじゃな~い、もっと幸せな気持ちに(ひた)らせてくれてもさぁ~!


 ……こほんっ。

 まぁいいでしょう。

 だって私!

 発掘された宝珠(オーブ)の鑑定で師匠のお供でついてきた、ここカンザスで!

 なんと!

 なんと~ぉ!?

 愛しのケントのうわさを聞いたんですものぉ~~~!


 ……ついでにハンナとセオ姉のうわさも聞きましたけど。

 なんでもハンナは神力で空を跳んでたとか。

 は?

 バカはバカだと思ってたけど、まさかそんなバカなことをやってしまうほどの大バカだったとは……。


 まぁいい。

 まぁいいです。

 だって!

 私!

 カンザスに着くやいなや!

 愛しの!

 ケント様をっ!

 見つけたんですもの~~~~~~~~!


 ええ、そうです。

 髪は伸びてますが、あれは間違いなくケント様。

 端正な振る舞いに腰に差した二本の剣が動かぬ証拠です。

 うふふ……。

 うふふふ……。

 ケント様、ケント様ぁ~。

 あぁ……十年の時を経て、より魅力が増してらっしゃいます……!


 あら?

 ケント様?

 露天で食事を始めたと思ったら、そこの女店主に迫られてるじゃないですか!

 ふふ……ふふふふふふふ……!

 私の目の前でよくそんなことが出来たものですね、この薄汚い泥棒猫が……!

 いいでしょう……。

 痛い目を見せてあげようじゃないですか……。

 私の──呪術でっ!

 っと……。

 短時間で術の効果を現すためにはもっと近くに行かなくてはいけまんせんね……。


 そう思って露天の死角ギリギリまで近づこうとした時──。


 ドンッ!


 こちらに走ってきたケント様と。


「きゃっ!」


 ぶつかりました。

 ラッキー!

 あっ、ちが、気まずっ!

 だってだって、まだ心の準備が……!


「あ、すみません! 怪我は?」


 そう言って私の背中に手を回したケント様は──。

 


(お、王子様……)



 キラキラと(かが)くそのお顔。

 私がこの十年間ずっと想い続けてきた。

 そして呪い続けてきた。

 理想の殿方。


 ケント様!


 ああ、ケント様ケント様ケント様ぁ~!

 私、今ケント様の腕に抱かれてますのぉ~!


 でも。


 私は性格の悪い女。


「ミカ?」


 そう尋ねてきたケント様に。



「ひぅ……!? ちちち、(ちぎゃ)いましゅ……! でゅふふ……!」



 思わずそう答えてしまった。


 あぁ……私は性格の悪い女。

 天才呪術師ミカ・アンバー。

 ケント様の妻になるはずの女。

 なのに。

 なのに……。



 どうして私……。



 他人のふりをしちゃったのぉ~~~~~~!

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