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ミミックの日常  作者: 本の繭
パンドラ編【短編】
31/50

大ボス会(女子)




 97階層【九尾の都】



 今日の飲み会はいつものミミック会ではない。

 前に人間界を滅ぼしたお疲れ会、ダンジョン大ボスだけで集まる“大ボス会”と呼ばれる飲み会だ。


 メンバーは僕を抜いて大ボスの女子四人。



 91階層【柔らかなる世界】

 大ボス“柔毛聖獣(もふもふ)”のポメリア


 92階層【スライムの森】

 大ボス“水液神(スライム)”のエト


 94階層【無糸洞窟】

 大ボス“蜘蛛女王(アラクネクイーン)”のキシギシ


 97階層【九尾の都】

 大ボス“妖魔王(ようまおう)”の夕尾



 大ボスは多忙だから全員集まることは稀、今日はたまたま女子だけで集まった大ボス女子会となった。


「さあさあ!今宵は妾が持て成す、盛大に飲もうではないか!」


 この階層の大ボス“妖魔王(ようまおう)”夕尾の合図で、人に化けた妖狐が僕ら客人をもてなしてくれる。この世界は大ボスが支配していることもあり、モンスターの住処とは思えないくらい発展していた。


 料理も酒も旨い。


「はぁ…疲れたよな、異世界の処分」


 僕の隣に座る“水液神(スライム)”エトがお猪口の酒をちびちびと飲みながら呟く。

 見た目は小柄で可愛らしい人間の少女だが、性格や喋り方は男みたいだ。スライムは性別をもたない両性だから、どっちでもないらしいけど。


「ほんとにね、なんで僕らが世界を滅ぼさないといけないんだか」


「同感。こんなボランティア、俺らのやることじゃないだろ」


 僕とエトが不満を漏らす。

 人間レベルの低い異世界を滅ぼすなんて大それたこと、なんでモンスターの僕らがやってるのか。


「仕方ないでしょ」


 すると、巨大な蜘蛛の足が僕らの前を横切る。

 上半身は白髪の麗しき美女、下半身は悍ましい大蜘蛛。“蜘蛛女王(アラクネクイーン)”のキシギシがストローでお酒を飲みながら寄ってきた。ストローで酒を飲むと悪酔いするぞ。


「人間界キエルベーキは、前に自然破壊を繰り返した無自覚チートの出身地だ。“世界樹人(エルダートレント)”のジイさんが頭を下げて処分の依頼をしたんだから、断れないよ」


「大ボスは持ちつ持たれつだもんね…僕には関係ないけど」


 大ボスはより良いダンジョンを維持するため同盟を結んでいる。ダンジョン階層を巡って争っていた時期もあったけど、今ではこうして酒を酌み交わすくらいには仲良しだ。


「パンドラもいいかげん大ボスに昇格したらどうじゃ?拠点なら100層が空いとるだろう」


 夕尾が狐から人の姿へと変化し僕の空いた盃に酒を注ぐ。人間状態の夕尾はどんな男も騙せる美貌らしいが、僕にはよく分からない。


「いいよ、僕はダンジョンの隅で埃を被る生活が性に合ってる」


「実力は妾たちよりも余裕で強いのに、勿体ないのう」


「僕はミミックの本分を大事にしたいんだ…それなのに、なんで僕が世界を滅ぼさなきゃならないんだ」


 注がれた酒を一気に呷る。


 僕はミミックだぞ!

 星に齧り付くミミックがあってたまるか。


「このダンジョンで星を消滅させる力を有するモンスターなんて限られてる。この中だとパンドラだけだな」


 エトがおさしみを口に運びながら僕を見る。

 大ボスを名乗っておきながら情けない…


「キシギシ、お前の毒スキルで星くらい溶かせないのか?」


「無理無理!溶かす前に私が干からびちゃうよ。今回の星は大きかったもの」


 大袈裟に首を横に振るキシギシ。


「そもそも星破壊なんて大それたこと、大ボスとはいえモンスターじゃあり得ないよ」


「…」


 僕だってモンスターだ。

 …と言いたいところだけど、僕は賢者からとてつもない力を貰っている。こんな力を有していたら、普通のミミックなんて名乗れない。


 でも、だからこそ普通を目指したい。


「この異世界滅亡計画って人手不足が深刻だよね。星を消滅させられるモンスターは数体だけ。救うべき人間を救えるのは“堕天使長”かポメリアくらいだし」


 僕は隣で寝転がっている子犬、“柔毛聖獣(もふもふ)”ポメリアに目を向ける。ポメリアは美味しそうに肉の付いた骨を齧っていた。


「私はいつでも暇だから、いくらでもお手伝するよーわんわん!」


「能天気な奴だな」


 ボメリアの毛をもふもふする。

 何時までも触っていたいもふもふだ。


「だがこれでダンジョンの人間レベルも上がるというものだ。その方がパンドラも嬉しいだろう」


 上機嫌に囁いてくる夕尾。


「まあな…」


 ダンジョンに頭の悪い冒険者が来なくなるのは嬉しい。

 強いだけのチート装備は存在するだけで害悪、そんな物を持ち込まれるとダンジョンのバランスが崩壊して普通の冒険者が来なくなってしまう。


「ダンジョンがあらゆる異世界と繋がっているのも困りものだな、チート冒険者の存在はいい迷惑だよ」


「強い力を持つのは構わないけど、最低限の常識くらいは身に着けて欲しいよね~」


 エトとキシギシは最近の異世界に苦言を呈する。


 ダンジョンは数千近い異世界と繋がっていて、やって来る冒険者は様々だ。

 神の悪戯で生み出されたチート冒険者に暴れられると迷惑だから、こうして大ボスが処理にあたる。このシステムのおかげでダンジョンの均衡は保たれているが…


 このダンジョンを作った誰かは、このシステムを想定して作ったのか?


 謎多きダンジョン…いつかこの謎を究明するのも悪くないかも。

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