魔力測定
50.5階層【魔獣窟】
今日は拠点で冒険者から奪ったアイテムを整理している。
いろんな異世界のいろんな冒険者から手に入れた戦利品、時々倉庫整理しないと何が何やら分からなくなる。
「威力9999の魔剣…これもいらないな」
チート装備はなるべく回収してるけど、すぐに処分する。これは努力を嫌う矮小な冒険者を脳死させるイカサマ、思い上がった神が生み出した低俗で粗悪な凶器。
チートで救われるものなんて、神々が用意したご都合主義だけだ。こんなものがダンジョンや正当な異世界に出回ったら、瞬く間に秩序が崩壊し世界は破綻する。
まったくチートは度し難い。
ありのままの自分で世界を楽しめよ。
「パンドラ…見てください」
「ん?」
隣でアイテム整理をしているタマテが水晶のような玉を差し出す。
「何それ?」
「魔力レベル測定器です。これに触れるとレベルが測れるのですよ…」
タマテが水晶に魔力を込める。
“レベル142”
水晶に数字が浮かび上がった。
「ああ、鑑定をアイテム化させたやつか」
「面白いでしょう…?」
広い世の中にはいろいろなアイテムが存在する。だからこそミミック活動は楽しい。
「余もやるのだー!」
ヒウチが横から測定器を奪い取る。
“レベル158”
お、タマテよりちょっと強い。
「私はどうかな~」
シュレも魔力測定をする。
“レベル105”
シュレは初心者しか相手しないから、こんなものか。
「う~ミミック四天王では私が最弱ですね~」
「別にレベルなんて…」
「次はパンドラさんの番です」
シュレが僕に水晶を渡す。
「…」
仕方ないな…
僕は水晶に魔力を込めた。
パリーン
………
魔力測定器の水晶が割れた。
「測定不能ですね…」
「ごめん、壊しちゃった」
「流石です…パンドラ…」
タマテが嬉しそうに水晶の残骸を拾う。
僕も手伝おう。
「ふふー!どうやら余がミミックの中で最強のようだな!パンドラは例外として…」
ヒウチが嬉しそうに腕を組んでいる。
「レベルなんかで強さを判断しない方がいいよ。僕らミミックにとって、レベルはそこまで重要じゃないから」
「そうなのか?」
「ミミックが持つ“強制捕食”は相手のスキルを無効化できるけど、捕縛できるかは力勝負になる。ミミックはそこまで力の強い種族じゃない。成功率を上げたいならレベルよりも、各々が持つ“固有スキル”を磨いた方が有効だ」
ミミックの三人はそれぞれ、固有のスキルを習得している。
シュレは“空猫”
ヒウチは“絶火”
タマテは“老化”
そのスキルを有効活用すれば、レベルによる筋力勝負よりも効果的に相手を捕縛できる。
「現にヒウチよりタマテの方がミミックとしての功績は上だろ」
「ぐぬぬ…確かに」
「逆もまた然り、数値に惑わされて獲物を選ぶと痛い目に遭うぞ」
「むうー」
ヒウチは反省している。
ダンジョンの世界では慢心して得することなんて一つもない。
「パンドラの固有スキルって…どんなのですか…?」
「え?」
タマテが僕の顔を覗き込む。
「今まで一度も見たことがないので…」
「…」
僕が固有スキルを使う機会は滅多にない。
仕事の時に少し使うくらいだ。
「僕は“強制捕食”だけで十分だから、他のスキルは使わないよ」
“修復”
拾い集めた水晶の残骸に魔法をかけ、元の綺麗な水晶に戻す。
「あら…」
「とにかく、こんな道具で測る数値なんかに惑わされたらダメだぞ」
レベル測定…面白いけど、玩具の域は出ないよ。
レベルで測れるのは数値だけ。
数値だけでは生物の価値は測れない。
信念、知識、哲学、経験、人望、スキル、その他もろもろ…それらを磨いてこそ、生物は価値を高められるんだ。




