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ミミックの日常  作者: 本の繭
パンドラ編【短編】
44/50

ミミック会➈




 50.5階層【魔獣窟】



 定期的に行われるミミック会は外食が基本だけど、今回は僕らミミックの拠点で宅飲みすることになった。


「前に冒険者から旨そうな酒を奪ったのだ」


「私もレアな食材を手に入れました~」


 ヒウチとシュレが食べられる戦利品を取り出す。

 冒険者から奪うお宝の中には、食材や酒なんかを手に入れることがある。だからある程度食材が溜まったら、店に行かず拠点で仲間たちと振舞い合ってるんだ。


「簡単な前菜を用意しましたよ…」


 その食材をタマテが美味しい料理に変えてくれる。下手な店に行くよりも、こうしてタマテに調理してもらった方が旨いものが食える。


「今夜のメインディッシュは、皆さんの食材を持ち寄った闇鍋です…」


「闇鍋って…」


 タマテは料理上手なんだけど、たまに変な創作料理を出す時がある。そうなると旨いか不味いかは五分五分だ。


「あ、そうだ」


 僕もアイテムボックスから食材を取り出した。


「タマテ、これも焼いてくれ」


「それは…何かの尻尾ですか?」


「古龍の尻尾肉だ。かなり美味しいと本人は自画自賛してた」


 前の飲みでファーブニルから貰った尻尾肉。なくなった尻尾は数秒で元通りに生えてくるから、実質食べ放題だ。


「…」


 タマテは受け取った肉を見て困り顔だ。


「古龍って、あの最上階にいる大ボスだよな?」


「そ、そんなもの食べて大丈夫なんですか~?」


 ヒウチとシュレも困惑している。

 別に魔物肉なんていつも食べてるのに…やっぱり強大な力を持つ生物の肉だから、それなりに抵抗あるのかな。


「取りあえず調理してみますね…」


 タマテは肉を持って厨房に向かった。


「みんなってやっぱり、僕みたいに強大な力を持つモンスターは怖いか?」


 料理ができる間、ヒウチとシュレに聞いてみた。


 …別に怖がられても気にしないぞ。

 だって僕は最強の力を持つミミックなのだから。


「そりゃ古龍は怖いが…パンドラは別に怖くないぞ」

「ええ、パンドラは怖くないですよ~」


 二人はあっさりとそう答えた。


「待てよ、僕ってそんな無害に見えるのか?」


 それはそれでなんか嫌だぞ。


「パンドラは無自覚で環境破壊とかしないだろ」

「他の大ボスさんと違って謙虚ですしね~」


 二人はまったく僕を怖がっていなかった。

 なんだか拍子抜けだな…


「どうぞ…シンプルに塩のみで焼いてみました、古龍肉のステーキです…」


 話している途中、タマテが焼いた肉を食卓に運んできた。

 まず僕から毒見してやろう。


「…なんだ、旨いじゃん」


 鳥のような香り。

 魚のような触感。

 牛のような甘み。

 豚のような脂身。


 全ての要素が混然一体となった不思議な肉だ。

 自画自賛するだけあってかなり美味しい。


「ほんとだ、旨いぞ!」

「シンプルながら奥の深い味ですね~」


 僕が食べたことを確認してから、ヒウチとシュレも古龍肉を味わう。


「話は聞こえていましたけど…残念ながらパンドラは、私たちを恐怖させるものを持っていません…」


 タマテは鍋の準備をしながら話に加わる。


「だって僕は超越者だぞ?」


「確かに強大な力は恐怖の対象になりますが、パンドラは私たちを力でどうこうするつもりはないのでしょう…?」


「そりゃないよ」


「なら警戒することはありませんね…」


「…」


 強大な力を有していても害がないなら警戒しないってことか。多分だけど人間だったら、そんな単純な理屈では済まないだろう。


「それに私たちは初期のパンドラを知っているので、何があっても怖がりませんよ…」


 急にタマテは過去の話を持ち出してきた。


「…あの頃の話はやめろ。酒が不味くなる」


 僕の過去なんて黒歴史でしかない。

 こう見えて僕は集まったミミックの中で一番若いんだ。ファーブニルとの出会いはまだいいとして、初めて魔獣窟に行った時なんて…思い出すと頭を抱えたくなる。


「パンドラにもあんな時期があるんだから、考え深いよな」

「初対面のパンドラさん、可愛かったですよね~」


 やめろと言っているのにヒウチとシュレは僕の話題で盛り上がっている。


 くっ…やっぱり舐められてるみたいで癪だぞ。

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