宇宙人ライバー
先日、自分の中で一番声が好きなVtuberさんが映画に出演することが発表された。楽しみがまた一つ増えました。
ついにハルカ二期生もとい、Chaosのデビュー当日。今日は自分の配信はお休みにし、新しく入る5人? を見守る。
「……………………」
駄目だ。不安すぎて落ち着かない。時間は刻一刻と迫ってくる。こちらからできることはもう何もない。覚悟を決めろ加藤秀康。これから自分の後輩となるライバーのデビューだ。しっかり見届けねば。
…………さあ、いよいよ時間だ。あと3……2……1……0.
『ハロハロー! 地球人ども! 惑星カロッテからの侵略者、キャロが来たぞ!』
予定時間ちょうどに少女は現れた。
純粋無垢なまっすぐとした声。黄緑色の瞳と髪。年頃は中学生くらいだろうか。元気がよさそうな明るいデザインに仕上がっている。その中でも特徴的なのは髪質だろう。彼女の髪は他のライバーと異なり、まるでスライムのような質感になっている。さらに服装は女の子らしさを保ちつつも近未来的デザイン。
もちろんこれは彼女の設定に関係している。先ほどの挨拶でも言ったように、彼女は他惑星からの侵略者。つまりは宇宙人だ。
:きちゃぁぁぁぁぁぁ!
:かわいい!
:ついにハルカにもロリが⁉ ……推します
:二期生一人目!
:常識枠かネタ枠か……
コメント欄の反応も上々だ。
彼女は……うん。ある一点を除いて他のメンバーよりも不安要素が少ないためトップバッターというのがスタッフ満場一致で決まった。
そう、いい子なのだ。性格は明るく好奇心旺盛。コメント欄でもある通り、ハルカ側でもロリ枠と考えており、そのキャラクターは今後とも愛されていくことだろう。
ただ……キャロとのリアルでの出会いは事前に情報があっても衝撃的なものだった。
「はじめまして! 今日からハルカでお世話になります。キャロです!」
Chaos初配信の三日前、俺は黄緑色のスライムから挨拶を受けていた。
「うん、もう突っ込む気にもなれない」
いやだって、マジでそこにいてしゃべっているのだ。ゲームとかで見たまんまの目も口もないスライムが。
「何変なこと言ってるのヒデ。初めての後輩なんだからもっとちゃんとしなさい」
「初めての後輩に本物の宇宙人連れてくる方が変だからね?」
そう、本物の宇宙人だ。最初、遥香から聞かされた時は……なんだろう、違和感はあったのだ。普段ふざけてばかりの彼女だが、仕事ではいつも真剣だった。だから、冗談とは思いつつも彼女ならやってくるという予感もあった。…………そしたらこれだよ。
「まあ、面白ければいいかなーて。……キャロちゃん、こっちの糸目のお兄さんが一期生の加藤秀康ね」
「もうちょっといい紹介思いつかない?」
確かに似顔絵を描けば百パー糸目でかえって来るけど。
「よろしくお願いします先輩!」
「キャロちゃんはね、カロッテってところから来たんだって」
「はい! 侵略しに来ました!」
元気いっぱいに返事をするキャロ。まあ表情もなにもないからどうにも言えないが。
「よしせっかく来てもらったところ悪いけどもとの星に帰ってもらおうか」
やっぱりこれは地球人の手に負える人材じゃない。
「まって~ヒデ! もうこの子を入れるって決めたの! ヒデだってこの前はいいって言ってたじゃない!」
「資料の段階ではな! 目的が侵略行為ってのは書かれてなかったし、顔写真の姿とも違うぞ! これじゃあ普通に生活するのも難しいだろ!」
資料で見たのは普通の女の子の姿だった。
「それについては大丈夫。キャロちゃん、あれ見せて」
「はい!」
すると、キャロの身体が徐々に人の姿になっていった。
「じゃじゃ~ん! 朝霧一モード!」
なるほど、こうすれば普通に生活も送れるわけか。
「ん? 今朝霧って言った?」
「そう! キャロちゃんが世に潜む仮の姿は朝霧一。私の親せきで年齢は十五歳! 進学校に通うため、実家を離れ私の家に来た高校生! それでそれで、私のことはお姉ちゃんって呼んで……」
「なんか所々願望が入ってる気がするけどそういう設定なんだな。まあ、他にもいろいろ聞きたいことはあるけど……」
とまあ、こんな感じで話が進み今日にいたる。
ちなみにVtuberとしてのキャラ設定は何から何まで本当のことだ。つまり、史上初の個人情報が筒抜けなVtuberの誕生だ。……絶対、さらしても問題ないのをいいことに考えるのをさぼったな。
『あ、でも侵略って言ってもまだ調査段階だからな。……実は私の故郷のカロッテは寿命であと百年くらいに爆発してしまうんだ。そこで移住できる環境のそろった星を探していたら地球にたどり着いた、というわけだ。今は主に、地球人について調査してるんだけどその最中にここの社長に見つかって、現在に至るって感じだな!』
:なるほど!
:結構壮大だな……
:最後ハルカの社長に捕まってるの草w
『これから活動を通して、地球の事を知っていくからみんな、改めてよろしく頼むぞ!』
:はーい!
:888888!
:〈白雪桜真〉ようこそハルカへ!
:‼
:先輩おるやん!
:〈月田きいろ〉そういえば先輩たちとの絡みとかもうあったの?
『ん? もう質問が来てるな! 先輩たちとの絡みか! 実はな……四音先輩にはもうあったぞ! 配信でも見てるから緊張したな~。でもなぜか他の先輩の配信は見るなって言われてるんだよな~。なんでだろ?」
:それはナイス判断や
:キャロちゃんは純粋そうだからなー。あの二人はまだ早い
:四音様以外は全部ヤバいからな、ハルカは
:初めての後輩との接触NG出される先輩たちww
:〈白雪桜真〉なぁぁぁんでだよぉぉぉぉぉぉ‼
お前みたいなやつは一人で十分なんだよ。新人がいきなり影響されたら困る。
『というわけで、次は質問行くぞー!』
:キャロちゃんの全体像が見たいです!
『全体か! ちょっと待っててな。…………こうか?』
画面の中のアバターが移動され、全体像が映し出される。上半身はすでに映されていたが、ここで初めて下半身が公開される。
上半身と同じ近未来的な粒子とラインが入ったミニスカートとブーツを身に着けており、ストッキングなどは履いてなく、ほっそりとした足が大胆に出ている。
:おお……
:俺たちには……眩しすぎる……
:あれ? こんなところに天使が
:エロいね!
『ん? 何でみんなそんなに騒いでるんだ? よーし、次の質問行くぞー!』
:地球の調査って具体的にどうするの?
『おー! そうだそうだ。実はこんなものを持って来たんだ』
そう言い、キャロが出したのは……体重計の写真?
『みんな! これはなんだ? 教えてくれ!』
:ん?
:は?
:えっと……これはどういう?
『ほら、私ってこの星来たばっかだろ⁉ だから分からない事があったらみんなに聞こうと思ってな。……実は遥香が……ああ、社長がな、これに乗るたびに悲しい顔をするんだ。だから社長の助けになりたくて』
:ええ子や
:いや待て、今重要なことが聞こえたぞ
:キャロちゃん、そこに数字が書いてあったでしょ。教えてくれる?
ん? これなんかヤバくない?
『あーえーと何だったかな、確か48.5……』
『ちょっとまったー!』
『へ⁉ 遥香⁉ 配信中は出てこないんじゃなかったのか⁉』
『言ったけど! それとこれは別だよ! あっ、もう時間だね! さあ、あとが控えてるから。みんな、これからキャロの事よろしくね!』
『よろしくな~!』
こうして、史上初の宇宙人ライバーのお披露目配信は終わった。
後日、『48.5』という数字がトレンド入りしたことは言うまでもない。
五周年を記念した『あ』から始まり『う』で終わるVtuber事務所さんのアーカイブを聞きながら書ききりました。…………big! big!