ラフ雑談 ピザを分ける一分の話
ある日、アルバイト先の忘年会が開催される運びとなった。
見知らぬ生命体以外からのお誘いは、初回は物理的に不可能でない限り受ける方針である僕は、飲み会という催しに興味や意味は感じていないが行くことに決めた。
そして当日、誰かが予約し借り切っていた居酒屋に、集合時間の十分程前に入店し着席した。自分一人では入店どころか出店しているビルを検索しようとすら思わない所で飲食する経験は、誘いに乗ったからこそのものである。
予約したプランは、ドリンクが飲み放題で料理は決まった品々が大皿でヒョイヒョイと運ばれてくるという有りがちな形態で、一人当たり三千五百円程度であった。この金額払うならホテルのランチバイキングに行くよなあと脳内でボヤきつつも、ソフトドリンクと自分の取り分と余った料理を頬張りつつ会話に興じていた。
そこに大皿料理としてピザが、少し遅れてピザカッターと取り皿が、運ばれてきた。ピザは正方形のクリスピーピザで、各テーブルに一枚の配分で提供された為、目の前の彼奴は今僕が座っているテーブルの九人で分けるのが自然である。
当然到着した瞬間に上記の思考を踏まえ3×3の格子状に切断することを考えた。
だがしかし、目前のクリスピーピザは正方形に作成されている都合上四隅が完全なる耳になっており具が殆ど乗っていなかったのである。
皆があれこれ言っている今この瞬間もピザは刻一刻と冷めていく。脳内の小さな自分達が「円形ピザで良かったのに妙な拘りやなあ」「ジャンケンルールにしたら盛り上がりにも繋がるし良いんじゃないのん」「そういえば正方形や円の鮮やかな九分割の別解があったような」「それ滅茶苦茶カット難しいよ?」などと会議して一分程経った時、隣に座っていた店長が徐に口を開いた。
「3×3で切ったら丁度良いんとちゃうん」
僕は漠然とした危機を感じ鳥肌が立ちそうになりながらも「それだと具がめちゃんこ偏るじゃないですかっ!」「どこ取るかジャンケンで決めませんか」と過程を楽しむルートへ補正出来るようなツッコミを入れようと口を開いたその瞬間
「おーーっ、凄い」「確かに。頭良い!」
と歓声が起こったのだ。
僕は戦慄した。この一分が果てしなく空虚に思えた。
つまり僕の目の前にいた生命体群は、一分間各生命体なりに頭を使っても自分が瞬間的に辿り着いた解に到達していなかったのである。
そして君の思考は杞憂に過ぎないと言わんばかりにピザは3×3にカットされ、各々が乱雑に手を伸ばし始めた。
宴会中不意に感じた孤独さを拭い切れないまま、僕は自分に一番近い位置の辺のピザを素早く取り、切られた彼奴に同情しながら具を堪能するのであった。