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サッカー選手の終わり(盲目の山田順子)

先生に「名古屋国立医療センターが、良いと思いますが。」と言われて、その病院に行く事にした。


「日にちと、時間なのですが、身内の人と、一緒に行ってもらった方が、良いと思いますので、今から身内の人に、連絡をとれますか。」と聞かれて、


 母は今日、仕事だったが、私が

「今日、病院に行くから」と言っていて、母が

「今日はケータイ電話を常に持っているからね、何かあったら直に電話を掛けてくるのよ」と、言われた事を思い出し、電話を掛けた。


 電話を掛けると5回位のコールで電話に出て、

「どうしたの。何かあったの」と、母の声が聞こえた。


 私は病院での事を話し

『お母さんと一緒に病院に行った方がいい』と言われたから、いつ仕事休み。何時だったら行ける」と聞くと、


「5日後だったら、大丈夫。」と返事が帰ってきて、5日後に名古屋国立医療センターに予約を入れてもらった。



 その日、家に帰ると母がとても心配していて

「大丈夫なの」と聞いてきたので、


 笑いながら「病院の先生が大げさに言っているだけだよ」と、答えた。


 母は深刻な顔をしながら、ため息をつき

「夕食の準備をするね」と言って、台所に向かった。


 

 5日後、母と2人で、名古屋国立医療センターに行き、午前10頃に名前を呼ばれて、診察室に入ると、背が高く、少し太った先生がいて、紹介状と、前の病院で映した目の写真を渡した。


 先生は紹介状に目を通し、写真を見始め、写真を見終えると、深刻な顔をして

「やはり、網膜色素変性症です。」と、言った。


 私が母の方を向き顔を見ると、母は大きな声で「治るのでしょうか」と先生に向かって言っていた。


 先生は母の顔を見ながら

「正直、分かりません。

 この病院で、もう少し検査をしましょう。

そうすれば分かるはずです」と言って、テーブルの上に置いているパソコンを触りはじめた。


 パソコンを見ながら

「つぎの検査の日ですが1番早くて6日後、その後は7日後、10日後が空いています。

  もう少し日にちを空けた方が良ければ、見直しますけど」


 母は私の方を見ながら、手を私の肩に置いて

「早い方が良い、6日後にしましょう。

 検査だけなら一人でも大丈夫でしょう。」


 私は「うん。」と答え、

 6日後に一人で診察に行き、検査結果をを母と聞きに行く事にした。


 その日からイライラする事が多くなり、

 優しく話しかけてくれていた母に、やつあたりをした事もあった。



 検査が終わり、数日に母と診察に行き診察室に入ると先生が優しく

「少し、お母さんと話がしたいから、診察室の前で待っていてくれるかな」と言われて、診察室を出た。


 それから10分位が経ってから、母に「純子、入って来て」と言われ、診察室の中に入り先生が座って居る前の椅子に座った。


 先生が優しい口調で、

「驚かないで聞いて下さいね。お母さんが『話しても良い』と言ったので、話をしますね。

 あなたの目の病気は進行が速くて、おそらく3年後には目が見えなくなります。

 名古屋盲目センターを紹介しますので、これからの事をお母さんと良く相談をして、1度、名古屋盲目センターに言ってください」と、話をされた。


 私は何も言えず肩を震わせて泣いていると、母も泣きながら私の肩にそっと手を置いた。


 

 病院から家に着くまで母との会話はなく、家に着くと、すぐに自分の部屋に行った。


 夕食の時に、母から盲目センターの話をされたが、私は「今は、行きたくない」と言い、部屋に戻った。



 翌日学校にいくと、同じ部活の同じクラスの子に


「病院、どうだった」


「少し悪いみたいだから、今日は部活を休むから監督に言っておいて」と話し、その日から部活を休む様になった。



1週間が過ぎた頃、監督に呼ばれて、職員室の奥の小さな個室に連れていかれた。


 部屋の中に入り椅子に座ると、監督が


「目が悪いのは分かるが、どうして部活に顔を出さないのだ」と言ってきて、私は堪えきれずに涙を流しながら病気の事を話した。


 監督は大きなため息をつき、私を見ながら


「そうだったのか、でも純子は推薦で学校に来ているから部活に出ないと学校を辞めさせられるかもしれない。

 俺が校長に話をしても良いが、試合には出られなくても今まで一生懸命に頑張って来たのだから顔ぐらいだせばいいじゃないか」と言われ、


「はい」と、頷いた。


 その日から部活に出るように為ったが、目はどんどん悪くなっていき大会には出られなくなり、


 監督に言われて、グランドの隅で1年生の体力作りや筋トレの指導をしていた。


 レギラーだった仲間達は広いグランドの中で、私の事など忘れているかの様に練習をしていた。


 みんなからは「純子が試合に出られなくなったから大変だよ。純子の分まで頑張って、絶対に私達は全国大会で優勝するから」などと言われて、

 そのたびに、笑顔を作り「頑張って」と、答えていた。


 でも正直、3年生の私達は今度の大会で引退する事になるので早く終わってほしいと言う思いがあり、そんな自分が嫌になっていた。


 そして、だんだんと目が見えなく為って行き、怖い、苦しい、つらい、悲しい、どうして私なの、私が何か悪い事をした。死にたいと、思うようになっていた。



 高校生活、最後の大会が始まり。


 地区予選を勝ち上がって全校大会に出場が決まり、決勝まで勝進んだ。


 私達の学校が3対1で勝っていて、後半が終わりロスタイム3分と掲示板に表示された。


 その時、監督がベンチに座っていた私の背中を強く叩き


「交代だ、行けるな」と言ってくれて、私は急いでグランドに向かった。


 グランドの中に入ると、応援席から大きな歓声が湧き上がり


「頑張れ、純子、頑張れよ」と声が聞こえ、グランドの中でも大きな声で


「あと3分だ、頑張るぞ」と、みんなが私に言うように大きな声を掛け始め、みんなの気迫が伝わってきた。


 私はグランドの中を走り、自分が出来る事を精一杯して、試合終了のホイッスルが鳴り、試合が終わった。


 みんなが私のもとに集まって来てくれ、みんなで抱き合い涙を流した。


 ベンチに戻り涙を流し喜んでいるみんなに、私が泣きながら


「ありがとう、ありがとう」と言い続けていると、監督がグランドからボールを持って私に近づき


「今日の試合で使ったボールだ、持って帰れ」と言って、私はボールを受け取り深く頭を下げて


「ありがとうございました」と言い、私の、最高のサッカー人生は終わった。





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