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ミミックの日常  作者: 本の繭
パンドラ編【短編】
40/50

ミミック会⑧




 50.5階層【魔獣窟】



 今日もミミック会は開かれる。

 店は僕が指名した居酒屋“酒池肉林”だ。


「それじゃあお疲れさま~」


「「「かんぱ~い」」」


 ヒウチ、シュレ、タマテのいつもの四人でグラスを重ねる。


 そして本日の料理は焼き鳥の盛り合わせだ。

 ここは大したことがない居酒屋だが、なんと炭火を使っている。だから焼き鳥や焼き魚からは炭の良い香りがする。


 ビールと焼き鳥…シュレやタマテの店も悪くはないが、僕はこじゃれた酒と料理よりもこんな組み合わせの方が好きだ。


「危険なダンジョン生活の中でも…こうして、みんなで新年を迎えられましたね…」


 タマテは静かにジョッキを傾ける。


「ああ、もうそんな時期か」


 じゃあ今日の集まりは新年会でもあるんだな。

 新年を祝う習慣なんてなかったから気付かなかった。


「そこで…本日の話題は私が提供します…」


 するとタマテがゆっくり手を上げた。


「久しぶりに皆さんの最近手に入れたお宝を見せ合いましょう…」


「お、いいな。久しぶりにやるか!」


「もちろんいいですよ~」


 タマテの提案にヒウチとシュレが乗っかる。


 お宝自慢大会か…たまにやるんだよな。

 僕らミミックは冒険者から奪ったアイテムがステータスになる。どんなお宝を手に入れたか見せ合いっこして自慢することも楽しみの一つだ。


「余はこのオリハルコンなのだ!この大きさはなかなか手に入らないぞ」


「私はこのロザリオです。このアイテムを装備すれば、闇魔法を無効化できるんですよ~」


「私は…この木槌です。叩いた物の大きさを変えられるんですよ…」


 シュレ、ヒウチ、タマテは順々に自らのお宝を披露する。どれも珍しくて有用なレアアイテムばかりだ。


「それで、パンドラのお宝はどんなのですか…?」


 次は僕の番か。

 みんなから期待の眼差しを向けられる。


「…僕が見つけた宝はこれだ」


 宝物コレクションから、前に80階層で手に入れたマップを取り出す。これは僕にとって紛れもない宝物だ。


「これは地図ですね……あら?書きかけのようですが…」


 見る目のあるタマテは、すぐこのアイテムの欠点に気付く。

 この地図は79階層までの地図が大まかに書かれているだけの未完成品だ。きっとダンジョンを制覇した後、しっかり書き込むつもりだったのだろう。


「もし完成してたら見事だったが、未完成品ではな」


「素材ならともかく、未完成の品は果たしてお宝なのでしょ~?」


 ヒウチとシュレの反応は微妙だ。


「確かにこのマップはアイテムとしては未完成品だが、一個の命の終着点だ。伝わってこないか?このマップに込められた強い想いと魂が」


 みんなに伝わるよう、この宝の価値を解説した。


「…やっぱりパンドラって変わり者だな」


「…不思議な感性を持ってますよね~」


 だが誰も分かってくれない。

 やっぱりか…


「じゃあこれで満足か?」


 僕はボックスからアイテムを取り出し、それをテーブルに放り投げる。


「この石…もしかして、賢者の石ですか…?」


 タマテはすぐその石がもつ性質を見抜く。

 それは世界中のあらゆる術の知識が詰まった結晶、賢者の石だ。使用すれば不老不死が手に入ったり、世界を亡ぼせる大魔法が発動できる。


「これこれ!これこそがお宝なのだ!」


「わぁ~流石パンドラさん、すごいお宝ですね~」


 その石にヒウチとシュレが食いつく。


「マップの時とはえらい反応の違いだな…はぁ」


 僕はこの石を宝と認めていない。

 こんな引きこもりの魔術師が作った石っころなんかに賢者なんて名前を付けるなっての。魂はこもっているけど、欲望の塊みたいな醜い執念が詰まっていて気色悪い。


「わかってるよ、僕の感性は他のミミックやモンスターとは違う。変わり者の異常者さ」


 今更だが僕は普通のミミックではない。

 物心がついてすぐ人間の賢者なんかに意思を託されれば、正常なミミックでいられるはずがない。


「ふふ…でも私は、独特な個性のパンドラが好きですよ」


 そう言ってタマテは微笑む。


「別に慰めてくれなくてもいいよ、気にしてないし」


 僕は変わり者だけど、そんな自分を気に入ってもいる。

 けど…同じ価値観を持つ仲間がいないのは少し寂しい。このマップを賢者に見せたら、きっと共感してくれるだろうな。

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