表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミミックの日常  作者: 本の繭
パンドラ編【短編】
42/50

召喚獣パンドラ




 人間界テミスタ【最後の村】



 今日のランダムスポーンで向かうダンジョンはどこかな。


「…」


 どこだここ?

 薄暗くてじめじめした密室で、床や天井には魔法陣が描かれている。そして目の前には、黒いマントを羽織った人間がいた。


「そんな…ただのミミックを召喚してしまうなんて。この召喚術が最後の希望だったのに…」


 人間は僕を見て落胆していた。

 展開が唐突すぎて状況が飲み込めないけど…僕はミミックだ。予期せぬ事態でも冷静に分析してやろうじゃないか。


 まずここはダンジョンではなさそうだ。そしてこの状況…まさか目の前の人間は、召喚儀式を発動させて僕を呼び出したのか?でもおかしいな…僕を召喚するために必要な契約や触媒なんて存在しないはず。


 目の前の人間に、詳しく話を聞く必要があるな。


「おい、お前。僕に何をした」


「…あなたは私が召喚したのです」


「なんで僕を召喚したんだ?」


「あなたを召喚するつもりはありませんでした。この世界を変える可能性を秘めた生物を呼ぶつもりだったのです」


「なんでそんなことを…」


「外をご覧ください」


 人間は部屋に付いている窓のカーテンを開く。


 …これは酷いな。

 街は廃墟、空は赤紫色、目に入る生物はレベル一万を超えるモンスターばかり。ここが人間界なら、滅亡の一歩手前の状況だ。


「この世界は狂った魔王によって滅ぼされてしまいました。生き残った人類は私を含めて百人弱、大地の九割は毒に浸食され、もう人類は滅亡を待つしかありません」


「なるほどね。それでお前はこの召喚術で、助けを呼ぶつもりだったのか」


「ですがこの“運否天賦の召喚”は失敗に終わったようです…ただのミミックを召喚してしまうなんて」


「…」


 これはいわゆる召喚事故だ。

 本来なら僕が他人の術式に干渉されることはない。でも僕がランダムスポーンでダンジョンに入る時、偶然この召喚術式のパスが繋がってしまったんだ。


 はぁ…こういう事故が起きるから、ランダムスポーンって欠陥だらけなんだよね。それが面白くもあるから使ってるけど。


 …


 仕方ない、ここに僕が召喚されたのも何かの縁。それにガチャのハズレモンスター扱いされるのは屈辱だ。


「報酬はある?」


「え?」


「この世界を変えられる可能性を秘めた生物を呼び出すつもりだったなら、それなりの贄を用意しているだろ。どんな物を用意したんだ?」


 タダ働きは癪だから、何か報酬を用意させよう。


「…捧げものとして私の命と、この村が栄えていた頃に作られた名酒を用意しました」


「ほう」


 人間の生贄には興味ないけど、酒とは気が利いている。


「どれ………うん、旨いな」


 際立った個性はないけどいつまでも飲みたくなる味だ。もしこの世界が再び繁栄すれば、この酒をたくさん飲めるかも。


 だったらこの世界を救ってやる価値はある。


「さて、世界を立て直すのは大変だぞ。まずはその魔王に会ってみよう」





 僕は徒歩で魔王城に到達した。


 そもそも魔王はどうして世界をこんなにしてしまったんだろう。魔王だって知的生物だ、何らかの目的があって世界を征服しているはず。


 …と、思っていたんだけど。


「なんだこりゃ」


 魔王の住処である城は崩壊していて廃城になっていた。生物の気配も感じないし…何がどうなっているんだ?


 そしてついに魔王の御前に到着した。

 

「お前がこの世界の魔王か」


「…smjfk」


 玉座に座る魔王は、言葉にならない声を発している。目も虚ろでどう見ても正気じゃない。


「まさか、自我がないのか?」


「…djpvk」


 ………


 この世界には勇者が存在しない。

 目の前の魔王には正気がない。

 人類には夢も希望もない。

 世界を監視する神と天使の気配もない。


 誰の目から見ても、この世界は破綻している。どうしてこんな世界が生まれてしまうのか…これもルナが言っていた、ロキって奴の悪影響なのかな。


「はぁ…また汚れ仕事か」


 こんな精神の壊れた奴を救うには、命を絶つしかない。

 哀れ魔王…安らかに眠れ。

 

“神突く”


 僕のオリジナル魔法で魔王の命を終わらせようとしたが、驚くことに魔王には通用しなかった。


 初級魔法が駄目なら、中級魔法を使うまで。


“神砕く”


 この魔法はキエルベーキで星を破壊した時に使用した魔法だ。こいつを受けて耐えられるモンスターなんてそうはいない。


「あれ、これも効かないか…」


 だが魔王の強さは常軌を逸脱していた。

 こんな強大すぎる力を手に入れてしまったから、魔王の精神は壊れてしまったのかもしれない。


「今、解放してやる」


 こうなったら本気だ。

 久しぶりに上級魔法を使ってやる。




“神千切る”




 この魔法により、魔王の首は床に落ちた。




「………あrがt」




 ようやく魔王は絶命し、魂が天に昇っていった。


 上級魔法が通用してよかった。

 最上級魔法は疲れるから使いたくないんだよね。


「とにかく、これで脅威は去ったな」


 後はこの世界に跋扈する害獣を軽く駆除して、環境の立て直しはルナとポメリアに任せよう。


 ………


 大いなる力は生物としての道を踏み外す要因になる。強大な力を持つ者の責任、僕はその意味を古龍から教えてもらった。


 そういや最近会ってないな。

 明日にでも酒を持って挨拶に行くか、このダンジョン最強の古龍さんに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ