裏切られた回復士(少女)
22階層【グールの墓】
少女がダンジョンで倒れてる。
…
“鑑定”
…ふむ、MP切れの回復士か。
役割を終えてパーティーに捨てられたのだろう。別に珍しいことじゃないけど、酷い末路だよね。
「…けほ」
まだ生きているが、毒状態で後がないぞ。
さてどうなる?
都合よくスキルでも覚醒するかな?
………
そう都合よくはいかないか。
毒もあるからエリクサーを使おう。
ほら飲め飲め。
「けほけほ」
よし、後は回復を待つだけだ。
………
何してんだろ、僕。
前に自重するって決めたばかりなのに。
「う…………生きてる?」
回復士の少女が目を覚ました。
まだ体は起こせないみたいだけど。
「毒……は…?」
「もう解毒したから安心だよ」
「あなたは…だれ?」
「僕は恐ろしいミミックさ」
「……モンスターが、助けてくれたの?」
少女は目を丸くしている。
正しい反応だ、モンスターが人を助けるなんてありえないからね。
「どうして…?」
「理由はないよ」
「そんな、貴重な薬なのに…」
「消費期限が切れそうだったから捨てただけだよ」
「………」
少女は無言になる。
納得できないといった様子だ。
「…この後どうすんの?」
僕は好奇心で、この見棄てられた少女に問いかける。
「え…?」
「棄てられたんだろ、元パーティーに復讐でもするか?」
「…ううん、しない」
「憎しみはないの?」
「そうじゃないけど…耐えて、前に進みたいから」
「ふーん…」
パーティーに捨てられた者は復讐するのが定番なんだけど、この子はそうではないのか。それもまた正しい生き方だ。
「過去と他人は変えられない、変えられるのは未来と自分だけさ。次はもっといい仲間を探しな」
「…」
僕の言葉を聞いて小さくうなずく少女。
あ、通りすがりに冒険者を発見。
「助けが来たぞ」
「あ、あの……ありが…」
少女が何かを言い切る前に、僕は宝箱に潜んだ。
そして少女を襲うフリをする。
がぶがぶ
「大変だ!少女がミミックに襲われているぞ!」
がぶがぶ音に気付いた冒険者が駆け出し、僕にハンマーを振るう。
「くらえ!」
思いっきりハンマーで叩かれたけど大丈夫、箱は傷つかない。
「あ、まって…」
「あぶねえぞお嬢ちゃん!はやく逃げっぞ!」
屈強の戦士に抱えられ、少女は僕の元を離れた。
過去の憎悪に捉われず未来の希望を求めた回復士の少女。
果たして報われるのだろうか。




