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ミミックの日常  作者: 本の繭
パンドラ編【短編】
33/50

転生したらモンスターだった系




 6階層【底なし沼】



 薄暗い沼の森。

 そこに、一匹の蛇が出現した。


「………」


 モンスターが生み出されるなんて別に珍しい現象じゃない。

 ここは100階層もあるダンジョンだ、毎日数千体以上のモンスターが勝手に誕生する。原理とかいろいろあるけど…まあそれは説明しなくてもいいか。


「…?…?」


「…ん?」


 目の前で生まれた蛇の様子がおかしい。

 感情のない無知なモンスターの反応ではない…なんか自分の現状が理解できずおろおろしている感じだ。


「おい」


「…!」


 声をかけると、明らかな反応を示している。

 珍しいな…生まれてすぐ自我が芽生えるモンスターなんて初めて見た。


“言語習得”


 僕はスキルで蛇に言葉を与えた。


「これなら話せるだろう」


「………あ、あ」


 発声練習をする蛇。


「あ…あなたは?」


「僕はミミックだ。お前は?」


「えっと、人間です。名前は…」


 人間?

 何をとち狂ったこと……僕は箱から鏡を取り出す。


「どう見ても蛇だろ」


「………え?」


 蛇は鏡に映る自分の姿を見て茫然としていた。

 この反応…まさか。


「お前、元人間の転生者か?」


「転生…者…?」


「覚えていないか?自分が死んだ時のこと」


「………」


 しばらく考え込んだ蛇はハッとする。


「そうだ!私は道路で子供を庇って…そのままトラックに…」


 やはり転生者だったか。

 人間は死後、様々な運命を辿る。天国か地獄に行ったり、異世界に生まれて勇者になったり、神に拾われて玩具にされたり、モンスターに転生したり。


「お前は人間界で命を落とした。そして記憶を保持したままモンスターに転生したんだ」


「な、なんでモンスターに?」


「知らない、神の気まぐれだろ」


「そんな…」


 蛇は落ち込んでいる。

 人間として不慮の事故死を遂げ、転生したら薄暗いダンジョンで蛇になっていた。人間からしたら最悪の状況だな。


「諦めてモンスターとして生きろ」


「…」


 蛇は弱々しく俯きながら僕を見る。

 そんな目じゃ蛙も怯まないだろう。


「その…助けてくれたりします?」


「…」


 この蛇…転生者だけど特質した力はないようだ。

 ここは下の階層だから強い冒険者やモンスターはいない。でも転生したてのこいつでは、狙われたらひとたまりもないだろう。


「…いいよ」


「え、いいんですか!?」


「元人間でも、今は自我のあるモンスターだ。モンスター仲間として親切にしてやろう」


「ありがとうございます!」


 蛇はぺこりとお辞儀をする。


 とはいえ何をしてやろう。

 取りあえず鑑定してみようかな。


「えっと…お前が転生したモンスターはナーガ種だな」


「ナーガ?」


「上半身が人、下半身が蛇の魔物さ」


 モンスターの到達地点は人型になることが多い。

 僕のようなミミックだって人型になるし、大ボスの中にも人型になって進化を終える奴が数体いる。


「では…いつか人間の姿になることも…?」


「上半身だけな」


「…それだけでも、何とか希望が持てます」


 頑張れば人に近い生物になれるんだ、これは元人間にとって希望になる。


「…このスキルをやろう」


 僕はこの蛇に三つのスキルを与えた。


“毒液”

“気配遮断”

“脱皮回復”


 蛇の長所を生かせる無難なスキルだ。

 弱いスキルだが使いこなせば、この階層でなら生き残れる。


「まず9階層にある“つどい亭”っていう酒場を目指せ」


「つどい…?」


「人間とモンスターが利用する酒場だ。隠されているから見つけるのに苦労するだろうけど」


 この6階層から9階層まで到達する、それがこいつに与える試練だ。

 甘やかしてチートスキルを与えると人間はダメになる。無難なスキルで苦難を乗り越え弱者の気持ちを知れば、立派なモンスターに育つ。


「そこの店員に“パンドラに紹介された”と言えば親切にしてくれる」


 後のことはつどい亭の連中に丸投げしよう。

 世話焼き好きなあいつらなら転生したモンスターなんて珍しい生物、頼まなくても面倒見てくれる。


「ありがとう…」


「礼を言うのは生き残れてからにしろ」


「いえ…蛇になってお先は真っ暗ですが、こんな親切なミミックさんに会えて幸先は明るいです」


「…親切なミミックがいるとか、変な噂広めるなよ」





 久しぶりに一人でつどい亭で酒を飲んでいる時。


「あ、ミミックの人」


「ん?」


 前に見かけたナーガの転生者と出くわした。


「…大きくなったな」


 もうあの頃の小さい蛇ではない。

 太さは大蛇レベルにまで成長していた。まだ上半身は人間に至ってないけど、もう一人前のモンスターだ。


「モンスターとしての生活は慣れたか?」


「ええ、最初は戸惑いましたが今では慣れたものです」


 ナーガの転生者は尻尾を器用に利用して酒を飲んでいる。


「今なら君に一杯奢る余裕もありますよ」


「ほう、それならお前を助けた甲斐があったな」


「飲み倒れるまで付き合います」


「蟒蛇なんだよな…どれだけ飲めるか見ものだ」


 今ではこのナーガも良い飲み仲間だ。

 人助けをしても見返りは期待できないけど、モンスターを助けると見返りが期待できる。いや、モンスターに転生した人間は別物なのかな…?


 どっちでもいいか。

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