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黒い影

作者: tsubasa



 「私、少しだけ霊感があるんですよ。」

 後輩とそんな話をしたのは8月も終わりかけたある夕暮れのことだった。


 当時高校生だった僕は夏休みにもかかわらず、部活動のため毎日学校に登校していた。朝10時頃に登校して、部活して、19時頃に帰宅するそんな毎日だ。

 その日は夜に心霊特番が放映されるので、部活が終わったら早く帰ろうと思っていたのだが、帰る間際に顧問に雑用を押し付けられてしまった。用事があると言って逃げようとしたのだが、

 「お前の用事がホラー番組だってことは聞いてる。録画してあるんだろ。明日までだから頼むな。」

と、釘を刺されてしまった。口は災いの元である。


 ホラー特番に間に合わなくなった以上、途中からリアタイするのも許せないたちなので、引継ぎもかねて後輩も残らせて手伝ってもらうことにした。おとなしめな性格の女の子であまり接点もなかったため、作業の説明をした後はしばらく二人で黙々と作業をしていたのだが、


 「先輩ってホラー番組とかよく見るんですか?」


と声を掛けられた。


 「やってると見たくなるんだよね。別段得意なわけでもないけど。どんな現象が起きるのかに興味があって。」

 「へー。そうなんですか。」


 後輩はこっちを見て少しだけニヤッとして、

 「私、少しだけ霊感あるんですよ。」

 などと嘯いた。


 「それは初耳だな。」

 「そんなに言いふらすようなことでもないですしね。」


 視線はすでに書類に戻っているが、話は進めていいらしい。楽しみにしていたホラー番組の埋め合わせと言っては悪いが、部室で後輩とホラー談義としゃれこむのも悪くない。


 「それをここで打ち明けるってことは少しは怖い話に期待できるってことか。」

 「滅茶苦茶怖い話を期待されても困りますが、私が子供の時に体験した話をしてあげましょう。」

 

 と話しだした。


****************************************************************************************


 霊感があるといってもいつもはっきり見れるとかそういうレベルの話ではないんです。ただ、時々変なものが見える。これは私が小学生の時だった時の話です。ところで先輩は法事ってわかりますか?

 馬鹿にするな?

 いえ、馬鹿にしているわけではないです。この話を他の人にしたときに法事を知らない子がいたもので。話の本筋には関係ないんですが、念のため。

 

 小学2年生の時に母方の祖母の法事があって、実家に帰省したんです。実家は割と田舎のほうにあるんですが、その時はたくさん親戚が集まってててんやわんやしてました。親戚の人とかに一通り挨拶して、お小遣いとかもらったりして楽しかった思い出があります。実際は法事なんで楽しんだりするのは不謹慎なのかもしれないですけど、小学生だったので許してほしいですね。

 法事の支度とか子供なので大したことはできませんでしたが、手伝ったりして始まるまでは大変でした。お坊さんが実家にきて法事する感じだったんですが、法事が終わると厄払い?か何かでご飯食べるじゃないですか。今ならわかるんですけど、久しぶりに会った親戚同士で話こむから全然終わらないんですよね。誰々のところの子供はどこに嫁いだとか。子供がどこどこに留学してるとか。私は早々にご飯食べ終わっちゃって話す相手もいないから、母から家の周りでも探検してなさいって部屋を追い出されたんですよ。

 田舎だから家の周りなんで田んぼと畑くらいしかないし、外で遊ぶような性格でもなかったから、結局家の中を探検することにしたんです。子供だったせいもあるのか、実家がとても広く感じて、かたっぱしからふすま開けて全部の部屋を回ることにしました。

 壁一面に本が並んでる部屋とか、日本人形がずらりと並んでる部屋もありました。自分の住んでる家にはないものがたくさんあって、しばらく楽しく遊んでいたんですが、1部屋だけ鍵がかかってて入れない部屋があったんです。その部屋以外はすでに探検を終えていて最後の一室だったので、しばらくドアを押したり引いたり叩いたりしてみたんですが、開くはずもなくて、諦めて元の部屋に戻ろうとしてドアに背を向けたタイミングで。


 ぎぃー。


 って音がしてドアが開いたんです。今ならそんな胡散臭い部屋には入らないんですが、その時はドアが開いたことがうれしくて、一目散に駆け込みました。


 苦労して中に入った部屋でしたが、特に面白いようなものが置いてあるわけでもなく、本棚と勉強机、箪笥があるだけのつまらない部屋でした。苦労して入ったのでしばらくは本棚見たり、勉強机の引き出し開けたりしてたんですが、見るものもなくなったので部屋を出ました。それでドアを閉めようと思って振り向いたら、部屋の真ん中に真っ黒い人影がこっちを見下ろして佇んでいたんです。

 私てっきり部屋に人がいたのかと思ってびっくりして逃げちゃったんですけど、そのあと親戚がいる部屋に戻ってその話をしたら、その部屋は今は使ってないし、鍵もどこかに無くしてしまっては入れないんだって言われて...。

 すぐに親戚の人と戻って確かめたけど、驚いて逃げたから閉めたはずのないドアも締まってて開かず、親戚の人からは部屋を間違えたんだろうと言われたけど、ほかの部屋は全部見てるし間違えるわけがないんです。

 それにこっちを見ていた人影も部屋の中が暗いわけでもないのに、顔もどんな服装してるかも全く分からなくらいの本当に影って感じで。それに気づいたときに、もしかしたら幽霊とかそういうたぐいのものかもしれないと思いました。黒い影の正体は今でもわかりません。


 

******************************************************************************************


 「オチとかそういう盛り上がり部分がないんですが、これが私の初めての心霊体験です。どうでしたか?」


 あたりは日が落ちて暗くなり始めてる。作業ももうほとんど終わって片づけるだけだ。丁度いいタイミングで話が終わったようだ。


 「実際の体験にドラマティックな展開を求めるのは間違ってるとは思うが、もうちょっとなんかない?」

 「...今でもたまにその部屋の中で黒い人影に見下ろされる夢を見ますとかどうですか。」

 「えぇ.....。なにそれ怖い。」

 「あはは。」


 僕の反応に満足したのか、後輩は立ち上がって伸びをして、


「その感想を聞けただけでも話した甲斐がありました。」


 とほほ笑んだ。


 あたりはすっかり暗くなっていたが、無事に作業も終わり帰り支度を始めた。

 帰り支度をしてる最中に気になったことがあったので後輩に尋ねてみた。


 「その黒い影って小学生の時に見たのが最初で最後?そのほかの場所でみたこととかはないの?」

 「うーん。夢に出てくることはあるんですけど。ほかの場所ではないですね。実家も取り壊してるんでもう見れないかもしれないです。」

 「取り壊したのか。なるほどね。折角の霊感なのに見れないんじゃもったいないね。」

 「ほしいならあげますよ。」

 「お断りしておくよ。」

 「それは残念です。」


 いらんいらん。

 自分の後ろで首を吊ってる男の幽霊も見れない半端な霊感なんて。



お読みいただきありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

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