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ミミックの日常  作者: 本の繭
パンドラ編【短編】
39/50

書きかけの地図




 80階層【時を乱す砂丘】



 また80階層に来てしまった。

 しかもここは…かなり厄介な階層だ。ただの殺風景な砂漠の空間にしか見えないけど、ここに足を踏み込んだ生物はあっという間に老いて死ぬ。


「体が成長してる…」


 普段の僕の体格は人間年齢で例えるなら十代半ばくらいだけど、ここに来たら急に体が成長して大人の体格になった。


 この階層は時間の流れがめちゃくちゃなんだ。


 場所によって時の流れが早かったり、遅かったり、止まってたり、巻き戻ったり……体の成長から見て今は一秒で十年は進んでるか。


 恐ろしい空間ではあるけど…所詮は初見殺しのダンジョン。


「こっちの空間に入れば時が巻き戻るな」


 少し移動すると、僕の体格が元に戻った。

 魔眼を持っていればどの空間でどう時間を刻んでいるかすぐ分かる。この空間の八割近くは時の流れが早くなっているから、上手く時間の穴を経由していけば死ぬことはない。


“付加・不老”


 そんな面倒な動きをしなくても、歳をとらなくなる魔法で身を守ればどの空間に入ろうが時間の影響は受けなくなる。他の手段としては時魔法を使用して相殺させたり、不老不死の実を食べておくかだ。


「ま、そんな能力をもつ生物なんて数えるほどしかいないけど」


 慢心して80階層に挑む冒険者の大半は、ここで一生を終えることになる。


「それにしても、ここも相変わらず殺風景だな~」


 空は驚くほど真っ白、地面には風化して塵となった残骸が砂漠のように広がっているだけ。生物はこの環境に適応した“時魔”と呼ばれるモンスターのみ。


 前に行った88階もそうだけど、80階層は環境が劣悪だから風景に味気がない。正直言って面白くない、つまらない。


「うーん…やっぱり80階層には手を加えるべきかな」


 もうちょっと環境を整えて難易度を下げれば、冒険者も足を運んでくれるかも。でも勝手に環境を変えたら、八岐大蛇とかに怒られるかな…


「ん?」


 そんな砂漠の中に一体の死体が埋まっていることに気付いた。偶然にも時が止まっている空間に行きついたようで、原型を保てている。


 死体を漁るのは趣味じゃないけど…少し素性を探ってみよう。この空間で形のある物と巡り合うのは滅多にないことだ。


 どれ、まずこいつの死に際の末路を覗いてみるか。


“記憶読み”





 二人組の冒険者。

 一人は目の前で老衰している人間の男。もう一人は長寿であるエルフの女。


「俺は…もう駄目だ…老化で足が動かない…」


「そんな…しっかりして!」


「俺を置いて…逃げてくれ…エルフの君ならまだ動けるはずだ…」


「あなたを置いて逃げるなんて出来ない!」


「頼む…君だけは生きてくれ…」


「でも…!」


「もういいんだ…この書きかけのマップと共に…俺の物語は終わりだ…」


 二人は恋仲だったのだろう。


 エルフの女は多少の寿命を犠牲にしてこの階層から脱出することが出来たみたいだけど、男はここで力尽きた。





 悲惨な末路だな…といっても、このダンジョンで命を落とす冒険者はもれなく悲惨だけどね。


 僕は死体が抱えている鞄の中を探ってみる。


「これがこいつの言っていた書きかけのマップか」


 鞄の中にはダンジョンの1階層から79階層までのマップが書かれた紙束が詰まっていた。なるほど…この冒険者はマップを書きながらこのダンジョンを制覇するつもりだったのだろう。


 だがその道も半ばで事切れてしまった。

 この書きかけのマップは、この男の人生を体現したような代物だ。


 …僕は滅多にアイテムを“宝”と称さないが、このマップは宝物と呼ぶにふさわしい逸品だ。


「この未完成のマップ、僕の宝物コレクションに加えておこう」

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