ミミック会①
50.5階層【魔獣窟】
ミミック会。
それはミミックだけが集まるミミックのためだけの集会だ。ダンジョンでの出来事やミミックならではの体験談など、ダンジョン生活に役立つ情報をみんなでシェアしている。
とは言っても参加者は女子四人だけ。
酒と食べ物を囲って愚痴を話し合うだけの飲み会だ。
ここは知性を得るまで成長したモンスターが集まる隠れ街、魔獣窟。本日の店は僕が指名した居酒屋“酒池肉林”で集まっている。
「それじゃ、今日もお疲れさま~」
「「「かんぱ~い」」」
まずはキンキンに冷えたビールを一気飲み。
「っは……うま~」
この一杯のためにミミックをやっている。
「お待たせしやした~枝豆、三種の漬物、シーザーサラダ、ピリ辛ポテトフライ、チーズ唐揚げ、刺身の盛り合わせで~す」
注文した料理が次々と運ばれてくる。
僕らミミックの金の使い道は食べ物だけだ。物欲は買うのではなく冒険者から奪って満たす、それがミミックの習性なのだから。
「相変わらずパンドラさんの飲み会は女子力低いですね~」
対面にいる桃髪のミミック、シュレがビールを呑みながら苦笑する。
「僕はジャンルに特化した店より、メニュー豊富な定番居酒屋のほうが好きなんだよ」
「確かにメニューが豊富だとワクワクしますよね~」
そう言いって唐揚げを口に含むシュレ。
「ねぇねぇ聞いてほしいのだーパンドラー!」
左隣からハイテンションで騒ぐ赤髪のミミック、ヒウチが僕の肩を揺らす。
「宝箱だとベテラン冒険者がかかってくれないから、今日は器を壺にイメチェンしてみたのだ」
「へぇ、どうだった?」
「アイツら迷わず壊しにかかってきたのだ!」
「そりゃそうだ」
何故か知らないけど冒険者は壺を見つけると、覗くのではなく割る。高く売れる豪華な壺を使って誘惑しても確実に割る。
冒険者の不思議な習性だ。
「壺を割るのも冒険者の使命なんですかね~?」
「なんだそのサイコパスは!?たちが悪いのだー!」
「私のターゲットは初心者なので、小細工なしでも面白いくらい引っかかりますよ~」
「余は商人のような大物を釣りたいのだ!何とか新しい作戦を考えねば…」
ミミックによってターゲットはそれぞれ、シュレやヒウチも狙いを定めている。各々の実力に合わせて階層を決め、程度に合った冒険者を捕まえて生活費を稼ぐ。
僕は特にターゲットを決めてないからランダムでスポーン階層を決めてるけど。
「パンドラは…どんな冒険者を狙っているのです…?」
「ん?」
右隣の黒髪ミミック、タマテが漬物をポリポリと食べながら僕に問いかける。
「パンドラなら…誰でも食べれるでしょう…だから、どんな人がターゲットなのかと…」
「気分だよ。冒険者なんて世界に溢れてるから、気まぐれで目についた冒険者を捕食してる」
「実は前に、妙な噂を冒険者から聞きまして……ミミックが暴漢から助けてくれたとか…ミミックのお宝で母親が救われたとか…ミミックが奴隷の鎖を噛み砕いてくれたとか…」
「…」
「この世には…お優しいミミックもいるんですね…」
タマテは僕を見て、お上品に手で口を覆いくすくすと笑っていた。お見通しか…まったくどうなっているんだ、タマテの情報網は。
僕らモンスターは人の敵。
そんな僕が何故哀れな冒険者に情けをかけるのか。それは、とある約束が僕の中に残っているからだ。