ラフ雑談 一番クジの話
ある日、黒ウィズの一番クジが発売されるという情報を耳にした。黒ウィズとは、アプリゲーム『黒猫と魔法使いのウィズ』の略称である。
僕は長い期間のめり込んでいた本アプリであるが、お世辞にも大人気とは言えない。同社からリリースされている白猫プロジェクトと比較しても、コラボの頻繁さや豪華さで目に見えて負けており力の入りようは一目瞭然である。電車に乗っている時もバスに乗っている時も、遊んでいる方を全く目にしない。
従ってグッズの在庫数や販売店舗数が少ないのである。心配しつつ検索すると、行けそうな範囲で実施していたのは案の定たったの二店舗だけであった。
発売初日に外せない予定があった僕は、翌日焦燥感と共にお店へと駆け出した。
今回の目玉商品は選抜された六精霊の描き下ろし額入りアートである。件の商品は一ロッドに各一つずつで、残りは全てアクスタかポストカードである。少しバリエーションに欠けケチくさい気もするがやむを得ない。
正確には自転車で駆け付けている僕の狙いは、額入りアートと愛用精霊のポストカードである。
店舗に到着し早速各賞の残量を表示しているボードの下へ向かうと、なんと驚くべきことに目玉商品が根こそぎ消え去っていたのである。アクスタとポストカードはあんま減ってないのにっ。
湯水の如くお金があるわけではない僕は、二枚と泣きの一回の最大三枚までしか購入しないと決めていた為、目玉商品が無くなり廃墟と化した本店を後にしてもう一つのお店へと足を運んだ。
嫌な予感に襲われつつ入店し確認すると、既に四つ引かれていた。アクスタとポストカードはそんな減ってないのにっ。
手前の男性客が「ツイてる人多いなあ」とボヤきながらクジを引きポストカードを手にして帰っていく最中、僕は違和感を拭えずにいた。「いやいや、んなアホな。そんな都合の良いことばっか起こるかい?」
不運に愛され夥しい数のプチ不運が押し寄せてくる一生を送らされる最中で、不運と無知を分別し努力による回避を試み続けてきた。果たして今回はどちらなのであろう。
店員が買収されているならば現状の僕に出来る対策は存在しない。しかし当たりの場所が特定出来る見えない情報が存在するならば、それを推定することは僕にも可能である。
黒ウィズ一番クジの購入者は一応クイズゲームを選び遊ぶような集団で、何も考えずに適当に引く購入者は通常の一番クジより少ないように考えられる。購入者達が揃って辿り着いた結論が当たりクジとマッチしてしまったのならば、現状にも得心が行く。誰でも直ぐに思い付きそうなのは底から引くという案である。
一方のクジ側は店員が作成しているようで、他の一番クジも発売している為不慣れというよりはお決まりの作成方法があると考える方が自然そうである。今回のクジは景品バリエーションが少ない一方で大当たりは六枚存在する。作業の中身を考慮せずに形式的に行う店員ならば、A賞が一枚しか無いクジと同様に作成混合し、いつも以上に当たりが底に偏っている可能性は否定出来ない。
数十秒で違和感に多少の答えを出してから箱に右手を突っ込み、妙に底にへばり付いたクジを二枚引いた結果、アレスちゃんの目玉商品が当たったのであった。
帰りは少しペダルが軽かった気がする。