スライム
2階層【平凡な平原】
ダンジョンにスポーンしてずいぶん経つ。
今日は誰も来ないな…あー暇。
しばらくしたら歩き回ろうかな。
「…」
「?」
野生のスライムがこちらを見つめている。
とち狂ってお友達にでもなりに来たのかな?
「…」
スライムは僕の宝箱にすり寄ってくる。
邪魔だな…冒険者に怪しまれるだろ。
「おい…どっか行け」
僕は宝箱から出てスライムを振り払う。
「げ!自我のある上位ミミックがいるぞ!」
「に、逃げよう!」
あ、しかも最悪タイミング!
せっかく冒険者が来たのにバレちゃったよ。
「このスライム…」
「?」
※
「…」
スライムはずっとこっちを見てる。
邪魔だからステルス状態で移動したのに、必ず僕を見つけて寄ってくる。
………お昼ご飯でも食べよ。
今日はタマテがお弁当を作ってくれた。
げ…ニンジンが入ってる。
残すとうるさいんだよな。
「…」
このスライム、お腹でも空いてるのかな?
「はい、ニンジン」
「♪」
スライムは喜んでニンジンを消化した。
※
「ほら、取ってこい」
「!」
魔力濃度の低い魔石を投げて、スライムに取ってこさせる遊びをしている。
もういい。
今日はこのスライムをからかって一日を過ごすんだ。
「…」
スライムはちゃんと放り投げた魔石を僕の元に届けてくれた。
「よし、よく取って来たぞスラっち」
「♪」
※
スラっちの好物ってなんだろ。
スライムはなんでも消化するけど、味覚はちゃんとあったはず。宝物コレクションにある果物や酒は流石に勿体ないからな…
お、りんごがあった。
これなら喜んで食べるだろう。
よし、スラっちの様子は…
「おらー!」
「よし、スライムは倒したぞ」
スラっちは冒険者の攻撃を受け、粉々に飛び散っていた。
………
スライムみたいな最弱モンスターは淘汰されて当然だ。
どの道、長生きなんて出来ないんだよ。
「これで安心して宝箱を開けられるな」
スラっちを討伐した冒険者パーティーが、僕の宝箱に手をかける。
※
ちぇ、大した物は持ってなかったな。
今日の収穫はいまいち…なんか気分の悪い一日だった。
帰ってやけ酒だ。
「…!」
誰かが僕の宝箱に体当たりをしている。
ま、まさか…
「スラっち!?」
スライムは元気よく飛び跳ねている。
本当にスラっちか?
魔法で調べてみよう。
“鑑定”
――――――――――
スライム(スラっち)
レベル 5
ユニークスキル“再生”
――――――――――
これは驚いた。
スライムは個体によって様々なスキルを習得しているが、死んでも自己再生して復活するスライムを見るのは初めてだ。
しかもこのスライム、スラっちであることを認めてる。
「…」
「…」
「はい、りんご」
「♪」
「もう帰るけど………僕はランダムでダンジョンに現れる。もう会えないかもしれないぞ」
「…」
「でもスラっちが不死身だっていうなら、その内会えるかもな」
「!」
「じゃあね」
「♪」
僕はスラっちの頭をポンポンと叩いてダンジョンから離脱した。次に会う頃にはどれだけ成長しているか、ちょっと楽しみだな。