大いなる力には大いなる責任が伴う
99階層【古龍の宝物庫】
ここはこの世のあらゆる宝物が保管されている宝物庫。そんなダンジョンに住まうモンスターは、神よりも先に誕生したのではないかと言われるくらいずっと昔から存在している。
ボス“古龍”ファーヴニル
レベル ?
固有スキル【消滅魔法】
その古龍はモンスターの頂点に君臨していた。どうしてそんな最強モンスターがこんなダンジョンの最上階を根城にしているのか、その理由は誰にも分からない。
「…」
古龍ファーヴニルはある日、根城で侵入者の気配を感じた。
ファーヴニルは宝を狙って宝物庫に侵入する生き物には容赦しない。宝を守ろうとするその習性は、ミミックに通じるものがある。
「何者だ?我の宝物庫に足を踏み入れる愚か者は」
ファーヴニルは侵入した生き物を睨みつける。
「…ここは、お前の住処なのか?」
その侵入者はどこにでもいるモンスター、ただのミミックだった。だがファーヴニルは一目でそのミミックが普通ではないことに気付く。
(なんだこのミミック…力の底が見えぬ。まさか我や奴と同じ“超越者”だとでもいうのか!?)
成長するという能力は生物にしか与えられず、生まれた時から完成されている神にはない可能性だ。そんな生物の中で神の力を超えるほどに成長を遂げた存在がいる。
それが超越者だ。
その強さはレベルなどの数値では測れない。
自分と同格のモンスターを前にファーヴニルは身構えた。
「…ごめんなさい」
すると驚くことにそのミミックは、強者とは思えないほど躊躇いなく頭を下げてきた。
「僕、まだダンジョンの生き方…よく分からない。間違えてここに、スポーンした。すぐ別の場所に移動する」
ミミックは謝罪をしつつこの場から立ち去ろうとする。
(このミミック…これだけの力を有していながら、まだ自我が芽生えたばかりのモンスターだと?いや、そんなはずはない。こいつは何者かによって力と意思を託されているはず)
何もかもが異常なミミック。
その生き物をファーヴニルは野放しに出来なかった。
「待て」
ファーヴニルはミミックを引き留めた。
「貴様に問う…生物の命をどう捉えている?」
「…どういう意味だ?」
「命と同等の価値は何だと聞いている」
強大な力を手に入れた生物は、生き物としての理を外れ異常な価値観を持つことがある。もしこの超越者の思考が破綻していたならファーヴニルは黙ってはいられない。このダンジョンに害を成すモンスターなら、ここで処理しなければならない。
「…」
しばらく考えたミミックはこう答えた。
「命より大切なものなんて、何もない」
目の前で賢者を失ったミミックにとっては、それが揺るがない結論だった。
「ほう…」
その回答を聞いたファーヴニルは、このミミックを消す必要はないと判断した。
「貴様、行き場がないならしばらくここに住め。我が知恵を授けよう」
「知恵?」
「そうだ、強大な力を有する貴様には教えなければならないことがある。大いなる力には大いなる責任が伴うということをな」
「責任…そんなの、まだ分からない」
「生物として最も大切なこと、それは命を重んじることだ。貴様も我と同じ“超越者”ならば、命に対する向き合い方を誤ってはならない」
「…」
こうしてまだ幼いミミックは賢者から生き方を学び、ファーヴニルから超越者としての責任を学んだ。
※
そんな未熟だった時期が、僕にもありました。
「おーい、ファーヴニル」
久しぶりに古龍の宝物庫に訪れた。
ここには様々な宝物があり、そのどれもが超貴重品だ。僕もいつかこれくらいの宝物庫を所有したいな。
「パンドラか、久しいな」
巨大な黒竜であるファーヴニルは器用に首を曲げて目線を僕に合わせる。
「何か用か?」
「大した用じゃないんだけど、前に貰った酒を飲んだ。すごく美味しかったぞ」
「そうか…貴様ももう一人前の酒飲みだな」
「そのお礼じゃないけど、伝説の勇者からお酒を貰ったんだ。一緒に飲まないか?」
「ほう、奴と接触したのか」
ファーヴニルは意外な反応を見せる。
「あの勇者を知っているのか?」
「そういえば言ってなかったな。この世に生きる“超越者”と呼ばれる生物は我とパンドラと、あの伝説の勇者の三体だけだ」
「超越者ね…」
最強の力を有する超越者…いわゆるチート的な存在だ。今だから言えるけど、一歩間違えれば僕も前に倒した魔王みたいになっていたかもしれない。
だからこのファーヴニルと賢者には感謝しているんだ。
「話は変わるがパンドラよ。貴様には同種の仲間はいるか?」
ファーヴニルは酒を呷りながらそう尋ねてくる。
「…いるけど」
「そうか、いらぬ心配だったな」
「急にどうしたんだ?」
「強者とは恐れられ、常に孤独なものだ。だから仲間は大事にしろ」
「…」
僕よりも引きこもりの古龍から、そんなことを言われるとは思わなかった。
でも…改めて考えるとどうなんだろう。
いくら同種のミミックでも、タマテたちは僕のことが怖くないのかな。明日は恒例のミミック会の日だから、ちょっと聞いてみよう。




