ラフ雑談 シャツの穴の話
ある日洗濯物を干していると、手に取ったシャツのお腹の辺りに小さな穴が開いていた。
衣服に興味が無く体型も高校生の頃から殆ど変化が無い僕は、服が文字通り寿命を迎えるまで着続ける。
例えば靴は、小指の部分に穴が出来ているにも関わらず気が付かずに履き続けていた物が二足ある。なんかやたらと雨が染み込む以外弊害が無いので意外と気が付かない。
そんな僕にとっては別に大した事象ではないので「このシャツももう直ぐかなあ」などと呟きつついつも通り干した。
しかし洗濯を続けていると、なんと妙なことに似たような穴の開き方をしたシャツが更に二枚見つかったのである。え、何これ。いつもと違う。
流石にただの偶然とは思えなかった。確かに同時期に纏め買いしたシャツもあるが、同じ部分がドンピシャ同じ周期で三つ自壊するなんてことがあるのか。
本世界において低確率な事象はそうそう起きない。起きている場合は、何か見えていない意図やロジックや情報が存在しているか、正しく計算すると低確率ではないか。大衆が奇跡と呼ぶ事象は大抵はどちらかである。
最近やり始めたことなど、自らの行動を軽く振り返ってみたものの、心当たりは無かった。
じゃあ仕方ない。分からないものは分からないので、残りの二枚もいつも通り干した。
それから数日後、シャツの穴のことなんかスッカリ忘れて、食事を取ろうとしていたその時、不意にビビッときた。さては彼奴の仕業か。
我が家の平机の上には、少し高級な包丁と鉄扇と30cmスチール定規が常に存在する。
鋭くて煌めく物体や鈍くて重量感がある物体に、昔から妙に惹かれるので、モリブデンバナジウム合金で綺麗に輝く刃を持つ包丁と黒く滑らかなフォルムで重みのある鉄扇を、インテリアとして置いていた。あくまでも観賞用。
しかし鉄扇の方は、頭を悩ませている時などに扇として利用することもあった。クルクル回したり開閉したりポンポン肩を叩いたりお腹に当てたりして思考のリズムを取る。これが結構良い。
その鉄扇でやっていたことを、最近包丁でもやっている自分に、ふと気が付いたのである。
とはいえ、包丁の方は素の状態で扱っているわけではなく、常にカバーを付けていた。切り傷は結構痛いからネ。
そのカバーを改めて注視すると、先端に完全に穴が開いていた。あらまあ。
どうやらポンポンしている内に貫通してしまったらしい。
刃先が出た状態の包丁で自分のお腹を何度も何度もカルサシしていたことに気が付いた僕は、服を捲っておへそが二つに増えていないことを確認した後、包丁と鉄扇の位置を入れ替えたのであった。