余談
目を開けた。
開けたというより、開いたのか。
なんて、この景色を見て思う。
のそりと起き上がると、天蓋がついた豪奢なベッドに白亜の壁。
段々と頭がはっきりする。
しっかりと起き上がり、壁をつたう。
とはいえ、足に力が入らない。
のそのそと歩き、窓から外を見た。
あの時は抜けるような晴天と、絶海の海。
差し込む光が心地よい、そんな日だった。
今は、曇天。
生憎の雨。
海も心なしか荒れているように見えた。
その時、立て付けの悪い扉を開くような音と共に、声が聞こえる。
「起きたかの」
いつも朗らかな笑みを浮かべる、亜人のリテルだ。
なんとなく、振り向く気になれない。
なぜか、リテルの顔が見辛いのだ。
「うん、おはよう。ウェスは?」
はあ、とため息をつく音が聞こえるも、すぐに教えてくれた。
「…部屋で塞ぎ込んでおる。お主が様子を見にいってやれ」
「そのあとは、作戦会議じゃ!」といつものリテルに戻ったかのように、明るくドタドタと階下に降りて行った。
「…」
空を見上げる。
去来するのは、ここに来てから怒涛の日々だったな、という思い。
まだ5日、いやもう6日目か?でこんな事になるなんて。
いや。
「ウェスの所に行こう」
頭をふる。
凹んでなんていられない。
この世界で生きると決めた以上は、問題に立ち向かわないといけないのだから。
そこで、はたと気がついた。
「俺、ウェスの部屋知らない…」
前途は多難。
俺はまずリテルの名を叫びながら、異世界生活って大変なんだな、と思い部屋を出る。
静かな波の音が室内にこだましていたのだった。
ハース・メモリア
炎と氷 始まりの終わり 完