温故知新3
第四部と第五部をほんのちょっとだけ変更したので確認を。
ザ・日本家屋って感じの小屋の前に行ってみると意外にもインターホンがあった。俺はてっきりここにはカラオケはあるけれどそもそも電気が通っていない村かと思っていたが、それは違ったようだ。まあそんなことは置いといて、さっさと事情聴取と行こう。そう思うや否や、俺はそのインターホンにあるボタンを押した。
「ピンポーン……」
もう聞きなじんだ甲高い無機質な音を鳴らすと、その後には一瞬の静寂が訪れる。ここは俺たち訪問者側が最後の心の準備をする時間だ。その一見して短い時間は心の余裕を取れそうにないが、最近の研究では一瞬で出した決断と15分もかけて出した決断が実は一緒だということも判明している。つまり、心の準備の時間は長すぎても無駄だということだ。そう、ちょうどこれくらいがいい。これくらいで相手が来れば…と思っていると、この家の家人と思しき人がさわやかな声で返答した。
「はい、何か御用ですか?」
「あ、急にすいません。ログ探偵事務所のログ・ジェインと…」
目線でアベルにあいさつするように言う。
「え?あ、その、彼氏のアベルです!」
と急に振られたのに動揺しながら言う。おいおい、いつからお前は俺の彼氏になった。残念ながら今のところはそういう気はないぞ。いくら敵の本所地と思われるといえど初対面の人に勘違いされるのはごめんだ。急いで訂正に入った。
「あ、ごめんなさい。相当緊張してたので間違えちゃったみたいです。正しくは“彼氏”ではなく“従業員”ですので。」
すると、インターホンの向こう側からは笑いながら
「ハハハ、そうですか。いや、別に僕としてはそういうカップルもありだと思いますけどね。」
と返答された。アベルをちらりと見ると、顔じゅうが赤面してゆでだこのようになっていやがる。いや、まあそういうところは素直にかわいいと思えるのだが。
「それで何の御用ですか?」
さっきみたいにさわやかな声色で言い、先を促した。
「うーんと…ここで話せる内容ではないのでいったん上がらせてもらっていいですか?」
「わかりました。」
そう端的に言い残すと、インターホンの通話状態が切れる音がした。アベルもいよいよ敵の登場となるので幾分か殺気立って見える。そしてしばらくののち、家人と思しきさわやかな好青年が現れた。顔には微笑みが刻まれている。
「どうぞ」
そう言って俺たちに入るように促した彼は、俺たちが靴を脱ぐのを待って
「僕の後についてきてください。」
と言って歩き出した。しばらくついて言って案内されたのは全床畳敷きの大広間みたいな場所で、彼はそこの上座というべきなのだろうか、とにかく偉そうに鎮座している椅子に腰かけると、俺たちにその辺に座るように促した。なるほど、確かに周りには何個かの座布団がある。俺とアベルは適当に彼の真正面となる位置を選んで隣り合って座った。
「で、話というのは?」
作り笑いだとはわかるが、それでもどこか自然とすら感じてしまう笑みで俺とアベルを交互に見ながら彼はそう尋ねた。
「単刀直入に言います。あそこの土地で農耕をしている人たち、それを操っているのはあなたですね。」
「ええそうです。」
思ったより素直に認めた。これで「違います」と言われたらどうしようと考えていた俺であったが、それは杞憂に終わったようだ。しかし、超能力者というのはみんな素直だね。みんな一言われれば素直に認めるもん。まあ、あの厄災級人間サンドラを除いてだが。ただ、前の二人は自分の能力に自惚れていたからだと思うが、こいつからはなんかもっと別の何かを感じるね。何とは言えないが。
「クックック、ということはあなたたちが…………そうですかそうですか。」
そういうと、彼はMMORPGを遊ぶためのような器具をおもむろに取り出し、そして頭に取り付けた。おいおい、客人の前で急にゲームをしだすのか?いくら俺たちがあほそう、特にアベルがさっきからこの家の広さに驚いてあほそうにしているからといってそんな仕打ちはないだろう。それともお前はあれか?いろいろな思い出が詰まっているゲームのサービス終了が近づいてその終了をゲームの中で迎えようとしているようなやつか?そしてサービスの終了時間になっても終了がされず、自分たちで作ったキャラクターがより生々しくなってどうやら遊んでいたゲームの中に入ってしまったことを知り、守護者たちをまとめ上げていく異世界冒険譚でも作り上げるのか?それは明らかにこの小説の内容の道を外れる。いや、道の上を言っているといったほうが正しいか。つまりオーバーロードだ。まあそんなことはどうでもいい。今一番考えるべきなのはどうやって超能力の対価を払ってもらうかということだ。これじゃいつ目線があっているかがわからないため、俺のあの技の連発を要する。それは俺の羞恥心にも毒だし、何といっても相手側が不審がらないわけがない。不審がられた結果、俺を白目だけで見るようになって早々に追い返されサンドラをそのまま残して今日が終了なんてなったら最悪の事態だ。それだけは避けなければならない。だから俺はなるべく当たり障りがないようになぜ急にそんな器具を取り付けたかを聞いてみた。
「あの…なぜ急にそんな機械を………」
「ん?ああ、これですか?どうです、かっこいいでしょう。これはある対策のためにつけているんですよ。」
ある対策とは何だ。まさか花粉症対策か?いや、にしては時期が早すぎる。それに鼻が無防備だ。じゃあ、紫外線対策か?いや、だったら俺たちを出迎えてきたとき、つまり常時つけているはずだ。じゃあ何だろう……そう考えていると彼は俺がこの疑問を考えているのをさも見透かしたように
「何の対策かって?それはログさん、あなたへの対策ですよ。」
と、さも当然というように言ってきた。え?もしかしてほかの超能力者とつながりがあったんですか?
「いえいえ、そういうわけではありません。実は先日こんな手紙が届きまして…」
と言って彼はおもむろに黒い封筒の手紙を取り出した。うーん、どこかで見覚えがあるな。しかしどこだっただろうか………忘れてしまった。
「おや、見覚えがあるようですね。ちなみに差出人は閻魔と名乗っています。もちろん私も差出人の住所がないことに違和感を覚えたのですがね、これ、読んでみると結構興味深い内容が書いてあるんですよ。読んでみます?」
そう言って彼は俺にその手紙を渡すと、人畜無害な微笑みをただ淡々と浮かべていた。俺はさっそくそれを読んでみた。するとなるほど、確かに俺のことが書いてある。しかも目を合わせると対価が払わされることもだ。ああ、思い出したぞ。この手紙はあの社会的存在を消す能力者が消え去るときに持っていたやつだ。しかし、この人のもとにも来ていたとはな。これは単なる偶然ではないだろう。明らかに“閻魔”と名乗るやつは俺たちの邪魔をしてきている。対価を払わされた能力者が逆上して俺に対抗するような勢力を作っているということだろう。はぁ、考えるだけでも憂鬱だ。俺も好きでこの仕事をやっているわけではないのに……しかし、どうやって彼を能力者だと特定したのだろう。彼だけではない。社会的存在を抹消させる能力者もだ。彼はほかの能力者とのつながりはないと言っていた。しかももしその言葉が嘘で本当は関係があったとしてもおかしい。なぜならそんな関係があったら俺たちはきっと今頃その能力者集団に囲われて滅多打ちにされているだろう。ということはそういう超能力者でもいるのか?俺が今まで戦ってきた中で超能力者を見つける能力者なんていなかったし、ましてや超能力者に作用する超能力者なんて一人もいなかった。だから俺はいつしか超能力者に作用する超能力者は俺だけだと思っていたんだが………それは間違いだったようだ。間違いなのか?いや、こういう状況を鑑みると間違いなんだろう。
「満足しましたか?」
相変わらず人畜無害な微笑を携えて彼は俺にそう聞く。
「ええ、大体のほうは分かりました。」
「そういうことなら…」
というと彼は手に持っていた扇子で椅子の柄を「パシィィィン!」とたたいた。すると、後ろのふすまが「バタァァァン!」と開き、中からスーツにサングラス姿のガタイの良い男がわらわらと出てきた。やはり、超能力者との関係があったのだろうか。いや、それだったら先ほど嘘をつく必要がない。なぜなら後で滅多打ちにするからだ。ということはこれは何だ。俺は相手側の真意をつかみかけていたが、その場はスーツ姿の男たちの行動によって緊迫したものとなった。なんとアベルを抑えつけたのだ。アベルは「え?あ、え?」と言いながら、囲んできた男たちにむなしくも取り押さえられてしまった。そうなると順当にいけば次は俺だろう。そしてそれはその通りで、余った男たちは俺に向いてきた。ほう、愚かしくもこの産まれてこの方口喧嘩では無敗の俺に喧嘩を挑むというのか。ふ、愚かだな。そして俺は……………あっけなく捕まった。仕方ないだろ。だって無敗なのは口喧嘩の話だし。そして俺たちは彼の前に押し並べられた。
「こんな対応になってしまって悪かったとは思っているんですよ。ですがね、あいにくこの手紙だけではあなた方が敵か味方かがわからないものでしてね。ですから、このような対応にさせてもらいました。」
アベルを盗み見る。するとアベルは今にも泣きそうだ。おのれこやつめ、最近の俺の癒しに何てことしやがる。アベルが泣き出した暁には俺も黙ってないぞ。俺だって泣き出してやる。え?意味ないって?仕方ないだろ。これくらいしかできないんだよ。しかし、相手方に敵意はないらしい。道理で取り押さえ方も息がしやすい取り押さえ方なわけだ。ここで変に刺激してしまっては困る。俺はなるべくさわやかにこう告げた。
「一つ、分かってほしいのは私たちは敵ではないということです。対価というものですが、能力には対価というものがあってそれを払わない状態でいるとその方自身の脳が海綿状になっていつしか破壊衝動しかない破壊兵器になってしまうんです。ですから私たちはその対価を払ってもらうために来ました。あと、私たちの仲間がここで能力の影響を受けてとらわれてしまっているのでその救出もしに来ました。」
すると黙って真剣な顔で聞いていた彼は納得したように一回うんとうなづき、こう告げた。
「大体あなたたちの言っていることは分かりました。また、仲間がとらわれていたことについては申し訳なく思っています。僕たちもそうならないように能力を使う前、事前に許可を取っていたのですが、そういう事情でしたらすぐに開放します。」
その後、なんとか彼の信用を得た俺たちはサンドラ救出へと動いた。しかし、なぜ彼はこんな人里離れたところでひとをかっさらっては農耕をさせていたのだろう。少し気になったので聞いてみた。
「しかしなんでこんなところでこんなことをやっていらっしゃるんですか?」
「ああ、それはですね、よく祖父とかに昔は良かったと言われるもので本当にそうなのか色々な人に昔の暮らしをさせて幸福度を測ってみようとしたんです。もちろんその前段階として私もやりましたよ?その結果は現代のほうが断然よかったんですが、何せ主観なもんでね。ですから数を取って本当に私の感性は正しいのか、昔より現代のほうがいいのかを調べてみようと思ったんです。ですからあの人たちはその記憶が残るように催眠状態にしてあるんですよ。」
呼びかけても反応しませんでしたが。
「それはだってもしここにあなたのような人が来て彼らに何らかの影響を与えたら正確ではなくなるでしょう?ですから催眠状態で他人を意識の外へ追いやるように命令したんですよ。」
ていうか、だったら催眠状態にする必要あったんですか?そのまんまの状態で他人を気にしないようにすればいいだけじゃないですか。
「住めば都という言葉があるように、その物の真の良さっていうのは時間が経ってからでないとわからないことがあるでしょう?あまりに短期間で終わられては困るので催眠で半ば強制的に期間を設定したんですよ。ちなみにこのことは参加者には伝えております。」
なるほど。そういう意図があったのか。しかも事前に教えているってことは……これは後でサンドラを叱らないといけないな。一体なんでそんないかにも危険そうなやつにホイホイかかるかね。
「ああ、ちなみに言い忘れていたんですけど………彼女が欲しがっていた報酬は好きな人とうまくいく方法です。」
ふーん、まあそれは俺がとやかく言うことではない。あいつだって学校で好きな人の一人や二人ぐらい入るだろうからな。っておい、さっきっから二人してなんだその目は。別に俺を見ても年相応のおじさんしか映んないぞ。そんなことを思案しているとアベルが
「つきましたぁ。」
と言った。そこには奇怪なダンスを踊っているサンドラの姿があった。どうやらその団体で輪となり踊っているようだ。ときおり「けぇぇぇん!」やら「きぇぇぇ!」やらといった迫真の声が聞こえてくる。俺は何事かと思って呆然としていたのだが、彼はクスクス笑いながらこう言う。
「きっと今は神事の時間だったんでしょう。」
そんなことまで組み込むのか。彼のその徹底ぶりには驚いた。彼はサンドラのもとへ近寄るとパチンッと指を鳴らした。するとサンドラは糸が切れたように倒れこんだ。体中に筋肉痛を抱えて体もまともに動かせないというような体の起こし方をし、俺を視界に入れると突然泣き崩れた。俺の顔、そんなに怖かったか?心配して駆け寄ると涙でむせながら途切れ途切れにこう言った。
「ご…めん…なさい………ごめん…なさい!私…辛かった。」
そりゃそうだろう、半日こんな寒空で農耕してたら
「そうじゃないの…私が辛かったのは…ログと喧嘩したこと…ログ、いつまでも私たちを子ども扱いするから…」
そこで俺ははっとした。確かに俺はサンドラとアベルを子ども扱いしてしまっていたのだ。そうか、それはつらかったな。ごめんな。俺は今までの失態を謝った。そうだ。こいつらはいつも俺と対等でいようとしたんだ。もしかしたらサンドラがこの人探しに参加したのも俺に「自分もできる」ってところを見せようとしていたのかもしれない。そんなこいつらの行動を無碍にしてきた俺は大馬鹿者だ。ごめんよ、サンドラ。ごめんよ、アベル。俺はそのことについてサンドラに、そしてアベルに深く謝罪した。
「本…当?私も一人の女としてみてくれる?」
涙は止まったがまだ泣き後の残る眼で俺を見てそう聞いてきた。もちろん、俺はその問いかけに大きくうなずいてこう言った。
「当然だ。」
ついでに依頼者の夫も返してもらった。依頼を達成するためだ。これは後日分かったことなんだが、依頼者とその夫はこれからの将来について喧嘩したらしい。で、夫のほうが家を出て、何日たっても帰ってこないことから警察に相談したところ、撰奸山付近で足取りが途絶えたそうだ。で、昨今の撰奸山の事件を知っていた依頼人は不安になり俺たちに依頼しに来たと。
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