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ミミックの日常  作者: 本の繭
パンドラ編【短編】
8/50

スライム




 2階層【平凡な平原】



 ダンジョンにスポーンしてずいぶん経つ。

 今日は誰も来ないな…あー暇。


 しばらくしたら歩き回ろうかな。


「…」


「?」


 野生のスライムがこちらを見つめている。

 とち狂ってお友達にでもなりに来たのかな?


「…」


 スライムは僕の宝箱にすり寄ってくる。

 邪魔だな…冒険者に怪しまれるだろ。


「おい…どっか行け」


 僕は宝箱から出てスライムを振り払う。


「げ!自我のある上位ミミックがいるぞ!」


「に、逃げよう!」


 あ、しかも最悪タイミング!

 せっかく冒険者が来たのにバレちゃったよ。


「このスライム…」


「?」





「…」


 スライムはずっとこっちを見てる。

 邪魔だからステルス状態で移動したのに、必ず僕を見つけて寄ってくる。


 ………お昼ご飯でも食べよ。

 今日はタマテがお弁当を作ってくれた。


 げ…ニンジンが入ってる。

 残すとうるさいんだよな。


「…」


 このスライム、お腹でも空いてるのかな?


「はい、ニンジン」


「♪」


 スライムは喜んでニンジンを消化した。





「ほら、取ってこい」


「!」


 魔力濃度の低い魔石を投げて、スライムに取ってこさせる遊びをしている。


 もういい。

 今日はこのスライムをからかって一日を過ごすんだ。


「…」


 スライムはちゃんと放り投げた魔石を僕の元に届けてくれた。


「よし、よく取って来たぞスラっち」


「♪」





 スラっちの好物ってなんだろ。

 スライムはなんでも消化するけど、味覚はちゃんとあったはず。宝物コレクションにある果物や酒は流石に勿体ないからな…


 お、りんごがあった。

 これなら喜んで食べるだろう。


 よし、スラっちの様子は…


「おらー!」


「よし、スライムは倒したぞ」


 スラっちは冒険者の攻撃を受け、粉々に飛び散っていた。


 ………


 スライムみたいな最弱モンスターは淘汰されて当然だ。

 どの道、長生きなんて出来ないんだよ。


「これで安心して宝箱を開けられるな」


 スラっちを討伐した冒険者パーティーが、僕の宝箱に手をかける。





 ちぇ、大した物は持ってなかったな。

 今日の収穫はいまいち…なんか気分の悪い一日だった。


 帰ってやけ酒だ。


「…!」


 誰かが僕の宝箱に体当たりをしている。

 ま、まさか…


「スラっち!?」


 スライムは元気よく飛び跳ねている。


 本当にスラっちか?

 魔法で調べてみよう。


“鑑定”


――――――――――

スライム(スラっち)

レベル 5


ユニークスキル“再生”

――――――――――


 これは驚いた。


 スライムは個体によって様々なスキルを習得しているが、死んでも自己再生して復活するスライムを見るのは初めてだ。

 しかもこのスライム、スラっちであることを認めてる。


「…」


「…」


「はい、りんご」


「♪」


「もう帰るけど………僕はランダムでダンジョンに現れる。もう会えないかもしれないぞ」


「…」


「でもスラっちが不死身だっていうなら、その内会えるかもな」


「!」


「じゃあね」


「♪」


 僕はスラっちの頭をポンポンと叩いてダンジョンから離脱した。次に会う頃にはどれだけ成長しているか、ちょっと楽しみだな。

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