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ミミックの日常  作者: 本の繭
パンドラ編【短編】
38/50

大ボスへと至るには




 88階層【瘴気の海】



 ダンジョン上層、80階層。


 その階層の難易度は文字通りレベルが違う。

 70階層に生息するモンスターのレベルは10000を超えない程度だけど、80階層に生息するモンスターの平均レベルは100000を超える。


 生息するモンスターも強大だが、環境も厳しい。

 普通の世界に比べ重力が10倍くらい重く、空気も薄い。しかも空気中に漂う魔力の濃度が異様に高いせいで、並みの生物なら吸い込んだだけで内臓が潰れてしまう。

 おまけにここは猛毒と瘴気を放つモンスターの巣窟“瘴気の海”だ。大ボスであろうとも長時間この空間にいれば毒に侵されてしまう。


 こんな高難易度のダンジョンに挑む冒険者は稀も稀。来たとしてもミミックに騙されるような弱者はほとんどいない。


 つまり僕らミミックがここで活動しても無意味。


「観光しようにもここは殺風景だし、見所がないんだよな…あと臭いし」


 仕方ない、一度離脱してまた再スポーンしよう。


「ん…貴様、もしかしてパンドラか」


 通りすがりのモンスターに話しかけられた。

 こいつは確か…


「八岐大蛇か…久しぶりだね」


 八つの首を持つ大蛇、八岐大蛇(やまたのおろち)

 どこかの世界からやってきた妖怪系のモンスターで、実力はかなり強く神と対等に渡り合えるくらいの妖力を秘めている。こいつは毒に強い耐性があるから、この環境に適応している。


 八つの首があるから八岐大蛇なんだけど、今は六つしかない。


「夕尾に斬られた首はまだ完治してないのか」


「むう…この傷が癒えたら、次こそは奴から大ボスの座を奪ってやる」


「80階層にいるボス連中は野心に溢れてるな」


 八岐大蛇の首を斬ったのは、97階層【九尾の都】の大ボス“妖魔王”の夕尾だ。


 ダンジョンに住む強いモンスターは大ボスの座を狙っている。

 八岐大蛇だけではない。他にもブラックドラゴン、ベルゼブブ、ケルベロスなどの強大なモンスターが80階層に縄張りを作り、息を潜めて力を蓄えている。


 僕はそのボス同士の戦いを欠かさず観戦しているんだ、暇つぶしで。この八岐大蛇も大ボスの座と“妖魔王”の称号を狙い、数年前に夕尾を倒すため97階層に進軍した。


 結果は惨敗、八岐大蛇は首を何本か斬られ撤退した。


「あの狐が持つスキルは見切った…次こそは勝つ!」


 八岐大蛇はやる気になっているが…


「そっか…夕尾のとこで作られる清酒、気に入ってたんだけどな。もし夕尾が敗けたら飲めなくなるのか」


 大ボスが敗ければその階層を追われ、今まで発展させた住処を奪われる。そうなると九尾の都特産の酒や料理が食えなくなる。

 それは少し寂しい…


「我が大ボスになった暁には、パンドラに特製の八塩折之酒をご馳走する。だから許せ」


「いや…許せも何も、別に僕の許可なんていらないよ。争うなら勝手にすれば?」


 夕尾が敗ければ九尾の都の酒が飲めなくなるけど、そんなことで僕は腹を立てたりはしない。所詮僕らは弱肉強食の中を生きるモンスターなのだから。

 それなのに八岐大蛇はジト目で僕を見る。


「そう言うが、このダンジョンに生きるならパンドラを不機嫌にさせてはいけない…それは常識だ。パンドラに喧嘩を売ったボスが次々と消えていった話は有名だぞ」


「そんなこともあったな…」


 若い頃の僕は苦労してたんだ。

 ミミックごときが偉そうだとか、騙すだけのモンスターは恥だとか、そんなくだらない理由でよく80層のボスに喧嘩を売られてた。仕舞いには僕の持つ宝に手を出そうともした。


 二、三体くらい返り討ちにしたらボス共も大人しくなったけど。


「僕はミミックとして、宝を狙う奴らを返り討ちにしてるだけ。気に入らないからって理由で生物を襲ったりはしないよ」


「本当か…?」


「本当本当」


 夕尾とは長い付き合いだけど、もし大ボスの座を追われても仕方がないこと。弱肉強食は僕らモンスターが守るべき自然の摂理なのだから。

 それに八塩折之酒ってのもどんな味か気になるし…


「…ていうか八塩折之酒って、お前が神に負けた要因になった酒だろ。なんで懲りずに飲んでんだよ」


「うむ…あの味が忘れられなくてな」


「反省してないな?」


「馬鹿にするな、我も学習している。酒は飲みすぎなければ毒にならないとな」


「…」


 こいつが大ボスに成長するのは、まだ先の話になりそうだ。

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