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ミミックの日常  作者: 本の繭
パンドラ編【短編】
24/50

人間界




 50.5階層【魔獣窟】



 今日はダンジョンには行かない。

 向かうのは人間界だ。


 死にかけのダークヒーローと不本意にも約束をしてしまったからな。アイツから預かった指輪を、転生したアイツの手に渡るよう埋めてこないと。


「ちょっと人間界に行ってくる」


 僕はミミック仲間にそう伝え、拠点で人間界に向かう準備をする。


「…大丈夫ですか?ミミックは目立ちますよ」


 タマテの心配はもっともだ。


「大丈夫。人間に擬態できるから」


“擬態魔法”


 魔法を唱えると、僕の宝箱は消え人間の足が生えてくる。

 二足歩行は久しぶりだな…


「……そんなことできるの、パンドラさんくらいですよ~」


 シュレが呆れながら僕の足を撫でる。


「別に難しい魔法じゃないよ、そのうち教えてあげる。人間の足ってけっこう便利だから」


 これで見た目はどう見ても人間だ。だが裸だと不味いから冒険者から奪い取った衣服を着てっと。

 よし、準備完了。


「お土産よろしくなのだ!」


 ヒウチが呑気なことを言ってる。

 そうだな…折角人間界に行くなら、いろいろ観光しようかな。人間は愚かだが、面白い物を生み出す才能に長けている。食べ物も美味しい物がたくさんあるだろうし。

 

「そんじゃ、ちょっくら行ってくる」


 僕は人間界のゲートを開き、中に飛び込んだ。





 人間界メグリアーテ【セルディア王国】



 人間界はどこも欲にまみれた戦争を繰り返していた。

 僕らモンスターから見れば、戦争など下らないし不毛すぎる。何故そんな腹の足しにもならないことするんだろう。


 そんな戦争だが、今はもう無くなったらしい。


 突如、ありとあらゆる異世界にダンジョンが生成されたからだ。ダンジョンという謎の脅威が生まれたから、人々は戦争よりもダンジョンの探索を優先した。

 ダンジョンの存在が人々の争いを止めたと言ってもいい。


「どっちにしろ、しょうがない生き物だな…人間は」


 さて…あのダークヒーローとの約束も終えたし、適当にお土産買って帰るか。魔獣窟と同じ方法で買い物できるかな。


「お前、あの時のミミック!?」


「ん?」


 背後から声がかかる。

 この声…聞き覚えがあるぞ。


「いつぞやの勇者か」


 前に僕を討伐するため現れた勇者だった。


「なんでお前がここに!?」


「ただの観光」


「観光って…この街にはモンスター除けの結界が張られてるんだぞ!」


「あっそ、なら安全だな」


「………はぁ」


 勇者は何か言いたげだが、諦めたように息を吐く。

 コイツは僕との力の差を理解しているし、その辺のアホとは違う。僕に悪意がないことを知っていれば変に騒ぎ立てることはない。


「前のハーレム共はいないの?」


 今の勇者は一人だけ。

 僧侶と魔法使いはいない。


「ハーレムじゃない…今日は休みなんだ。三人は何処かへ遊びに出かけた」


「…一人増えた?」


「お前が助けた元奴隷の獣人族、あれから俺のパーティーに加わることになった。かつての主人はこれまでの悪事が暴かれ投獄されたぞ」


「ふーん…」


 その一連の出来事は、千里眼で見てたから知ってたけどね。あの奴隷獣人は勇者パーティーに加わって楽しい日々を送っている。もう僕が心配することはない。


「なら勇者、一人で暇だな?なんか美味しい食べ物とか紹介してくれ」


 丁度いい。

 この勇者をガイドに雇おう。


「…別にいいが、気を付けろよ」


「何に?」


「この街にはいくつもの世界を救った伝説の勇者が住んでいる。お前みたいな天災級のモンスター、見つかったら排除されるぞ。いくらお前でも伝説の勇者が相手じゃ勝ち目はない」


 伝説の勇者ね…

 確かに見つかったら面倒そうだな。


「わかった、ならさっさと美味しい店を紹介しろ」


「……本当にわかってるのか?」





「どら焼き、ソフトクリーム、クレープ…どれも甘くて旨いな」


 こんな美味しいものがあったなんて…

 魔獣窟の料理は人間が生み出した料理を模倣したものだ。だがクレープみたいな甘味料はまだ魔獣窟では広まっていない。酒には合わないが、これはこれで有り。


「ほら、口元にクリームついてるぞ」


「むー」


 勇者に口を拭かれる。

 几帳面な奴だな。


「………」


 勇者は僕の顔を見て考え込んでいるようだ。


「何を考えてる?」


「お前なら、鑑定とかで人の心くらい読めるんじゃないか?」


「読めるよ」


「なら読めばいいだろ」


「僕は気安く人の心を読んだりしないし、鑑定もダンジョンに挑む奴の称号を見るくらいだ。相手に無許可で全て覗くのは人権無視だろ」


「…モンスターがそれを言うのか」


「モンスターにだって品性はある。それに喋ってる方が僕は好きだ」


「………」


 勇者はまた無言になる。

 こいつ、会った頃から思い悩んでばっかだな。


「なぁ…」


「ん?」


「人間とモンスターに共存の道はあると思うか?」


「ない」


「即答か…」


 何を思い悩んでいるかと思えば、そんなことか。

 勇者らしいと言えば勇者らしいが…


「お前ら人間は種族どころか肌の色ですら受け入れきれてないだろ。そしてモンスターの九割は知性がないただの獣。そんな生物同士が共存するなんて不可能だ」


「だが俺はもう、お前と戦う気はないぞ」


「そんなこと言ってると、お前が人間界にいられなくなるぞ。そして僕に歩み寄ってもお前に居場所はない」


「…」


「差別も区別も必要、それが生物というものだ。お前は今まで通り僕らモンスターに敵意を持ち続けろ」


 生物とは異物を排除する習性がある。

 枠組みを外れ別の枠に入ろうものなら、有無を言わせず迫害される。それはどこの世界でも同じだ。だから人間は戦争を起こすし、僕らみたいな知性あるモンスターは魔獣窟を作った。


 全ての生物が分かり合うなんて不可能だ。


「…!」


 そんなことを駄弁りながら街を歩いていると、派手な団体が正面から迫って来た。その集団を見た勇者の顔色が変わる。


「おい、隠れろ!」


「なんだよ」


「伝説の勇者だ」


 勇者に手を引かれ建物の間に逃げ込む。

 伝説の勇者か…噂はよく聞くが、どんな奴だろ。


 物々しい騎士たちに囲まれた若々しい女騎士。

 あれが伝説の勇者か。


 …なるほど。


 外見は普通だが中身は鑑定するまでもない。

 人間の常識を遥かに超えた力を秘めている。ダンジョン90階層に住む大ボスに匹敵…いや、それ以上か。こんな人間も存在するんだな。


「…」


 伝説の勇者と目が合った。


「…!」


 その瞳には、驚きの色が見えた気がする。


「おい、お前はもうダンジョンに帰れ。ここはモンスターが居ていい場所じゃないんだ」


 勇者に帰るよう促される。

 共存云々はなんだったんだ…


 伝説の勇者か…あの反応が少し気になるが、別にいいか。


「そうする。じゃあな勇者、観光案内してくれてありがと」


「あ、ああ…」


 僕はダンジョンに戻った。

 異世界なんてこの世にいくつもあるけど、タマテやツヅラの言う通りこの異世界は当たりだな。旨いものはあるし、最強の勇者がいるし、まともな人間が多い。


 転生したダークヒーローも喜ぶだろう。

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