看板娘になる少年
9.5階層【つどい亭】
隠しダンジョンにあるツヅラが開いた酒場の名前は“つどい亭”と呼ばれている。本日もつどい亭は様々な客で賑わっていた。
「それじゃ、少年ちゃん。食器の片づけ頼むぞ」
「…」
可愛らしいメイド服を着た少年が、恐る恐る空になった食器を片付けている。その様子を他のお客さんが不思議そうな目で眺めていた。
「なんだツヅラさん、随分と可愛い店員を雇ったな」
「うむ。知り合いのミミックに押し付けられてな…」
「にしても……危なっかしいな」
小さくて非力なウェイトレスは、大ジョッキに注がれたビールを運んでいる。
ガシャーン
「あぶな!」
少年は案の定、足を踏み外しジョッキが宙に浮く。
近くに座っていた人間の客が慌てて空中に浮いたビールを回収し、モンスターの客は転ばないようウェイトレスの少年を支えてくれた。
ツヅラはパチパチと拍手する。
「ナイスフォロー」
「じゃなくて、危なっかしいよ!」
「大丈夫、ウチの客は凄腕じゃからフォローしてくれる」
「店員のフォローを客にさせるのかよ!?」
「別に助けなくてもよいぞ。見棄てられるならな」
「…」
助けられた少年は、申し訳なさそうに助けてくれた二人に頭を下げていた。その一生懸命な姿を見てしまったら誰も責めることが出来ない。
「………成長を見守るのも一興か」
「………ま、それも面白そうだ」
人間とモンスターの客は生暖かい目で少年の頑張る姿を見守った。
※
………
千里眼で見るかぎり、上手くやってるみたいだな。
「パンドラ…あの子の名前はどうします…?」
タマテが僕に聞いてきた。
「名前?」
「パンドラが拾ったのなら…パンドラが名付けるべきです…」
「なんでもいいよ、もう僕には関係ないし」
「身寄りのない少年です…名付け親になってみては…?」
「…名付け親か」
改めて思うと僕と子供って、僕と賢者の関係に似てるな。だからといって特別な感情なんてないけど…名前くらい付けてやるか。
「ナナ」
「へぇ…由来はあるのです…?」
「七階層で拾ったから」
「雑…でも可愛いと思いますよ」
「ふん」