日常回。或いは進展の回。
今回は事件が起きてないので日常を描こうと思う。と言っても、我々の日常に興味を持つものなどいないだろうが。しかし、今回書く日常はイレギュラーなことがあった。それを主に取り扱おうと思う。ああ、ちなみに先日の事件でかかわった彼(サンドラを眠らせて農耕をさせたやつのことだな。)だが、対価を払ってもらうことにも納得してくれ、無事に対価を払わせることができた。ちなみにその対価だが、眠るというものだった。であるから彼は俺に「汝忘れし罪を果たせ」と言われた瞬間に眠り込んでしまった。その周りにいたスーツ姿の男たちは急に主人が倒れたので何事かと思い、当然俺たちを疑い、ひと悶着があったが、幸い怪我無く終えられた。しかし、こんなこと読者にとってみればどうでもいいことだろう。だって俺が「汝忘れし罪を果たせ」と言って対価を払ってもらうのはいつもの流れだし、その対価なんて俺たちには何ら関係のないことなのだから。しかし、これをどうでもよいことと切り捨てるのは今の俺には少し躊躇があった。なぜなら、彼こと“大野裕嗣”はまだサンドラの報酬を達成してないとか何とかで俺たちの探偵事務所に居座るようになったからだ。現に今、俺の目の前で微笑みをたたえながら持ち寄った本を読んでいる。まったくこいつはいつもこの人畜無害な微笑みを顔につけているのかね。それだとしたらとんだアイドル気質だ。現に顔も悪くない。どうかこんなところに居候するのはやめてどこぞのアイドルにでもなってほしいものだ。そう思っていると裕嗣は俺の視線に気づき、心中を察したかそうでないかはわからないものの、こんなことを言った。
「僕の仕事はもう片付いているもんでね。あいにく僕を家に引き戻すものはありませんよ。」
そうかい、そうかい、それはご苦労なこった。こんな朝っぱらに仕事を終わらせているってことはさぞかし昨日の夜は頑張ったんでしょうね。それともなんですか?この短い時間で仕事を全部終わらせたと?はいはい、要領の良いこった。
「そうそう、仕事と言えば…最近ログさんとサンドラさんの関係はどうですか?」
ん?サンドラとの関係か?まあ、うまくいっていると思うが……それがどうした?
「ああ、なるほど。まだそんな感じですか。これは多大なる苦労を要しそうですね。」
悪くないというのにいったいどこに苦労をするんだろうか。ふと疑問に思ったが、こいつの苦労なんて俺には一切関係のないことなので黙っていた。というか、こういうやつこそ苦労すべきなんだよ。こういう無駄に要領のいいやつこそ。
アベルとサンドラのいない裕嗣と俺との時間はものすごく長く感じられた。ちなみにアベルとサンドラはどっちとも学校で授業を受けている。サンドラがいないとこの空間はこんなにも寒く感じられるのだな。そうしみじみ思っていたが危ない、それじゃあ俺があの人間型台風に早く来てほしいみたいになるじゃないか。慌てて頭を振るとその様子を見ていた寿太郎がさも見透かしていたかのように微笑んできた。うざったいから睨んでやると裕嗣は「失敬」という感じで目線を外した。にしてもここには癒しが足りない。早くアベルにきてほしいものだ。それは素直に感じられた。
午後になると、アベルが来た。そのあと少し遅れて人間型台風がきた。人間型台風は俺に近づくといつもの人間型台風のように大声であいさつをし、人間型台風らしくどすどすと去っていくと……
「ちょっとちょっと!なんでさっきから私の名前が人間型台風なのよ!おかしいじゃない!」
ん?おかしくはない。じゃあ続けるぞ。そして人間型台風は…
「ねぇ!私のこと無視しないでよ!何か悪いことでもした!?黙ってないで教えなさいよ!!」
涙目になっていたからさすがの俺も手を止めた。
「いいや、別に何も悪いことはしてないさ。ただ、人間型台風が来たからそう言っただけだ。」
「っ!……また!」
「まあまあ、サンドラさん、ログさんだってサンドラさんにちょっかいを出したい日だってありますよ。」
裕嗣はにやにやしながらこっちを見る。いや、全然フォローになってないんだが。
「サンドラさん、教えたことを思い出してください。好きな子9か条その三!好きな子には…」
「…いたずらしたくなる……!」
裕嗣が何やら謎の言葉を発し、そのあとに何やらぼそぼそと付け加えたらしいサンドラはさっきとは見違えるほどに元気になり、ついには赤面しながらこんなことを言った。
「そ、そういうことはちょ、直接言いなさいよね!私だってわかることと分からないことがあるんだから…」
おいおい、なんだその変容っぷりは。怪人二十面相だってびっくりだぞ。一体どんな感情経路をたどれば落ち込んでいるときからそんなに赤面した様子になるってんだ。その様子を見ていた裕嗣のにやにやは最高潮に達していた。
次の日、まあその日の午前もサンドラとアベルは学校で俺と裕嗣との地獄のような時間が流れていたのだが、午後になって来たアベルから全体にこんな提案がなされた。
「あのぅ、従業員も増えたので、そろそろみんなで和睦も含めてお食事会を開きませんか?」
おいおい、アベル、最近この仕事がいい調子だからってそんなことするお金なんかないぞ。
「はい、そうだと思って僕のほうから個人的にこんなものを用意させてもらいました。」
いやぁ、悲しいなぁ、アベル。なんでそういう変なところで素直になっちゃうのかな。確かに俺の事務所にはお食事会を開くような金なんてないけど、速攻で同意されるとはなぁ。
そして配られたのはいかにも高級そうな紙のカードで、そこに場所と日時が書かれているらしい。それを読んでみると何々…ドラゴンタワーの地上60階!?ドラゴンタワーと言えばあの都会の超一級地にあるどでかいタワーのことではないか!しかもその地上60階!?これはいったいいくらかかったんだ…
「あ、ちなみにこの場所貸切りましたんで他のお客様とかはいません。」
そうか、アベル、お前はとんでもない金持ちなんだな…今回でより一層そう感じたよ…
「ああ、ごめんなさい、僕はこの日に用事があるので辞退します。」
そう言ったのは裕嗣だった。そういやこいつからも金持ちのにおいがする…つまりこんなところはいつでも行けるから用事のほうを優先したということだろう。
「いや、そういうわけではないんですけど、この日はたまたまほかの日では代替不可能な用事があってですね。」
「そうですかぁ…サンドラさんはどうですか?」
アベルの問いかけに対してサンドラは悩んでいるようだった。
「うーん、いけたらいいのだけれど…正直言ってその時になるまでよくわからないわね。」
「そうですか…ログさんはどうですか?」
最後の希望とばかりに潤んだ瞳で見つめてくるアベルであった。ん?どうするかって?もちろん行くさ。だってこんなチャンス、めったに訪れないだろ?
「俺はもちろん行かせてもらう。こんなチャンス、めったに無いからな。」
「よかったですぅ、これで僕一人になったらどうしようかと思ってたので…。」
「はぁ!?あんた、これ行くの!?」
それに対してサンドラは驚いた様子で言う。なんだ、駄目か?
「いや、そうじゃなくて、私はてっきりあんたがいかないもんかと………いい!アベル、私もこれに参加するから!忘れないでよね!」
「え?あ、はい、わかりましたぁ。」
こうして、俺とアベルとサンドラの参加が決まったその食事会は俺たちそれぞれに少なからずどうなるのかという不安とか期待とかを持たせたのであった。
日は飛んで先のお食事会の当日。俺はいつも以上にきちんとした服でいつも以上に身だしなみを整えていた。そりゃあだって、あんな高級なところに行くのに変な服装をしてなめられたらいやだろう。いつも以上に準備に手こずり、気づけばもう出発時間ぎりぎりだった。慌てて持ち物を持った俺は飛び出すように家を出た。今日は食事会なので探偵事務所のほうは午前だけ営業した。行く途中にサンドラと会うと思っていたが、意外や意外、その予感は外れ、誰とも会わず、目的地のビルについてしまった。そのビルの入り口に事前に配られたICチップをかざすと、重厚な扉が滑らかに、かつ無音で開き、間接照明でほの明るい通路が現れた。俺はその先に進み、エレベーターを見つけ、すぐにそれに乗り込み、目的地の60階を目指した。60階の光景は息を飲むほど美しく、絨毯の赤と夜景の黒が対比して色覚効果をより高め、ある程度間引きされた黄色い照明は辺りをガンガン照らさず、ある程度の暗さを保って、その暗さの中に魅惑やら何やらが隠されていそうな雰囲気を出していた。そのコントラストに目を奪われながら進むと、しばらくして先に着いていたらしいアベルが席に座っていた。アベルは俺の存在に気づくと、笑顔になりながら手招きし、俺に座るように促した。その隣には、白髪に白ひげを蓄えた、年老いているがどこか気品のある執事らしき人物が立っていた。その爺さんも俺の存在に気づくと、俺とアベルの間を割らない絶妙な長さの礼をした。俺もその爺さんに適度な礼をし、アベルに勧められた席に着いた。
「ログさんこんばんは!」
「おう、ずいぶんと速い到着だな。」
「ええ、まあ、この時が待ちきれなかったんで。それより今日のログさんの服装、すごい気合が入ってますね。」
「まあ、変な服装をしてなめられても嫌だからな。」
「ログさんをなめる人なんてここにはいませんよ。いたとしても僕が潰しますから安心してください。」
アベル、「潰す」なんて言葉をそんなに無邪気な笑顔で言うのはやめなさい。そんなことされたらおじさん、アベルの将来が気になっちゃうよ。
それからひとしきり談笑を終えた俺とアベルだったが、サンドラがいつまでたっても来ないことを疑問に思った。
「おいアベル。そう言えばサンドラがまだ来ないようだが、知らないか?」
するとギクッとなったように一瞬固まったアベルだったがすぐに平静を取り戻したのか
「べ、別に知りませんねぇ。ど、どうしちゃったんでしょう。」
なんかいろいろと怪しいが、ここはアベルを信じよう。「そっか」と一言言って談笑を再開した俺であった。
この小説ってのは、まあ内容は面白いんですが、一つ、致命的な欠点があるんです。
それが、叙述力がないということ。
しかし、それは今の僕であれば余裕でカバーできます。
ですから、次回からの、新、ログ・ジェインの事件簿にご期待ください。




