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第21話 おじさん、挨拶する

「え~……ということで、ただ今ご紹介にあずかりましたケント・リバーで……って、痛てっ!(小声)」


 王都カイザルの中央にそびえるニュンバーク城の修練場。

 精悍な顔の騎士がぴっしりと立ち並んでいる。

 俺は壇上に立ち、彼らから向けられたある種の()()若干(じゃっかん)気圧(けお)されつつ師範就任の挨拶をしていたのだが……。


(……んだよ~! なんで足踏むのぉ~!?)


 俺の足を踏みつけてきたセオリアに文句を言う。


(ケントがふにゃふにゃしてるからでしょ! シャキッとして!)


 ふぁ!? ふにゃふにゃしてたらセオリアから足を踏まれるシステム!?

 なんだよそれ~?

 あ~……でもまぁ「ふにゃふにゃしてる得体の知れないおっさんから指導を受けろ」なんて言われたところで、騎士様たちも気乗りがしないかぁ……。

 うん……よし!

 ここはいっちょ、バシッと威勢よく挨拶をかましたるとしますか!

 そうだ、これも仕事のうちだ!

 社会復帰の最初の一歩だ!

 がんばれ、俺!

 やるぞ、俺!


「こほんっ! え~、俺がケント・リバーだ! 冒険者をやっていた! 階級は──光輝白銀級(ミスリル)!」


 ざわっ……。


 騎士たちがざわめく。


「……光輝白銀級(ミスリル)だって?」

「一人で一個混成団に(あたい)するっていわれてる……あの?」

「なにかの間違いだろ。そんな人物には見えない」

「どう見てもただの小汚いおっさんだろ……」

「でも昨日、マンチーキを軽くいなしたって」

「マンチーキ? 実力は下から数えたほうが早い新米だろ」

「だが、おかげで今朝の食堂の味はよかった……」

「たしかに! 久々にまともなメシを食えたぜ!」

「それとこれとは関係ないだろ!」

「あのおっさんがオレたちが指導を請うのに(あたい)するのかって話だ」

「しょせん副団長のキング様には足元にも及ぶまい」


 おぉ、さすがに光輝白銀級(ミスリル)の称号を出すとわかりやすいか。

 騎士たちの俺を見る目が少し変わった気がする。


「ぼ……冒険者なんぞオワコンだろうがぁ! ハッ! 冒険者だぁ!? 光輝白銀級(ミスリル)だぁ!? そんなに有名な冒険者なら、なぜ俺達がお前のことを知らん!? どうせスパーク団長に取り入って、コネで仕事もらっただけの経歴詐欺のおっさんなんじゃないのか!?」


 騎士の一人が喧嘩腰に叫ぶ。


(おっ、あれは昨日の……)


 俺が食堂で()()()男だ。

 そうかぁ~、昨日は深く考えてなかったが、これからは彼とも付き合っていかなきゃいけないんだよなぁ。

 ……よし!

 じゃあここはひとつ会話でもして親睦でも深めるとするか!


「キミ、名前は?」


「俺はアダヴァ・マンチーキ! ゼスティア王国南方地域を広く収めるマンチーキ公爵家の長男である! どうだ、恐れ入ったか!? 昨日の不敬を今ここで詫びてもよいのだぞ!?」


「マンチーキ……? 知らん……」


「はぁっ……!? 貴様……馬鹿なのか!? かの有名なマンチーキ家を知らんだと!?」


「あぁ、馬鹿かもな。俺はスラム出身の冒険者育ち。そしてここ十年はザゴラ大森林の奥地でひっそり一人暮らしをしていた。世間様との関わりなんぞ、めっきりなかったものでな」


 ざわざわ……。


「スラムだって……?」

「そんな下賤の者に誇り高き我々が教えを請えと……?」

「おい……でもザゴラ大森林だって……」

「あの腐れハーピーすら寄り付かないっていう魔境のザゴラ大森林?」

「そこで十年だって? 常軌を逸してやがる……」

「どうせハッタリだろ」


 え、そこざわつくとこ?

 ザゴラ大森林、住んでみると意外といいところだったぞ?

 まぁ、寝ても覚めても命を狙われるからスキル『超感覚』を常時発動させてなきゃいけなかったけど……。

 それにセオリアだって一人で来れたわけだし……。


「つ……つまり十年もブランクがあるということだな!? そんなやつに我々誇り高き聖なる鷹(セント・グリフィス)騎士団の師範が務まるとでも!?」


 う~ん、このアダヴァくん。

 どうしても俺をこき下ろしたいみたいだ。

 公爵、って言ってたか?

 公爵って結構偉いやつだよな?

 貴族のあれこれはわからんけど、まぁ自尊心(プライド)が高いんだろうなぁ……。

 さてはて、どうするのがいいかなぁ。

 またノシてやっても余計にプライドを傷つけるだけだろうし……。


 そんなことをぼんやり考えていると。


「聴け、皆のものっ! このケント殿は昨夜、盗賊ギルドのアジトを突き止め一人で壊滅させたのだ! 昨日カイザルに着いた、その日の夜にだぞ!? 貴様らの中にこれまで盗賊ギルドのアジトを突き止められたものはいたか!? 私も含めてここにいる全員、ケント殿の足元には遠く及ばん! かような英雄に教えを請えることを光栄に思え!」


 セオリアがいきなり大見得(おおみえ)きりやがった。


 ……は?

 いやいやいや。

 たしかに俺はアジトを突き止めた。

 壊滅もさせた。

 でも。


『私も含めてここにいる全員、ケント殿の足元には遠く及ばん?????』


 おいおい、勘弁してくれよ……!

 俺なんかが現役バリバリの騎士様たちに敵うわけないだろ……?


 案の定、騎士たちからも不満の声が上がる。

 そしてやいのやいのとするうちに。

 俺は──。



「えっ、これ……マジ?」


「ふふっ、マジですよ。ケント様、お手合わせいただき光栄です」


 目の前で剣を構えた完全無欠の金髪美青年。

 聖なる鷹(セント・グリフィス)騎士団副団長キング・マイセンと。

 手合わせという名の。


 一騎打ち。


 をすることになっていた。

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