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ミミックの日常  作者: 本の繭
パンドラ編【短編】
36/50

ミミック会⑦




 人間界メグリアーテ【セルディア王国】



 本日のミミック会は過去に例のない人間界で行われた。


「まさか人間界でお酒を飲むことになるなんて~」

「本当にパンドラは何でもありなのだ」

「うふふ…いつもと違って新鮮ですね…」


 シュレ、ヒウチ、タマテは人間の姿で揃っている。

 人間に化ける魔法を教えたら、みんなすぐマスターしてくれた。流石は騙すことに特化したミミック種のモンスターだ。


「ここが女性に大人気のスイーツ店“美酒の甘園”です」


 そしてこの飲み会の幹事は、人間界の勇者だ。

 僕は前に勇者から依頼を受け学園の教師を務めた。その報酬として最高級の甘い物をご馳走してくれるということで、せっかくだからミミック仲間も誘うことにした。


 因みにこの店は勇者権限で貸し切りとなっている。

 偽装しているとはいえ僕らはモンスターだからね。


「このチーズケーキにはお好みのカクテルをかけて味わってください。フルーツにコーヒー、様々なカクテルがケーキの味を変化させてくれます」


 この店の食べ方は難儀だから勇者が逐一解説してくれる。


 チーズケーキに赤いカクテルをかけ、スプーンですくって一口。

 おお…酸味が効いて旨い。


「チョコにはブランデー、ティラミスにはラム酒。他にも甘い物とお酒を組み合わせたデザートはたくさんありますよ」


 酒と甘い物は合わないと思っていたけど、こういった組み合わせもあるのか。このメロンにブランデーを注ぐやつとかも食ってみたい。


「勇者、このお酒はどう飲むのだ?」

「それはニコラシカといって…」


「私も飲んでみます。勇者さんって女子力高いですね~」

「いや、この店はうちの女子たちが気に入っているだけで…」


 他のミミックたちもいい感じで勇者と打ち解けている。ハーレム勇者の魅了はモンスターにも通じるってことか?


「さて…ほどよく酔いも回ってきたところで、質問いいですか…?」


 ワイングラスを手にしたタマテが手を上げる。


「勇者様とパンドラの馴れ初め…聞きたいです…」


「そ、そういう関係ではありませんよ」


 勇者が慌てて否定している。

 変な誤解が生まれる前に人間の勇者には説明しておくか…


「そもそも僕らミミックに恋愛感情とかないぞ」


「え、そうなのか?」


「だってミミックは空になった宝箱が突然変異によって生まれるモンスターだ。他の生物みたいに発情して繁殖する種じゃない」


 恋愛感情とは子孫を残すために起きる生物の習性だ。繁殖能力のない僕らミミックに恋愛という概念はない。 


「まあ生殖器っぽい部位は付いてるから、快楽目的ならそれなりに…」


「パンドラさん!食事中に卑猥な話はダメですよ~」


 シュレが腕でバツを作っている。

 食事中の猥談はNGね。


「ていうかタマテ、そのこと知ってるだろ」


「でもあると思います…人間とモンスターによる禁断の愛…」


「少なくとも勇者とミミックにはないだろ」


 タマテは僕に何を期待してるんだか。

 でも他の人間とモンスターなら可能性はあるのかな…難しいテーマだ。


「それにしてもパンドラが人間の先生になるなんて、人の世も末なのだ」


 ほろ酔いのヒウチがくすくすと笑っていた。

 他のミミック仲間には学園での出来事を全て話している。


「返す言葉もありません…だが、悪い方には考えていない」


 勇者は真っ直ぐな目で僕らを見る。


「人間、異種族、モンスター…その全ての生物が和解し、争いのない世界を作ることが俺の目標だ。今日の集まりも俺の野望の小さな一歩と認識しています」


 勇者はまだ共存を諦めていなかった。

 僕を人間の学園に招いた真の狙いは、人間とモンスターとの距離を縮めることだったのか。


「ふーん……精々がんばれ」


「…否定しないのか?」


 勇者が僕の反応を見て意外に思う。

 前は全否定したからな…


「相変わらず大それた野望だとは思うけど、不可能ではないんじゃない?」


 伝説の勇者と会い、前のミミック会で僕の考え方は少し変わった。

 ミミックは自分の小さい箱の中で理想の世界を作り、勇者は全世界を理想の世界に変えようとする。生物としての考え方はそれぞれだ、お互いそういう生き物として認めればいい。


 否定したところで、それはエゴの押し付けだ。

 もうそんな不毛なことは止めよう。


「ふふ…」


 勇者は僕を見て嬉しそうに微笑む。


「なんだよ」


「いや、パンドラさんに認められたことが嬉しくてな」


「……お前もしかして僕のこと好きなの?」


「好きだぞ。友としてな」


「誰が友だ」


 どうやら僕は厄介な勇者に気に入られたようだ。


「では勇者さん、私ともっと親睦を深めましょ~」


 酔っぱらったシュレが勇者に絡んでいる。

 あのニコラシカという酒、かなり酔いやすいみたいだ。


「その距離の縮め方は急すぎますよ!」


 勇者は顔を赤くして抱きつくシュレを引っぺがそうとする。


「お持ちかえりするために強い酒を進めたのか…流石は勇者、抜かりない」


「違う!何故パンドラは俺に変態イメージを定着させようとする!?」


 こうして勇者とモンスターの飲み会は大いに盛り上がった。

 次にやる時は伝説の勇者を誘ってみようかな。

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