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ハース・メモリア  作者: カイショーナシ
王都に舞う砂塵
19/45

そうだ!身分証を作ろう

 聖剣イリニス


 かつて女神ウェスタが鍛え上げた最後の一振り。

 何時しかそれは魔剣と呼ばれるようになったという。


 死を呼ぶ魔剣と恐れられるようになった聖剣の本来の能力は


「封印・・・?」


「そうじゃ。イリニスの本来の力は封印、弱体化じゃ」


 かつて悪しきものとの戦いで最重要視されたのは、封印。


 その次が、もし万が一にでも可能であれば打倒だった


 リテルは言う。


 それほどまでに力の差があった、と。


「待ってください。リテル。アレは」


「そうじゃ、お主の先代が管理、手中に収めていた物じゃ。だから恐らく」


「そんな・・・」


 ウェスが目を伏せ、沈んだ表情になる。


「待ってくれ、状況が読めない。ウェスの先代が持ってたの?」


「はい。アレは・・・」


 ウェスは目を伏せ、しばし考えるような素ぶりを見せる。

 何かを思い出すような、そんな表情。


 俺は少し待つ。

 ウェスが言いにくいなら、待つ。

 言いたくないなら、聞かない。


「・・・ありがとう、トウヤ」


「何が?」


「・・・いえ。アレは、そうですね。私の先代がウェスタの子供たちの中で唯一誰にも管理を任せなかった一振りです」


「私は能力までは聞きませんでした。聞く前に・・・」


 ああ、そうか。

 話を聞くうちにウェスには何か親近感のようなものを感じていた。

 その小さな理由の一つが分かった。


「そうか、ウェスも」


「はい」



 大事なことを聞く前に、その相手が居なくなっている。



「・・・先代は、私の育ての親でもあり。姉であり。時に妹のようでした。彼女は私が戦争孤児になった時に拾ってくれたんです」


 ウェスタを次代に引き継ぐための候補としてではありましたが。と。


「戦争孤児・・・」


 世界ではありふれている言葉だ。

 だが、日本ではあまり聞きなれない。

 聞きなれたくはない、そんな言葉に思わず口をついてしまった


「はい。私がいた国では内乱が起き、子供だった私は国外へ」


 そこでウェスはふと、息を吐き立ち上がると、窓際まで歩いていく。

 すでに暗い外を見つめ、何かを思案している。

 室内の明かりに窓が反射してウェスの顔が見える。


 その顔は泣いているような、何かの不条理をかみしめ耐えているような。

 そんな表情で。


「そんな時でした。ある日先代は1カ月ほど私を置いて旅に出て戻らないことがあったのです。といっても、毎日のようにどこそこにいる、お土産は何を買った。そんな連絡が届いたので。私は心配どころかお土産への期待が膨らむだけでした」


「そして帰ってきたときでした。沢山のお土産の傍らにあの剣があったのは」


「先代は、コレがウェスタの子供たちだと、私に見せました」


 そこで言葉を切ったウェスは、こちらを振り向く。


「先代はその後、あの剣の研究を昼夜問わず行いました。それは契約者と共に朝昼晩と。私は、その契約者が手引きした何者かに先代が殺されるのを見てしまった」


「だから、契約しなかったんです。誰とも。いつか、あの殺人者をこの手で殺し、契約者も。その命を奪ったあの剣すら憎かった。あの剣をただ超えるために」


 ただ、積み重ねたと。


「でも、ある時リテルさんが私にあることを教えてくれました。最初は難しかったんですけど、その通りにやっていたら」


 わたしではこれ以上ないくらいの、本当の最高傑作が打てた、と。


「まあ、こんなことになってはしまいましたが」


 そう苦笑するウェスは、どこか、何か吹っ切れたようなそんな顔で。


「これからも、私を助けてください」


 右手を差し出してきたのだった





「さて、今後の方針じゃが」


 固い握手を交わした俺たちに、リテルから提案があるという。



「あれは少なくともワシたちだけでなんとかなる問題でもない。他の所在が分かっている“子供たち”の継承者のところに向かい、少なくとも協力は取り付けるべきだと思う」


 そうですね、とウェスが続ける


「少なくとも、あいつ等は私情を除いても放置はできません。それが伝説の悪しき者なら猶更です」


 そして、今度こそ。

 そんな覚悟が見える強い瞳だ。


「俺も。いや俺は、だな。行くよ」


 選択肢なんて最初からいろんな意味でない。

 でも、それだけじゃない。

 俺自身が選んだ選択肢だと、自らに刻むために宣言した。


 二人が笑いかけてくれる。

 ああ、この二人となら、きっと。

「・・・じゃあまずは明日の出立に備え、眠るとしようぞ!」


 ウェス、枕投げしよう!と部屋を出ていこうとするリテル。


 待てよ?


「リテル、もう一つ聞いていい?なんであの時屋敷に来たの?」


 やっぱり何かの勘とかだろうか?

 なんだか気になって問いかけただけなのだが。

 なんか目をそらしている。


「・・・いや、締まらない話なんじゃが」


 と、前置いたうえで


「トウヤにワシのコレクションを見せてやろうと思って、その、遊びに来たんじゃ。ウェスには何の断りもなく遊びに来ることはよくあるし」


 だから本当。

 偶々。

 マグレで助かったらしい。


「「「・・・・・」」」


 三人押し黙る。

 なんとも締まらない。

 それが俺たちなのかもしれないと思った。





「身分証明書を作ろう!」


 おー!と妙なテンションの俺たちは、屋敷を出てマケリテル魔道具店に来ていた。

 今後別の大陸に行く際に身分証は必須らしく、まずは身分証を発行しようとのこと。

 その為に必要なものを取りに来ているというわけだ。


 というのも、マンドシリカは統一言語の世界だが、国家間移動は海外に行くような物だ。

 この辺は向こうと一緒だな。


 戦争はしていないものの、魔獣の警戒や犯罪者を通さないために警戒は厳しい。

 身分証がなければ国を出ることも、入ることもできない。


 ・・・と、いうことなのだが。

 俺はこの世界の経歴がない。

 正規な方法では身分証の発行は難しい。

 だからウェスとリテルの伝手を頼るため、まずは王都アトレーシスという場所を目指すのが目標だ。


 ・・・テンションが妙な理由としてはまあ、リテルだ。


 “暗い空気を切り替えよう!”


 と、リテルが持ってきていた珍妙な怪獣が出る映画みたいなものを三人で見ることにした、所まではまだいい。


 コレクションを見始めたらツマミを食べたいと言い出したリテルの要望に応え、ウェスが作ってくれた。そしたら次は酒が飲みたいとなったリテル。そこも、まあいい。


 絵面が犯罪な気がするが、まあ300歳以上の年齢だから、と思って納得していたらウェスも飲み始め。

 ウェスは大丈夫っぽいからいいか?と静観していた俺は酔い始めた二人のターゲットになった。


 いや、肉体的には20歳なわけだから問題はないし、こっちは15歳から成人らしいからいいんだけどね?

 でもほら、なんか目が座ってじいちゃんの文句言って来るリテルとか見てたらさ。

 呑むのはまずい気がして遠慮してたわけで。


 そしたらウェスがね?


 隣であの井戸みたいな目をして「飲まないんですか?」って繰り返すの。

 どうしろと?

 断る度に目の圧力は下がる代わりに段々悲しそうな顔していくわけで。


 根負けした俺も酒を呑み・・・


 さっきまで、もけごん。シリーズとやらを変なテンションで見ていたのだ。


 でも。

 なんか、久しぶりに沢山笑った、そんな気がする。



「リテル。必要なものってなにさ?」


 店舗に入って10分弱。

 音沙汰のないリテルを心配して入店する。

 同じく外で待っていたウェスはこめかみを抑えて椅子に座ってしまった。


 まあ、仕方ない。


 そう思ったところで、リテルが出てきた。


「すまぬ、これを使うのは久々での」



 と、持っていたのは


「鍵?」


 車のカギのような何かだった。






 歩くこと数分。

 俺たちは覚えがあるコインパーキングのようなところに来た。


「ウェスの車はとんでもないことになったからの。ワシの車を出そうかと」


 そういいながらカギを指にひっかけてクルクル回すリテルを後ろから眺めながら、俺は興味をもった。


(リテルの車か)


 どうだろう。

 実は辛党のリテルだ。

 スポーツカーみたいなのとか。

 それか、オシャレな某大泥棒が乗っていそうなミニなクーパーみたいのとか。


 想像していると、今まで黙っていたウェスが声をかけてくる。


「トウヤ。多分、いえ。何でもないです」


 青い顔をしたウェスはそのままふらふらしながら隣を歩く。

 大丈夫なのか。


 しばし待っていると、手続きを終わらせたリテルが車に乗ってやってきた。


 ちなみに。

 さっきまで呑んでいた俺たちだが、この世界は飲酒運転の心配はない。

 ウェスの車だけが特別なわけでは無く、この世界の車全てが自動運転だ。

 魔導車は魔力を使って、ただ座るだけ。

 希望したところに気がついたら着いている。


 …でも、考えたら向こうの車ファンにはこの世界は地獄なのではないだろうか?



 などと、現実逃避する。

 今この目の前に現れたこれは酔ってみた幻覚、とかではないんだろうな。




「「・・・・」」


 なるほど。

 ウェスが微妙な顔をしていた理由が分かった気がする。


「二人とも待たせたの。さ、乗るといい」


 そこにはカタツムリみたいな見た目をした車が現れた。


 甲羅みたいな所には


【マケリテル魔道具店移動式出張車】


 とデカデカと書いてあったのだ。


 なんともリテルらしいセンスに逆に安心した俺は、苦笑しているウェスの手を引いて車に乗り込む。


「頼むよ、リテル」


「任されたのじゃ。行くぞ!」


 勢いの割には安全運転で車道に出た車から、この異世界の景色を楽しむ。

 さあ、目指すは王都だ。



 心配事、問題ごとはあるけれど、俺の心は弾んでいたのだった。
















「・・・・・」



 目を開ける。


 ここは?


「っ」


 痛みが走る。


 視線だけで体を確認すると、血がべったりとついてはいるが、怪我は見当たらない。


 “痛みは、どちらかと言えば・・・・?”


 体に力を籠める。

 魔力は、ある。


 “魔素”も取り込める。


 しかし、体は動かない。


「なんなのよ、これ」


 状況に軽く混乱するも、みょうちきりんな手紙が私の目の前に貼ってあるのが見えた。


 みょうな藻が生えた、えっと。

 何だろうこれ。


 そう思って視線を走らせると、よかった。

 字も書いてあった。


 内容は


「大人しくしとけ。死ぬぞ」


 だった。


 状況を読めない私は、妙な手紙に脱力しながらも、目を閉じる。


「・・・よく、わからないけど」



 ウェスはげんきかな



 そこで私の意識は夢に落ちる。

 私が私でないような、悪いことを沢山する夢。


 ああ、こんな。

 早く目が覚めますように



 彼女の夢が醒めるまで。


 まだもう少し






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