ラフ雑談 初めての一人映画の話
ある日『私に天使が舞い降りた!』の映画化が決定していた。通称わたてん。
院試勉強の合間や隣でBGM化する程リピートしていた映像作品の一つで、個人的思い入れも一入であった為、報せを聞いた時は遂にここまで来たのかと勝手に感慨深い気持ちになった。
観に行くことは疾うの昔に決まっていたが、そこではたと気が付いた。
誘える人は誰かいるのかと。
ポケモンは、毎年観に行っていた頃は家族全員であった。まどかマギカは、友人達と週六で顔を突き合わせていた頃だったので、同じ話をしていた某を捕まえれば良かった。他は誘われる側だった。
わたてんは映画化作品とはいえ、流石にポケモン程メジャーではない。その上、人と会う機会も昔程多くはなかった。
一人思い当たったものの、その時期の彼は仕事に追われていて非常に忙しく、残念なことにタイミングが合わなかった。
まあ良いか、単独で堪能しちゃおう。
僕は初めての一人映画へと勇往するのであった。
遂に映画を観る日を迎えた。想像以上に楽しみにしている自分。
フライング気味なワクワクの気持ちを携えて券を買いに行くと、既に席がチラホラと埋まっていた。
数時間後の上映時はもっと埋まるであろうことは分かりつつも、現状の分布で最も空間的広がりを感じられて、かつ見やすい席を選択。
どうせ松本がどこかには登場するはずなのである。画面はシッカリ見える位置が良い。
別の場所で一時を過ごし、上映の二十分前に帰還。わたてんが上映されるシアタールームに入った。
が、妙に静かであった。入る場所間違えた?
原因は直ぐに分かった。単純に誰もいなかったのである、僕以外。
約二百席はある小さくはないシアタールームに自分だけがポツネンと存在する妙な空気感を楽しみつつも、先に売れていた席も存在するし、直に雪崩れ込んで来るであろうと思いながら自分の席に着いた。
スクリーンを眺めていると、他の映画の告知が流れ、紙兎ロペが流れ、映画泥棒が流れた。部屋は少し暗くなっていた。——ってあれ?物音したっけ。
後ろを振り返る。誰もいない。前に振り戻る。当然誰もいない。
僕、一人やん。どうした予約客達よ。僕が手に掛けた訳ではない。
そこに誰かが入って来た。
おおっと思ったが、篦棒に映画館スタッフだった。目が合った彼は、客一名の存在を確認し引き返していった。
そしてそのまま音沙汰無く上映が始まった。
僕はもう一度だけ確認した。やはり今この空間には僕しかいない。
初の一人映画、まさかのスクリーン貸切。勿論通常料金。んなアホな。
わたてんの先行きに多少の不安を抱きつつも、降って湧いたエクストラオーディナリー贅沢に感謝し、ヒッソリと同じ列の真ん中の席に移動した僕は、笑い声やツッコミなどのリアクションを我慢することなく映画を堪能した。
案の定松本は随所に登場した。そして全てを掻っ攫っていた。
終わった後暫しの間着席していたが、やはり誰もいなかった。松本もいなかった。
僕は望外の一人映画を振り返りつつ、映画館を後にするのであった。