学園無双
人間界メグリアーテ【セルディア王国】
ここは前に訪問した人間界だ。
勇者や伝説の勇者が生活してて、ダークヒーローが転生予定の異世界でもある。
そしてこの世界には、子供を育てる組織“学園”が存在する。
というか異世界なら必ずあるよね。
ダンジョンが存在するこのご時世、剣術や魔法による護身術は必須だ。他にも魔術、歴史、法律などを継承し長い歴史の中で繁栄を保っている。
とても理に適った組織だと思う。
この学園で特質したものは“勇者クラス”と呼ばれるクラスがあることだ。現役の勇者様が直々に戦い方を教え、ダンジョンから溢れるモンスターの脅威と戦うエリートクラスだ。
「おーいお前ら。席に着け」
勇者が教室に入り、勇者クラスの生徒に声をかける。
「えーっと…今日は特別講師を招いている」
勇者の言葉に教室がざわつく。
あの勇者が講師として人を招くんだ、どんな英雄か賢者が来るのか期待が高まるだろう。
「こちらが異世界から来た、賢者パンドラさんだ」
「…」
勇者に呼ばれ、僕は教室に入った。
「また勇者先生が女性の知り合いを増やしてきたぞ」
「綺麗な人…でも若い、同い年くらいかな?」
「勇者先生の紹介なんだから、すごい賢者なんだよね」
まだ若い生徒たちの話し声が聞こえる。
………
どうしてこうなったかって?
じゃあ過去回想しようか。
※
ケーキバイキングとは良い文化だ。
「甘い物うまーい」
安い金で甘い物が食べ放題。
なんと贅沢なシステムを生み出してくれたんだ、人間よ。
「なあパンドラさん、頼みたいことがあるのだが」
この店を紹介してくれた勇者が僕に話しかけてきた。
こいつとは今でも敵対関係なのだが、お互いに戦意がないのだから戦いも起きない。前に再会してから、こうして魔獣窟にはない人間界の甘い物を紹介してくれる。
「…名乗った覚えはないんだけど」
「君の名前くらい、ちょっと調べればわかる」
名前バレしたか。
別に隠してないからいいけど、情報源が気になるな。
「唐突だがパンドラさん…俺が教師を務める学園で、一日講師をやってくれないか?」
「はぁ?」
何を言うかと思ったら…
前から無自覚だったが、ついにボケたか?
「今度、俺が担当するクラスでダンジョン上層に挑む。だが生徒の中にちょっと問題のある奴がいてな、君の力でその性根を叩き直してほしい」
「なんで僕が…」
「適任だと思って」
「モンスターが適任なわけないだろ」
勇者の卵の指導にモンスターを起用するなんて正気とは思えない。この勇者が何を考えているのか今だに謎だ…もう心読んじゃおうかな。
「一日だけでいいんだ、頼む!」
勇者の表情は真剣だった。
うーん…
「…報酬は?」
「最高級の甘い物をご馳走する」
「………」
甘い物で女を釣るとは流石はハーレム勇者、汚い。
ていうかこの勇者はモンスターに対して気を許し過ぎなんだよ。あっちにいる勇者パーティーもそうだし…
「…あのミミック、なんでこっちに来てんの」
「勇者様と仲良さそうですね」
「私も、あのミミックさんに挨拶したい」
勇者パーティーである魔法使い、僧侶、元獣人奴隷の三人も普通に僕を受け入れてる。僕ってそんな無害に見られてるのか?
「…はぁ」
人間界の学園って組織も噂でしか聞いたことないし、見聞を広める意味でも行く価値はあるか。
※
こうして僕は人の姿になって、一日教師としてこの学園にお邪魔している。
「それでは今日の魔法演習を始める。各自、的に向かって魔法を放て」
勇者の指示で生徒たちと共に学園の訓練場に移動した。
的当てね…これで訓練になるのかな。
ドカーン!
すると、一人の生徒が超火力の魔法を放っていた。
「おい、威力は抑えろといつも言ってるだろ!」
「え?これでもかなり抑えたんですけど…」
勇者が注意しているが、魔法を放った生徒は反省の色なし。問題のある生徒はこいつか…こういうのが無自覚でダンジョンを荒らしたりするんだよな。
ダンジョンの人間レベル向上のため、修正せねば。
「そこの少年、この的を壊して見ろ」
僕はアイテムボックスから案山子を取り出して的に配置する。
この案山子はただの案山子じゃないぞ。
「…」
少年は上級の爆発魔法を案山子にぶつけた。
だが案山子は壊せない。
「こ、壊れない…!」
「未熟だな」
僕は初歩の火魔法を案山子に向けて放つ。
すると案山子は一瞬で灰になった。
「そんな小さい魔法で!?」
「魔法はただ強い威力を放てばいいというものではない。ダンジョンにはこの案山子のように、弱点属性で急所を突かないと倒せないモンスターがウヨウヨいる」
「…」
「それとお前は魔力にムラがあり過ぎる、手加減できないのは魔法が下手な証。もっと初級魔法の練習をして精密な魔力操作を覚えた方がいい」
「は、はい!」
僕の指導を真剣に聞く生徒。
根は真面目なんだな。
「…この世界は、神からスキルとか職業を与えられる世界じゃないんだな」
生徒たちを観察して思ったが、こいつらには神気を感じない。
「この広い世の中には、生まれてすぐ神様から力を貰える世界があるんだよね…羨ましい限りだ」
勇者はそう言ってるけど…
「羨む必要はないよ」
「え?」
「神から与えられた職業やスキルに頼る世界は、技術や文明が発達しない幼稚な世界になる。神共はそれに気付かず破綻した世界を作ってるんだ」
「随分とスケールの大きい話だな」
「それにあのダンジョンには神性を無力化する“神性無効”のスキルを持つボスがいる。神の加護持ちの奴らはどう足掻いても勝てないぞ」
「そんなボスがあのダンジョンに…!?」
おっと…少し喋り過ぎたか。
まあでも、この世界がダンジョン大ボス共の逆鱗に触れることはないだろう。この世界には神が与えた不正がないのだから。
※
「我は貴族だぞ!図が高いわ!」
「俺の方が成績優秀だし、実力主義だろ」
廊下を歩いていると口論に出くわした。
「無礼者が…なら私と決闘しろ!」
「別にいいよ?どうせ俺が勝つ」
傲慢な貴族と実力ある騎士の喧嘩か…
「そこの教師、決闘の手続きをしろ!」
貴族の方が僕を見つけて命令してくる。
決闘をするには教師の許可が必要なんだっけ。
「却下」
だが僕は拒否した。
「貴族ならもっと寛容になれ、感情任せに暴れてるとすぐ没落するぞ」
「う…」
「そっちのお前も、何でも力で抑え込もうとするな。ろくな人間にならないぞ」
「ぐ…」
僕の指摘に二人は押し黙る。
やっぱり素直だな、ここの生徒…人間ってこんなに素直だっけ?
「やはりパンドラさんに頼って正解だったな」
後ろにいた勇者が僕を褒める。
「こいつら、俺が注意しても全然言うこと聞かないのに」
「ふーん……もしかしたら、僕が持つ賢者のスキルが影響しているのかも」
言葉とはそれなりの立場や権力があってこそ、その発言に力と重みが宿る。
この人間界では僕の発言力なんて皆無だと思っていたけど、さっきの生徒といい僕の言葉には言霊のような力が宿っているようだ。賢者から貰った力にはまだ謎が隠されているんだな。
「なあ、その賢者のスキルは…」
勇者が何かを言いかけたが、目の前に女子生徒の集団が現れた。
「パンドラ先生って独身ですか?」
「彼氏とかいるー?」
「もしかして勇者先生の恋人!?」
魔法のことかと思ったら、色恋沙汰の話か。
ミミックの僕には縁遠い話だ…
「僕はこの勇者の性奴隷だから、そんな関係は作ってないよ」
「!?」
説明するの面倒だから適当に設定しよう。
「…勇者先生ってやっぱり変態なんですか?」
女子生徒はドン引きしていた。
「やっぱりって何だよ!違うから!」
「最近勇者パーティーに加入した人もやっぱり奴隷…?」
「この人もあの子も奴隷じゃないから!おいパンドラ、ちゃんと弁解してくれ!」
勇者が必死になって僕に詰め寄ってくる。
「あいつは元奴隷だっただろ」
「いやそうだけど…!」
女子生徒は更にドン引きしていた。
「うわー勇者先生やらし~」
「だから違うんだー!」
…賑やかな連中だな。
でも、ここは僕が聞いてきた学園のイメージと違った。
異世界の学園とはもっと貴族が幅を利かせ、才能がない者は蔑まれ、転生者が好き勝手に暴れる殺伐とした組織だと聞いていたから。この異世界の秩序はしっかりしているし、例外なのかな。




