追放系
16階層【スケルトンの墓】
「お前は追放だ」
ダンジョンでの出来事。
パーティーのリーダーらしき人物が、支援術士にそう告げた。
「ちょっと待ってくれ!どうして急にそんなことを…」
当然、支援術士は理不尽な命令に抗議する。
「急にだと?お前、どうして自分が追放されるのか分からねえのか?」
リーダーはすごい剣幕でまくし立てる。
「お前の支援魔法なんて全然大したことないだろ。しかも自分に支援魔法をかけられないから前衛の俺らが守らないといけない、欠陥支援術士だろうが!そもそも強くなった俺らに支援魔法なんてもういらないんだよ」
リーダーの言葉に他のパーティーメンバーが頷く。
「だ、だけど…」
それでも支援術士は引き下がらず説得を試みる。
「言い訳なんて聞きたくねえんだよ!この期に及んで往生際が悪いぞ!」
リーダーに取り付く島はない。
「今まで使ってやっただけでもありがたく思いやがれ。じゃあな、給料泥棒」
そう言い残してパーティーは支援術士を置いて行ってしまった。
その後…追放したパーティーは僕の餌食となり、テンプレの如く落ちぶれていくのだった。
※
95階層【堕天使の集落】
「ていうやり取りを前に目撃したんだけど」
ここは太陽光に照らされた、自然豊かな庭園のダンジョン。僕みたいな陰険モンスターに似つかわしくない場所だ。
僕は紅茶をすすりながら、目の前の天使に目撃した追放劇を話した。
「…それが、どうかしましたか?」
こいつは95階層のボス、ルナエル。
神界から“創造の書”を盗み、堕天使となって地上に降りた神界の裏切り者だ。堕天したということで翼は黒く染まっているけど、綺麗な肌と金髪は変わらない。
「追放の経緯がよく分からなかったんだ」
「経緯と言いますと…?」
「僕の目から見て支援術士の魔法は一級品だし、強さも60層に通用する実力者だった。その支援に気付いていないパーティーメンバーが不自然だし、なんで命を預けて冒険する仲間の実力を把握してないんだよ。後衛である支援術士を守るのが前衛の役目なのに、守らなきゃいけないとか文句言ってるのも意味不明。それと追放する前にまず支援術士抜きで戦闘を行い、どれだけ支援魔法に助けられていたか試すべきだ。強くなったから支援魔法なんてもういらないとか、ダンジョン下層で何をほざいてんだ。それで支援術士にも問題があって、どうして自己主張を怠ったのか。いくら実力と素質があっても、自分の力を周囲の人間に納得させられる才能がないのは致命的だ。あれでは高い能力も持ち腐れ…ただの無能と変わらない。それにダンジョンに挑む動機も軽薄だし、パーティーに固執する理由も分からない。どう見ても頭が空っぽ…」
「も、もういいですパンドラ。言いたいことは分かりましたから!」
ルナエルは耳を塞ぐ。
「意味わかんなかったから、人間の生態に詳しいルナの意見が聞きたいんだ」
生物の一生を管理する元天使で、固有スキル“全知全能”を有するルナエルはありとあらゆる答えを知っている。あの知的生物とは思えない言動にも答えが出せるはず。
「…私はあらゆる英知を得ていますが、預言者ではありません。そして人間とは簡単に測れるほど単純な生き物ではなく、だから天使は人々を観測しているのです。良くも悪くも予測不能、私はそんな人間が大好きです」
「へぇ、天使らしい意見だね」
「ですが最近の神々は、レールを敷いて意のままに人間を操ろうとします。恐らくその集団は敷かれたレールを歩かされているからこそ、不自然に知性を欠いた行動をとらされてしまったのです」
「なるほど…神は人の心がわからないからな。人間の命を玩具にするなんて、神界の秩序はどうなってるんだ?」
「今の神々は“ロキ”と呼ばれる神に影響を受け、歪んだ世界を作り人間の一生を弄ぶことが流行っています。私はその神界に変革をもたらすため堕天したのです」
ここで初めて、ルナエルが堕天した動機を知った。
「ふーん…別にいろいろな人間や世界があってもいいと思うが」
僕はあの追放劇を否定するつもりはない。
ああいう人間の愚かなやりとりを見物するのは、ダンジョン生活の楽しみでもあるし。ただ…もうちょっと知的生物らしいやりとりをしてほしい。
「私も最初はそのように考えていました。ですが“キエルベーキ”など、極端に非道な異世界があることも事実です」
そう言ってルナエルは目の前に球体を生み出した。
これは…星、異世界か。
「私は今、尊い人々の営みを創造しています。私が堕天したのは、多くの神々から注目を得るためです。この世界を神々に見せ、ロキが作った悪影響から解放させる…それが私の使命なのです」
「へぇ~」
狂った神界を変えるため、一人で戦う叛逆の堕天使ルナエル。
それにしても…そのロキって奴のせいで、人間レベルの低い異世界が次々と生まれているのか。僕の手でどうにかするつもりはないけど、名前だけは覚えておこう。




