新天地へ 1
夏休みが終わり9月に入った頃、中学3年生になっていた私は母に進路の相談をした。
母と夕食を終え、リビングのテーブルでレモンテーを2人で飲んでいる時に「進路の事だけど、どうしよう。」と母に話かけると、
テレビを見ていた母が、私の顔を見ながら「あなたはロスに行くのよ。ロサンゼルス」と言ってきて、私が目を丸くしながら「アメリカの」と聞き返すと「そう、アメリカの」と、真剣な顔をしながら話してきた。
「お父さんが生きていた時に、お父さんと優の将来の事を話していて『もしも自分が死んだら、優の事はお前に頼む』と言われていたの。
でも、私にはコーチとしての才能が無い事を私自身1番分かっているから優の事を考えて、オリンピックで私と戦い、2位になったマリアの所に預ける事にした。もちろんお父さんが生きていた時に、お父さんとも話していた事だから。
あとは、優が良く考えて、決めなさい」と言われ、
私が「英語は」と聞くと、母は笑いを堪えながら「優はスポーツ万能だけど、勉強はね。なんとかなるんじゃない。」と言ってきて、私は「もう」と言いながら笑い、学校で流行っていた変顔を見せ、笑いを堪えていた母はお腹を抱えながら大笑いし始め、私も一緒に笑い転げた。
卒業式が終わり、3日後に大きなスーツケース1つとボストンバック2個を持って母とタクシーで空港に向かい、海外に行くのが初めての私は大きな期待と小さな不安で胸がいっぱいになっていた。
空港に着き、スーツケースとボストンバックを預けて、小さな鞄を1つだけ持って母とうどん屋に入った。
私がメニューを見ながら「少し高いね。」と母に言うと、母は「空港の中だから仕方がないよ。今日で日本食当分食べられなくなるかもしれないから好きな物をたのみなさいよ。」と言ってくれて、2人で天ぷらうどんを食べ、その後、少しだけ空港の中をぶらりと回り 母と別れて一人でチェックインカウンターに向かった。
別れ際に「がんばれよ。」と言われて、涙を堪え笑顔を作り、大きく頷き「うん」と、言った。
検査場に行き、小さな鞄の検査とボデーテックを終わらせ入国審査をすませて中に入ると免税店がいっぱいあった。
私は免税店の中には入らず、外から中を見ながら出発ロビーに向かい、ロビーの近くでスポーツドリンクを買ってロビー前に設置している椅子に座り、ゆっくりとスポーツドリンクを飲んだ。
しばらくすると「735便のお客様、搭乗手続きが出来ましたので・・・」と言うアナウンスがながれ、慌てて小さな鞄から航空チケットと取り出し、確認してから搭乗口に向かった。
搭乗口には沢山の人が並びはじめていて、外国人だらけだった。
飛行機に乗りチケットを見ながら席を探すと、前から37番目の窓際の席で、隣の席は空いていて、その隣に外国人の女性が座っていた。私は飛行機に乗るのが初めてだったので、うれしくて回りを見わたすと、客室乗務員も外国人ばかりで日本人の客室乗務員は1人だけしかいなくて少し不安になった。
しばらくして「まもなく離陸いたします。シートベルトをお締めください」と言うアナウンスが日本語で流れ、そのあと英語のアナウンスで何かを言っていた。私はドキドキしながら窓の外を見つめ、飛行機が空を飛ぶ所を見ていた。しばらく外の景色を見ていると、客室乗務員が前からカートを押して、両サイドの人に何かを話しながら何かを手渡していた。
客室乗務員がだんだんと近くづき、私の席の所で止り「chiken・fish]と言われて、何を言っているのか分からずに、おどおどしていると、それを見ていた隣の席に座っていた外国人の女性が日本語で「夕食を鶏肉にするか、魚にするかを聞いているのよ。」と教えてくれ、私は顔を赤くしながら「チキン」と答え、夕食を受け取った。
夕食をすませて、しばらくすると電気が消え、外を見ると何も見えなくなっていて、客室乗務員が配っていた毛布をもらい、眠りについた。
誰かに何か話かけている様な声が聞こえて、目が覚め
「お客様、間もなく着陸いたしますので、シートベルトをお締めください。毛布はお預かりいたします」と、日本人の客室乗務員に言われ、慌てて毛布を渡しシートベルトを締めた。
飛行機が空港に着き何処に言って良いのか分からずに、おどおどしながらみんなの後に着いて行き階段を下りると広い場所に出て、5つあるレールの右端のレールの上に沢山の荷物が回っていて、一緒に飛行機に乗っていた人達がそのレールを囲み始めたので付いて行った。私は、このレールに乗ったら面白いかなと思いながら、自分の荷物を取り、みんなが向かっている入国管理所に行き列に並んだ。
私の順番になって、パスパートを見せると、背が高く、かなり太っている外国人の男性が英語で何かを言ってきたので、あわてて翻訳機を取り出そうとしていると、[go・go]と言いながら出口の方を指で差され、私は慌てながら、出口に向かった。
出口を出ると外国人だらけで、廻りを見渡していると背が高く金髪で綺麗な女の人が大きな紙にローマ字でyuuと書いている用紙を持って私に近づいてきて「yuu]と、笑顔で話しかけてきた。
私が「マリア」と聞くと、その女性がゆっくりした口調で「eys、how are yuo」[はい、ごきがんいかがですか。]と言ってきて、私はマリアの青い瞳を見ながら、綺麗な人だなと思いながら「im fine thanks、how are you」[とても良いです。あなたわ。]と、聞き返した。
マリアは持っていた用紙を左腕の脇に挟み、右腕を前に突出し、握っていた親指を突出して「got[いいよ]」と笑顔で答え、私の持って来ていた大きなボストンバック2つを、両手で軽々と持ち「come go[おいで、行こう]」と言って歩き出し、私はあわてて持っていた小さな鞄を右肩にかけ、左手でスーツケースのとってを持って着いていった。