時と重力
こんな話を聞いた。山の頂上とふもとでは流れる時間のスピードが違うと。なんでも時間とは重力と関係していて、重力が強いところでは時間は早く、弱いところでは時間は遅くなるらしい。ということは、例えばもし、宇宙で暮らせるようになったとして、俺のこの若気あふれるたくましい肉体と新進気鋭のこの頭脳とが自分とともにある時間は地球より宇宙のほうが長いということだろうか。もしそうなら今すぐにでも宇宙に移住したいね。そう思った所存だ。
俺の名前はログ・ジェイン。都市の郊外で小さな探偵屋をやっている。探偵といっても普通の探偵ではなく、対超能力者用の探偵をしている。超能力者とは何だって?それは一言で言ってしまうと非現実的な能力を操る者たちのことを言う。もっともそのような事件は頻発するようなものではなく、すっかり平和になっちまった今は”対超能力者“という大看板は有名無実化して、猫探ししかしておらんのだが。しかしまあ、なんだ、それは人として喜ぶべきことなんだろう。そう呟き、近くにあったコーヒーカップを手に持った俺は、残りを一気に飲み干した。
ある日のことである。いつものようにコーヒー片手に朝刊を呼んでいた俺は、ふと、不思議な事件を目にする。その内容というのは大体こんな感じだ。
「不可解!潰された遺体!
十四日未明、民家でプレス機にプレスされたような遺体が見つかる。しかしあたりにはそれらしきものはなく、また、通った跡もない…」
俺はそれを見てピーンと来たね。これは超能力者関連だって。だってそうだろう?プレス機が周りを通ったんなら何かしらの跡が残るはずだし、第一被害者がプレス機に潰されるまでのうのうと待っていたりなんかしない。これは超能力者関連の事件だ!久々の出番に喜んだ俺は先月目の前に建設されたビルのせいでコンクリート壁しか見えなくなった窓を振り返って外を仰ぎ見ながらこう快哉を叫んだ。「これだ!」
それからの俺の行動は速かった。午前中のうちにその事件を担当しそうな部署にあたりをつけて昼ご飯を掻き込み、午後にはその警察署へと突撃していた。まあ、結局断られただけだったが。それにしても俺を担当した人の奇異な目が解せない。本当はあちら側から誘うべき人材のはずの俺が自ら名乗り出てやったというのになんだあの態度は。まるではれ物にでも触るような顔であったではないか。あんな奴らの捜査協力なんてこっちから願い下げだ。よし、一人でやってやろう。そう決めた俺はまずは資料集めからだと奮起しなおしたのであった。
俺はまず事件の起きた民家から調べた。すると、大体このようなことが分かった。
「事件のあった民家では父マイク(47)母メアリー(45)長男クリス(23)長女エミリー(21)末っ子ジョン(17)の五人で暮らしていた。マイクは高学歴高収入であった。ある日、事件は起きた。エミリーが仕事から帰宅すると、そこには何かに押しつぶされたような誰かの遺体が、、、その時、メアリーはどこかに出かけに、クリスはどこかに遊びに、ジョンは塾で勉強をしていた。メアリーはジャックという隣人が証言し、ジョンはその塾の塾長その他仲の良い生徒が証言し、クリスの証人はいなかった。のちにその死体は父親と分かったらしい」
ふむ、なるほどな、事件の概要はつかめた。にしても、凄惨な事件だな。早く解決してやらんと。
次に俺は隣人に家族のことについて聞いて回った。以下はその要約だ。
「高学歴で高収入なマイクにメアリーは全幅の信頼を寄せていた。周りに自慢していたらしい。しかし、マイクは子供たちとはそりが合わないようで、それぞれに問題を抱えていた。まずクリス。クリスは大学も卒業したのにろくすっぽ働かずに親のすねばかりをかじっていた。マイクはそんなクリスを全然誇りに思っていなかったし、恥じてさえいた。もちろん、クリスもそのことは知っていた。次にエミリー。エミリーにはスティーブという彼氏がいるが、彼の親はギャンブル依存症で多額の借金を抱えていた。そんなスティーブと付き合っているエミリーにマイクはあまり良い印象を持っておらず、周囲に不安を漏らしていた。結婚の話を持ち出されたときは業腹だっただろう。最後にジョン。ジョンは将来IT系の職業に就きたいと思っており、そのために最先端の研究を行っている海外の大学に行こうとしていて、その学費の件で親ともめていた。」
自身の書いた秀逸なまとめに自己満足し、漏れがないことを確認した俺は疲れ果ててイスに深く腰掛けた。その時、わが探偵事務所の扉をたたいたものがあった。なんだ一体、俺はこの重大な事件を解こうとしているんだぞ。こんな時に猫探しの依頼なんて受けてられないんだ。そう内心では文句を言いながらも一応は客なので重い腰を上げ、素早く招き入れた。するとどうやらあの事件のあった民家の隣人があんな遠くからはるばるやってきたらしい。そして彼女は衝撃の事実を告げた。
「そういえばこれを言い忘れていたんだけど、メアリーさんはどうやらジャックさんと事件のあった日一夜を過ごされていたらしいわよ。」
そういうと彼女は「じゃ、そういうことだから」と言って去っていた。
それから数日、俺は思考を練りに練り、やっとある結論に至った。「そうか!あいつが犯人だったのか!」事件の真相にたどり着いた俺は隣人から入手した電話番号をもとにその犯人と会う約束をした。相手方は俺のことを相当不審に思っていた。まあそれも無理はない。俺と例の家では一度も会話なんてなされていないんだからな。それでも何とか約束へとこじつけたさ。約束の時刻は明日の9時で場所は近くの公園だ。
そしてその約束の時刻が来た。約束通り公園で待っていると、俺に近づいてくる影があった。そして街灯の下に照らされた顔は、そう、私が犯人だと推理したエミリーであった。
「あの、、、誰ですか?」
「なに、私はただの探偵ですよ。単刀直入に申します、今回の事件の犯人はあなたですね?」
そういうと彼女は一瞬だけ驚いたような顔になった後、急に笑い始めた。薄気味悪い。なんで犯人とは自分が犯人だといわれるといっつも笑い声をあげるのかね。
「フフフ、、、そうよ、私が犯人よ。どうしてわかったのかしら?」
「なに、簡単な推理ですよ。クリスやジョンの夢や動機などはよくよく考えたらマイクがいなくなると不都合が生じるものなのです。そしてメアリーに関しては殺意や動機が見当たらない。だから犯人はあなたしかいないんですよ。あなたが超能力を使ってマイクを殺害した、違いますか?」
ここでもっと詳しく話そう。なぜクリスとジョンは違ったかというと、能力者は一般人をすぐにでも殺せる能力があり、ゆえに力関係で比較的優位に立てる。となると必然に殺人についても計画性、というよりかは一種の余裕を持てるようになり、殺人について一歩引いた立場から見ることができる。するとその二人はお金の問題で一家の大黒柱をなくしてしまうのは自分たちの夢や今置かれている環境をより悪くしかねないことに気づくだろう。それに気づいた二人がそのような犯行に及ぶとは考えにくい。メアリーについてはジャックとの関係が動機になった可能性もあるが、彼女の普段からの言動として、近所の人でさえ彼女がマイクに全幅の信頼を寄せているのが分かるほどに信頼していた。ということはメアリーとマイクの関係は思ったよりも深く、ジャックとは一夜の関係であったと考えるのが妥当だろう。要は性欲を満たすためだけの関係だったのだろう。
「うふふ、正解よ。もとはといえばあのくそ野郎が私たちの結婚に口を出したのが悪いんだわ。にしても超能力まで見破られるとはね。まあ、どうってことないわ。だってあなたはここで死ぬんですから。」
そう言って彼女は右手で何かを握りつぶすような仕草をした、、、
しかし、何も起こらなかった。彼女は不思議そうな顔をして「あれ?」と呟いた。そして何度も同じ動作を繰り返して、「あれ?あれ?なんで?!なんで潰されないの?!」とヒステリックな叫び声をあげ、憎悪を帯びた顔で俺をにらんできた。
「あなたの仕業ね、、、」
そう、実は俺も一種の能力者であった。そして俺の能力は「サイキックキラー」。これは自分でつけた名前なんだが、案外気に入っている。内容は見ての通り能力の無力化。もっと細かく言うと半径三メートル以内の超能力に起因する直接的、間接的攻撃の無力化だ。間接的というのは、例えばナイフを念動力で私にゆっくりと近づけた場合は、俺の半径三メートル以内に入った瞬間、念動力は無力化され、ナイフはその場に落ちるが、何らかのナイフを発射する能力を使って射出されたナイフは俺が的だったのならそのまま俺に刺さる。つまり、俺の半径三メートル以内は能力を使えないってことだ。さて、俺の能力の説明も済んだことだし、仕事に移るとするか。俺は彼女の眼を見てこう言った。
「汝忘れし罪を果たせ。」
なかなかかっこいいセリフだろう?俺はこれを言うときいつも気恥ずかしいんだが。ただ、気を付けてほしいのはこれは俺が中二病だから放ったセリフではなく、ちゃんと意味のあるセリフってことだ。そらみろ、この言葉を言った途端、彼女の腰はぐんぐん曲がり、皮膚はしわくちゃになり、歯は抜け落ち、髪はぼさぼさの白髪頭になっただろう?これはどういうことかというと、実は能力にはそれ相応の対価というものがある。彼女の場合は年老いることがその対価だったのだが、我々の持っている能力とは意地悪なもので、このようにしないと対価というものは現れない。対価を支払わないでいるとそのうちその人間の脳は海綿状になり、その結果破壊衝動しかない破壊兵器となってしまうのだ。そうならないために対価を払う必要がある。ん?俺の対価か?それはこのように罪を知らない能力者たちに罪を払わせることだ。さて、能力の副作用の説明も済んだし、仕事も終わったから帰るとするか。後ろを振り返り、歩みを進めようとしたその時、後ろから舌っ足らずのしわがれた声でこう言われた。
「お前、、、何をした!!」
俺はそれに振り返って一言
「対価を払ってもらった、それだけさ。」
この事件の真相はこうだろう。スティーブと付き合っていたエミリーは彼と結婚したいと考え、その旨をマイクに伝えた。しかし、マイクにはスティーブの借金問題で結婚を猛反対されてしまう。スティーブとの付き合いが長くなるほどエミリーの彼への愛は強くなり、いつしかエミリーはマイクに殺意を覚えるようになる。そしてエミリーはマイクを殺せる機会を余裕をもって辛抱強く、虎視眈々と狙っていた。それが十四日だったというわけだ。しかし、疑問なのだが格好の金づるがいなくなったエミリーにスティーブは今まで通り接していたのだろうか。ましてや今や年老いたおばあさんになっちまっているが。それは俺の関与することではない。
久々に読み返したら結構面白かったので、改訂していこうと思います。
或いは続きを書くかもしれません。




