#004
「……! なに!? まさかこのタイミングで襲撃!?」
大きな揺れとともに急いで外へ出る。火だ。暗闇に火の手が上がっていた。ちょうどこの島の唯一の入り口である連絡通路に。
……随分勝気じゃないの。こんなところでやり合おうなんて。
「おやまあ。どうやら今日の新人ちゃんの研修の時、やつらに付けられたみたいだね。ボスが一緒に居たから討ち取りにきたんだよ」
「冷静に言ってる場合! 結構まずいと思うんだけど!」
「ん、まずいかな? ほら、こっちには"湘南の暴れん坊"がいるんだよ。平気だって」
えすかが本殿から駆け出してきたミリィを指差す。マジか。戦う気満々なんですけど。っていうかこれわざとミリィ呼んでた説あるのでは?
……いや言って。そういう作戦だったら先にボスに言っといて。
「まあまあ。新人ちゃんの力試しにもなるし、いいんじゃない」
全く悪気無さそうな顔のえすか。いや、さっきミリィに報連相の話したばかりなんですけどう。
「本当もう……で、敵の方はどうなの。ハンターの可能性はあるのかしら」
「それは無いよ。ハンターが居たら眷属外のネクロシスになるから、ウィルフレッドやリルのようなアポトシスが絶対気付くもの。ミリィなんてもっと殺気立つよ。けど彼らの反応は薄い。という事は、"その程度"の連中なんだよ。恐らく、末端の仕業」
えすかの言葉に緊張気味の頭が納得していく。そうだ。アポトシスは眷属外のゾンビには敏感だ。それが周りの子たちを見ても無い。ネクロシスも気付けない訳じゃないけど、属意識が高いアポトシスの方が分かりやすい。えすかの言ってる通りハンターのような強敵とは違うんだろう。
となると、本当にただの牽制か。
「……仕方ないわね。ミリィ、お食事の時間よ。準備して」
私の合図に周りの空気が緊張する。我が組の一番手、平塚ミリィ。通称「湘南の暴れん坊」の時間である。
ここから先は、血生臭い。
「え! 今来たやつ食べていいの!? ぜ、全員食べても怒らない!?」
「自衛目的って名目で、基本ゾンビならいいわ。もし人間様が居たらこちらで話をつけるつもりだから、ちゃんと生け捕りにする事」
「えー! 生身が美味しいんだけどなぁ……でも約束ならしょうがないや。リル、ワタシが守ってあげるから待っててね。なんとかしてくるから!」
リルを残念そうに見つつ、ミリィの目が鮮やかな赤褐色になってゆく。ネクロシスの特徴だ。血の気立つと、目の色が血液と同色となる。
そう。この女の子らしいミリィのワンピースには幾千もの血の匂いがこびり付いてる。洗っても洗っても、彼女には血がまとわり付く消えない香り。小柄な体躯に封じ込められた、凶悪な力。
これが、ネクロシスの本当の姿。
「よぉし! いっくよー!」
火の手の元へとミリィが飛んだ。
私たちもそれを追いかけて、急いで下へと向かって行った。
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「あ、ありす様! てっ、敵が!」
階段を急いで降りると、不愉快な熱気の中からマイちゃんの緊迫した声が聞こえた。
相当困惑してるのだろう。うちに入った途端いきなり襲撃を受けてるんだから。
「安心して。ちょっと絡まれてるだけだし、そんな難しい相手じゃない。マイちゃん、いきなりだけど研修の成果を見せてもらうわ」
「え、え、」
「返事はカモンでどうぞ!」
再びの衝撃。江ノ島班の前衛陣が目の前で起きた火の手に一瞬怯む。
ちっ、島のだいぶ押し込まれた位置からのスタートか。いきなりやってくれる。前線から距離を取った位置に居たウィルとともに状況を確認する。
「ありす。敵の位置が判明した。目視出来てる連絡通路に複数体。それとは別に海に一隻、小型ボートから砲撃してるのが居る」
無線のイヤホンからえすかの声が流れる。上階の本殿から周りを確認してもらっているのだ。
私の持ち出したタブレット端末には江ノ島のマップが映されており、そこに赤いポインタが灯る。この島のあちこちに仕掛けられた監視カメラから敵の位置を割り出してもらった。
さすがえすかだ。毎度この手の仕事をやらせると早くて助かる。
「ええ、7,8キロくらいのとこね。見た感じ江ノ島スタジアムの方角かしら。暗いのをいい事に派手にやってくれちゃって」
「シーキャンドルから砲撃し返すかい。ちょうど追跡ロケットランチャーを導入したから試してもいいよ」
「ヘルいえい。敵は一隻だけだし、いい実験台になるんじゃない。やっちゃいましょ。ふふ、こっから仕留めてやるわ……!」
頭に過激な血液が昇る。きたきたきた。最近歯応えない相手ばっかで久しぶりの感覚だ。
「私はね、争い嫌いなのよ。でも迎え撃つのは別。ボスとしての血が滾る。この子たちを守らなきゃって精神が感情を爆発させるわ――えすか、"灯台型砲台シーキャンドル"から海のボート隊任せた。砲撃はピーキーだろうしミリィを上手く使って。ウィル、もっと前衛を散らすように指示して。新進気鋭のルーキーに突っ込ませるわ」
興奮気味の私の指示をウィルを介して周りが目の色を変え喧々轟々、熱気と殺気を空気に孕まさせていく。「ヴィイイイイ」「ヂョォォォォ」不気味な唸り声の大合唱。どういう魂胆か知らないけど、攻めてきた相手には地獄を見てもらおうじゃない。
「ありす様……! わ、わたし戦うんですか!?」
あわあわしてるマイちゃんの腕を引っ張って前衛班の近くまで連れていく。さっきまでの歓迎会の楽しいムードから一転した戦場には、もう新人とかそういうのは1ミリもない。
「戦うんじゃない。守るの。この島を。私たちのテリトリーを」
「守る……」
「見せてあげなさい、あなたの、あなた自身の力を」
弱気な女の子ゾンビの肩を叩いてあげると、彼女は周りの異様な様子を見渡して息を止めた。
今も我がアポトシスたちは敵から私たちを守るように壁を作ろうとしている。本能なのだ。この子たちの。そしてウィルを介して前衛の子たちも動き出している。
人間とゾンビ。相容れない存在がこうして戦線を共にし、協力し、自分たちの場所を守ろうとしている。
ゾンビ――それは映画やアニメで見た、人類にとっての恐怖だろうか。私は違うと思う。彼らは仲間だ。グロテスクで腐ってても「強い」仲間なのだ。
「……や、やります! 怖いけど、ありす様のために、この組のために、レッツ大虐殺します!」
「やったれマイちゃん! ルーキーの底力見せてやりなさい! ……あと外であんまそのワード言わないでね。危ない人だと思われるから」
何やそのルビ、っていうツッコミは無視して、マイちゃんの背中をぽーんと押してやると、ミリィ同様に瞳が深紅に染まり筋肉が隆起していく。
ネクロシスにも種類があるが、マイちゃんやミリィは≪トランス系≫のタイプで、戦闘状態に身体能力を一時的に超向上させ本能的に戦闘を行う。
元の身体が小さいミリィはトランス時の見た目は殆ど変わらないけど、私と同い年くらいのマイちゃんは結構顕著にトランスする。絶対普通の人が見たらアメリカ映画に出てくるエイリアンだと思うだろう。強そうというより怖い。片目取れてるし、内臓まだ見えてるし。
「gEEEEAAAAAAY!」
叫び声やべーし。
「かかって来いや!」
さあ、そんなグロテスクな仲間ともに、与えてやろうぜ、絶望を。
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『居住区 ベイサイドマンションにて』
暗い部屋、モニタ越し、凛とした表情を携えて、「彼女」はその映像を見ていた。
波音と轟音が鳴る島に、水しぶきが跳ねている。
近頃騒がしくやり合ってる神奈川の一勢力、<江ノ島ありす組>が、巨大勢力の<大宮スクエア>からの刺客と戦う姿を見て、自然と唇を噛む。
<江ノ島>たちは好戦的でないし、他勢力との仲間意識も薄い。何なら近頃ゾンビ勢力を潰している、自分らの事も気に留めないくらいだろう。だからこそ、あの金髪碧眼のオーナーの事が、どうしても気になってしまう。
とてつもなく。
「兄さん………………」
漏らした声は、部屋の中に消える。
――思い出せ、と言われても、理論も理屈も無視して吐き気と苛立ちが込み上げてどうにもならない。
あの時の状況は、今でも鮮明に覚えている。決して許されない、空港駅での出来事。
小さく息を吐き、まだ幼げが残る顔に涙を一粒溢す。これは悲しみの涙ではない。復讐を誓う怒りの涙だ。あの残酷な仕打ちをした女に――自分の家族を殺したあいつに、犯した罪を食わせねばらなぬ。そう全身に走り始める熱いものを沸沸感じながら目を拭う。
「彼女」はゆっくりとモニタに背を向け、歩き出す。その時
「あら、もうおでかけ? 随分とヤる気なのね」
一筋、ふうと舞う焦げた薔薇の香り、タバコの煙。
部屋の片隅、鮮やかなアッシュ髪の女性が軽口気味に言った。
「……ルビーさん。部屋では禁煙とお話した筈ですよ」
「これは失敬。クライアントに嫌われるのが趣味なもので」
「彼女」は思わずこめかみを抑える。
「……わたしに仕えてるのなら、精々アンドロイドらしくしてください」
一瞬鋭くなったクライアントの言葉。だが、それに介せずアッシュ髪の「それ」は鮮やかな唇から煙を吐き、自身の鎖骨に印された≪DraglA#Ⅵ≫の刺青を指で拭った。
「そうねえ。人間サマの言いなりになるのが"それ"――アンドロイドだもの。殺戮だろうが、介護だろうが、カジュアルセックスだろうが、黙って言う事聞いてくれてサイコーよね。科学技術って素敵」
「……あまり余計な事喋ってると、報酬減らしますよ」
「ひゅう。資本主義はもっと素敵」
ようやくタバコの火を消すアッシュ髪。灰皿は使わず、手の平で握るようにし、タバコが真紅の発光する球体に変わる。
それが彼女の周りを45°の角度で回り始めた。
不可思議な光景だが、このルビーというこの女にかかれば、見慣れてしまうのが普通である。
ルビーは、特殊な≪複合型アンドロイド≫だった。人間には予想の付かない事を簡単にやってのける、人類の生み出した生命体だ。
人類――ゾンビとの対立を終えた2060年代から、彼らは残存する科学技術で、自らの領域、「居住区」を構築し、その中で減衰した人類の代替としてアンドロイドを多く導入するようになった。
オーナーの力がある者は、ゾンビ。
オーナーの力が無き者は、アンドロイド。
――人類が従える2つの「羊」。
このアンドロイドには大きく分けて3種類存在する。
1つ目は、筐体を持たない≪コンソールタイプ≫。
2つ目は、ヒトの型を筐体とする≪ヒューマンタイプ≫
そして3つ目は、従来のそれらとは違える型――≪ハイブリッドタイプ≫。
具体的にどう違えるのか、と言うと。
「でもねオーナー様、アタシは人間サマとハイブリッドなアンディーよ。片や機械で、片や人間。つまるところ、非自律型のラブドールなアンディーちゃんとは扱いも性能も全然違う訳。さすがに貴方ならもうその辺分かり切ってる認識だけど、あんまりイジワル言うと壊れちゃうから、そこんとこよろしく」
ルビーは、ただの人間型の機械ではない。元となる人間にアンドロイド機能を付加――改造した個体だ。だから、他のアンドロイドたちのような、自律学習の過程は不要。全て自己の「脳」で考え、行動を起こせる。
当然ながら、本物の人間の脳を機械部に結合、アクティベーションしているため、その性能も段違い。
冪等性を要する行動から想像力を駆使する行動、そして最適化された判断を用いてクライアントのどんな要望に応える。
それが例え――ゾンビ殺しの依頼だろうと。
かような高性能アンドロイドを、少女は従えている。数種類ある機体の中でも、≪アージ≫という球型の汎用変形端末が使用できるアンドロイドを、金という至極シンプルな対価で。
「アンドロイドの殺し屋ならいくらでもいます。貴方が壊れたらまたバトルタイプ機を雇うだけです」
「あら、その際は我が≪ドラグラ社≫にアタシを下取り出すといいわ。10.9999%安くなるわよ。あのヴィーガンのディーラーも大喜びしてくれるでしょう」
ルビーは自身の鎖骨にある刺青のローマ数字の部分を示しながら笑った。この刺青は人型のアンドロイドに付けられるロゴみたいなもので、人間と見分ける意味でアンドロイドなら必ず付いている。安物のアンドロイドは企業名だけだが、ルビーのようなハイエンドはモデル名に付与される数字が追記される。
ルビーはⅥ。つまり6型となる。
「……RERE、一階にタクシーを呼んで。わたしが帰って来るまでに部屋をクリーニングしておくように。ついでにルビーさんを静かにさせてくれると助かるかな」
「彼女」が言うと、部屋のモニタが切り替わり「音声認識」の文字が表示される。スピーカーから『かしこまりました』の人工音声が流れ、タクシー会社への連絡と小型の掃除機が自動で稼働を始める。
こちらはもう一つのアンドロイド、REREと呼ばれる人間の生活をサポートするロボットだ。
ルビーとは違い、家庭用のコンソールタイプで、家電操作から会話まで高精度で仕事をこなしてくれるため、幅広くこの「居住区」に導入されている。指輪型のデバイスを着ければ、主人の体調管理やスケジュール管理もしてくれ、今やこの世界では欠かせないインフラの一部になりつつある。
「ねえマスター? 残念ながらそこの無印アンディーREREには、デーモノイド6型のアタシへの干渉不可よ。共有権限が違うわ。性能も、毎月の使用料も、比べちゃ失礼なくらいにね」
『ドラグラ社への振り込み額を、マスター命令により変更しました。金額は……』
「……うっわ、無印のくせに洒落が言えるなんて舐めてたわ。分かったわよ、アンタのマスターには余計な事言わない。だからその変更はキャンセル。タバコが吸えなくなるのは困るわ」
モニタへ向かって眉間にシワを寄せるルビーを尻目に、少女は薄い外套を羽織り玄関に向かう。顔認証が通ると「外出中」の文字が外の表札に表示され部屋の電気が消される。
「あの金髪娘のとこに行くつもり? さすがに<大宮>との小競り合い中に横取りするのは、フロントに目付けられるわよ」
ルビーも自身の周りを公転するアージを人差し指で触れ、黒色のジャケットに変形させ、それを羽織り少女の後に続く。ルビーが扱えるこのアージという端末は、刀剣や小火器に加え、防具や戦闘服、はたまた感情をコントロールするタバコ型の注入材まで、状況に応じた様々な変形が可能だ。
変形には上限があり、アージ本体の球体が変形の規模、数、によって大小する事によってそれを把握出来る。
今の戦闘用ジャケットへの変形は、小規模の負荷となる。アージ本体は握りこぶしくらいの大きさから一回り小さくなり、ルビーの周りを漂い出す。
2人が外に出るとドアが自動でロックされ、住まうマンション内のエレベーターが開いた。誰もいない廊下を抜けてエレベーターに乗り込む。
「そんな、あからさまな真似しませんよ。そもそも名目上、アンデッド勢に申請も無く攻撃する事は禁止されてますから。わたしたちは、あくまで彼らに居住区を提供してもらってる立場、となっています」
ひゅう、と口笛を吹くルビー。
「いつ聞いても居住区のルールって素晴らしいわー。アンデッド勢と共存しましょうみたいな、そういう建前だけの文言大好きだもの。そしてそこに住む人間もまたファビュラス。うちらよりプロトコルに忠実。二進数で会話とか出来そう」
皮肉混じりにルビーが指で1と0を作ると、エレベーター内の液晶に二進数の羅列が投写される。普通のアンドロイドとは権限が一段上のため、こういう「遊び」もお手の物。無論、やり過ぎると管理会社からペナルティが飛んで来るが、このくらいなら許容範囲らしい。
「彼女」は特に相手せず、話を続ける。
「わたしたちのような、"はみ出し者"は別ですが、居住区で静かに暮している方々には迷惑掛けたくありません。あまり表沙汰にならぬよう行動するのが基本スタンスです」
「分かってる分かってる。それがうちらの決まり、でしょ。っていうか奇襲じゃないならどこに向かうのよ。目的地無しのドライブは自律系アンディーが居ても退屈よ」
エレベーターの液晶から投影をやめ、ルビーがつまんなそうに壁に寄り掛かる。
「……少し事情があって、旧品川の≪アンディーモール≫に行くつもりです」
少しばかり興味を示したルビー。
「あら、珍しい。あんなとこ行っても、一介の住民でしかないウチらはアンディーリーグの試合くらいしか見れないわよ。確かに今の時期は残留争いが面白いけど、あーいうのは家でカウチポテトしながら観るのがサイコーよ」
エントランスのある地上へと高速で降りて行くエレベーターが、僅かにスピードを落とし始める。もうそろそろ地上に着く頃合いだ。少女は首を横に振った。
「いえ、モール内ではなく彼女の元に行くんです……貴方もお世話になった"夏蝉"の元へ」
その名を聞いて、ルビーの表情が一瞬硬くなる。夏蝉。アンドロイドであれば、一度は聞いた事のある名前だ。
「また随分ときな臭い相手ね。扁桃体が痛くなってくるわ」
「別段、大した事ではありませんよ。ただ、ちょっと妙な噂があるみたいでして、直接伝えたいと」
「そんなの映話で言えばいいのに。全く、彼女ってデジタルをやたら嫌うのよ。ハッカーなんて絶滅したってのにさ」
チン、という甲高いF#の音ともにようやくエレベーターが開き、エントランスを抜けて行く2人。
エントランスの壁型液晶にはこの「居住区」全体を示す電子マップや天気情報、新型アンドロイドのセンスの無いCMが流れている。REREと同機種のアシスタントロボが2人に小さく一礼をし、回転ドアを案内する。
「今や人類の数よりアンドロイドの方が多いんです。人間同士で話すなら映話よりも直接の方がいいと、わたしも思います」
「そこは人間とアンディーで相容れないわね。ほんで、例によってタクシーちゃんはどこよ? 客が呼んだらホバーカーよろしく飛んでも来なさいって工場で習わなかったのかしら」
アージを突っつきながら無茶な事を言うルビーを一瞥して、「彼女」はふと空を眺める。
太陽なんて何百年前の代物だっただろうか。今や黒々とした雲に覆われて、昼も夜も関係なく真っ暗な世界。
人口の減衰とともに、この空の本来の美しさは失われ、ただの鬱々しさを帯びていくだけ……なんて生暖かい風に髪を揺らされながら、ようやくやってきたタクシーへと乗り込んだ。
「…………待ってて、兄さん。必ず――」
小さく零した少女の名前は、「伊知寺 真昼」という。