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ミミックの日常  作者: 本の繭
パンドラ編【短編】
13/50

ミミック会③




 50.5階層【魔獣窟】



 今日の飲み会はヒウチのオススメ“中華料理店・竜王”という店だ。


「お待たせヨ~。麻婆豆腐、紅油餃子、辣子鶏でース」


「赤い…!」


 タマテも驚愕する赤い料理の数々は、見るだけでも舌がひりひりしてくる。


「卵とキクラゲの炒めもの、中華春巻き、ナムルの盛り合わせだヨ。辛さ対策で牛乳も出せるから欲しかったら言ってネ~」


 気の利いた定員だな。

 この店の特徴は何と言っても辛い物だろう。ただ辛いだけではなく、独特な香辛料を生かしながら強い旨味を引き出しているんだ。舌が痛くても手が止まらない、それが中華だ。


「それでは、カンパイなのだ~!」


「「「かんぱ~い」」」


 こうして本日のミミック会が始まる。


「紹興酒か…こういう店でしか飲まないな」


「これがまた旨いのだ!」


「……うむ、骨太だな」


 たまにはこういうのも悪くない。


「私は…辛い食べ物には薄い水割りで…前は不覚にも潰れてしまったので…」


 今回のタマテはちびちびとお酒を嗜んでいる。

 お酒は酔いつぶれた数だけ自分の限界が分かってくるもの。僕は滅多に酔いつぶれないから、限界がどれくらいなのか不明だ。


「ん…ふぅ、汗かくな」

「箱に匂いがついちゃう~でも美味しい~」

「辛い物を食べるなら見なりなど気にする必要ないのだ!」

「食べ終わったら…みんなで消臭ですね…」


 お酒を味わいながら辛い料理をつつく。

 辛いと痛いは同じ感覚だ。自分の舌を痛めつける料理を発案して美味しく頂こうなんて、やはり人間の思考回路は可笑しい。


 まぁ旨いんだけど。


「そういや前、パーティーに見棄てられた冒険者を見つけたぞ。しかも二人」


 そしていつも通り近況報告を始める。

 僕が話すのは前に助けた回復士についてだ。


「あら…助けました…?」


「………まぁ」


「新しい噂…流しますね」


「やめろ」


 タマテの頭を鷲頭かみにする。

 親切なミミックがいるとか、どんな願いも叶えるミミックがいるとかシャレになってない。ミミックは騙すことが正義の陰湿モンスター、僕だって最低限のプライドは捨てたくない。


「一人追放したら残りのパーティーが崩壊するって定番がありますよね~」


「なんで一人抜けたくらいで崩壊するのだ?」


「不思議ですよね~」


 シュレやヒウチも追放現場を目撃したことがあるようだ。人間同士の不思議なやり取りを眺めるのもミミックの楽しみの一つだからね。


「パンドラさんが助けた冒険者は復讐に走りました~?」


 シュレはナムルをちびちび食べながら質問する。


「走ったり走らなかったり…それぞれだね」


 千里眼で見るかぎり少女の方は新しい出会いを得て円満にやっている。少年の方は杭を抱きながら孤独の道を進んでいる。

 復讐の結末がどうなるか、少し楽しみだ。


「…復讐って何なのだ?」


 ヒウチはぽつりと呟く。

 髪も箱も赤いヒウチだが、今は顔まで真っ赤だ。


「今日はヒウチが潰れるのか…」


 ヒウチは酔っぱらうと静かになるタイプだ。

 こうなったヒウチは思慮深くなり、話すとなかなか面白い意見を聞けたりする。せっかくだから少し復讐について話してみるか…


「例えば、冒険者がミミックに挑むだろ?」


「ふむふむ」


「ミミックはコテンパンにやられ、宝が奪われる」


「ふむ…」


「ミミックは冒険者を恨み、仕返ししようと考える」


「………ん?」


 ここでヒウチは首を傾げる。


「なんでそのミミックは相手を恨むんだ?未熟だった、弱かった、対処を誤ったからこそ招く自分の不足が悪いのだろう」


「そこが人間とモンスターの価値観の違いなんだ」


 僕らモンスターは何時だって弱肉強食、それを否定するモンスターはこの世界には存在しない。食べられるのは自分が弱いからで、そこから憎悪が生まれることはない。


「む~…よく分からんのだ」


 人間の思考が理解できずヒウチは混乱する。

 モンスターは人間の言っている“復讐”という感情は理解できない。自我を持っても、所詮僕らはモンスターなんだ。

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