隠しダンジョン
9階層【生きる大森林】
今日スポーンしたダンジョンは自然があふれる階層だ。
ちょっと徘徊して森林浴でも決め込むか。
「…ん?」
この草むらの先、偽装魔法がかかってる。
僕の魔眼は魔力を見抜く。偽造されてても痕跡の魔力が漂っていたら逆に目立つんだよね。
気になるし…ちょっと行ってみるか。
………
自然と魔法に隠された先には、洞窟があった。
これは…あれかな?
隠しダンジョンってやつかな。
どれ、このダンジョンの隠し要素がどれほどのものか覗いてみよう。
※
そんな洞窟の先には、酒場があった。
………想像してたのと違う。
「お、新しいモンスターが迷い込んできたぞ」
「ミミックか、店長と同じだな」
「へぇ…けっこう可愛いじゃん」
店内は多くの客で活気にあふれていた。
しかも、人間とモンスターが仲良く酒を飲んでる。
人間陣は僕を見ても恐れる様子もなく、むしろ歓迎ムードで迎えてくれた。
「あのミミック……まさか、パンドラさん!?」
「マジで!本物!?」
「え…どうなんのこれ…?」
逆にモンスター陣は僕を歓迎せず困惑している。
なんでだよ…
「なんだ、知ってるミミックなのか?」
「モンスターの中で最強とうたわれるミミックだ」
「そんなに強いの?」
「ここのダンジョン最上層ボス、古龍様と同等かそれ以上って噂だ」
「マジか…」
すぐに僕の噂が店内を飛び交う。
すると、店の奥から僕と同じミミック種の女がやって来た。
「おお、ついにバレたか」
「……なんだ、ツヅラじゃん」
そのミミックは僕の顔見知り、ツヅラだった。
戦闘能力がないタイプだから、狩りには出ず魔獣窟で商人をやっているミミックだ。そういや一人で店を建てるって前に言ってたっけ。
「店を開くとは聞いてたけど、魔獣窟の外で開いたの?」
「そうなのじゃ~魔獣窟に建てても面白くないじゃろ」
「それはいいけど…なんで人間まで混じってんの」
「実は店を開店した第一号の客が人間でな、酒を交えて話しているうちに意気投合してしまった。そこから変に噂が広まり、このありさまじゃ」
なるほどね…
ダンジョンは冒険者とモンスターが行き来する。ダンジョンに建てた酒屋だからこそ出来る異種間酒屋だ。
「でも大丈夫なの?人間嫌いなモンスターに知られたら潰されんじゃない?」
「その時が来たら、諦めるのじゃ」
見切り発車だな…
だが、魔獣窟の外でも酒が飲める隠れ家があるのは僕としても喜ばしい。
「この店、僕が保護してやろうか?」
「え?」
「因縁を付けられたら僕を呼べ、黙らせてやるから」
「それはありがたいが…よいのか?」
「無償とはいかないよ?一杯くらいは無料にしてほしいなぁ」
「………ふふ、等価交換じゃな」
「そゆこと…ほら、この店自慢の酒を用意しな」
「承知」
ツヅラは不敵に笑い店の奥に消えて行った。
僕は適当に空いている席につく。
今日は真面目にミミックしないで飲んで食べる日にしよ。
「パンドラといったな、どうやって強力な力を得たんだ?」
「強いミミックってレアアイテム持ってるよね、何か交換しない?」
「70層以上の階層に行ったことあんのか?」
人間たちが僕の元に集まって質問攻撃を仕掛けてきた。
保護すると言った手前だけど、不用心だな…
でもツヅラの酒場ルールなら、店内では人間とモンスターの敵対関係は無しだ。郷に入っては郷に従え、此処にいる連中はただの飲み仲間なのだから。