ハル
私、遥香。友達からは「ハル」って呼ばれている。今年で28歳になる。
夏も、もう終わりに近づいていて、夜は涼しくなったし、上着を着ないでいると少し肌寒くなった。仕事して帰って来て、部屋の隅っこに座って1人泣く。泣くほど悲しい事なんてないけれど、泣いてまた次の日も仕事。そんな日の繰り返し。
改札を抜けて電車に揺られ、たまにお尻を触られて会社に着く。
痴漢された朝は当たり前だが機嫌が悪い。私は見た目が か弱いせいかよく被害にあう。面倒だから声は出さない。
一度、頭にきて捕まえた事があったが、そのせいで遅刻して上司にこっぴどく怒られた。痴漢で遅れたは、ウチの会社では認められないらしい。
だから私なりに考えた。電車の揺れに合わせて二度、三度。それが触れたら、ほぼそれだ。舌打ち一回。最初の警告。それでも続けば、バッグを利き手の逆に持ち替えて、少し横を向いて相手を確認。相手の真正面に立って、左手で右手首をグッと掴む。その掴んだ腕をゆっくりと前に出し、思い切り真後ろに入れる。肘先に感じるだらしない肉の感触と「ヴッ」という低い呻き声が聞こえれば終了。
それで許す。肘だけ入れる。それは必ず。私は、か弱い。