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なんやかんやで、マキが家に来てから11日が過ぎた。

あと3日の辛抱だ、とリョウは気合いを入れる。

あれからもマキは居候期間の延長を企み、リョウの暑いという一言を聞いて熱も無いのに布団に拘束し看病ごっこをし出したり、大して強くもないくせに晩酌に無理に付き合おうとしてカーペットに半分消化された夕食のコロッケをリバースしたりと、数々の生活妨害をリョウに加えてきており、リョウの堪忍袋は緒を切らすどころかとうに中身をぶちまけてしまっていたのだが、残り一週間あたりからカウントダウンを始めることで、これまでなんとか自分の中の殺意を抑えることができた。

我ながら頑張ったと思う。

今日もマキは、昼からだが大学に行ったようで、まだ帰ってきていない。なんだか最近妙に楽しそうだと指摘したら、変な友達が出来たと嬉しそうに話していた。あんな典型的なB型にも友達なんてできるのかと感心したものだが(ちなみにリョウもB型である)、迷惑な居候でも、楽しそうな顔を見るのに悪い気はしない。

憎らしさの中にも少しずつ可愛さを見つけ始めた居候のキャンパスライフを、少し羨ましくさえ思う。去年までは自分も同じ大学に通っていたのだが、それも遠い昔のことのようだ。

鏡を覗くと、無精ひげのオッサンが、死んだコイみたいな目でこちらを見つめていた。昔は野生の狼のように鋭い眼光を讃えられていたのに。

「………ヒゲでも剃るかぁ……」

ヒゲなど似合わないと笑い飛ばしたマキを思い出し、リョウはぽつんと呟いた。外見を気にしたのは何ヶ月ぶりだろうと考えて、マキに少なからず影響を受けてしまっている自分に驚く。

どうせなら理容師に整えてもらったほうがいいだろう、髪も切ってもらって、ついでに買い物もしよう、人数と共に消費量も増えた消耗品や、一昨日の晩酌騒ぎで飲みきってしまった酒、汚れたカーペットもこの際買い換えてしまおうか……と一日の計画を頭の中で立てながら、適当にジャケットを羽織り家を出た。

しばらく歩くと、やはり例のヤツの気配が、リョウを尾行してくる。もう10日くらいになるか。さすがにそんなにつけられ続けると、慣れのためかあまり気にならなくなってくる。あまり良い傾向とは言えまいが。

と、リョウは気付いて、立ち止まった。

ヤツがリョウをつけ始めたのがおよそ10日前、

マキがリョウの家に来てから11日。

「……これは偶然、か?」

ヤツに尋ねるように呟いたが、当然ながら誰も答えなかった。

「………ま、もうどうでもいいけど」

ヤツがマキの付属品だとしたら、それはそれでラッキーだと、リョウは思った。それならば、ヤツもあと3日で消えるのだ。

よくよく考えてみると全くラッキーではないのだが、そんなこと意にも介さないほど、今のリョウはなぜか妙に心が広いのだった。


「リョウさん、どっか行くの?」

もう日が暮れるというのに、出かけようとしているリョウに、マキは訝しげに問うた。

「ん、ちょっと。晩飯もいらないから、適当に食ってろ」

「んー、わかった」

昼間もでかけていたことにツッコミを入れないということは、リョウにとってこれが本日二度目の外出であることに、マキは気付いていないらしい。散髪に関して気付かないのは仕方なく、数センチ短くなったことにいちいち気付かれるのは逆に気持ち悪いと思っていたが、小綺麗に剃ったヒゲにもノーリアクションとは、どこか具合でも悪いのではないかと思った。

「ねぇ、リョウさん」

「ん?」

「お隣さんにさ、左隣ね。小学生の……多分2、3年生くらいかな?女の子、いる?」

「女の子?」

「そう。めちゃくちゃかわいい女の子」

めちゃくちゃかわいい男の子なら左隣に住んでいるが、彼はもう高校生だ。

彼のことはよく知っており、今から出かけるのも、実は彼やその友人たちに混じって遊びにいくのだが、家族のことは、何年経ってもまったく老けない化け物みたいな母親以外はよく知らない。

そういえば、2つくらい下に、妹だか弟だかがいるという話なら聞いたことがある気もする。しかし、歳の離れた妹の話は、彼からは一度も聞いたことがない。

「いや、知らないな、そんな子」

「うへぁ……」

マキは急に顔色を悪くして、見てはいけないものを見てしまったように、右手で目を覆った。

「どうした、変な声出して」

「そりゃ変な声も出ますよ、だってオレ、幽霊見ちゃったんだもん」

……………。

幽霊?

まさかとは思うが、そのせいで様子がおかしかったのか?

リョウは少しだけショックを受けた。思い切ったリョウのイメチェンは、幽霊にインパクトで負けたのだ。

「だってさぁリョウさん、マジで見たんだよ!隣の家の窓からちょっとだけ覗いててさ、手振ったりしても全然反応しないしさ、んで、一瞬目離したら、ぱっと消えちゃってさぁ!!」

「………ハイハイ」

「あっ、信じてないだろう!ホントだよ?二回も見たんだから!」

「そーか、よかったなぁ」

「よくないよおぉぉおぉ!!」

小学生の女の子の霊とやらに震えるマキを無視して、リョウは家を出ることにした。

すぐに隣の家の美少年と合流し、その友人数人とカラオケに行ったところまでは覚えているのだが、それ以降の記憶は、正直曖昧である。

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