五十嵐月乃との出会い 6話
翌朝、俺は日課の早朝ランニングの時間を弁当作りに割くことにした。
いつもはわざわざ作るのが面倒で晩飯の残り+冷凍食品といった感じなのだが、それをすると今日は冷凍食品のみ弁当になってしまうので流石に月乃に申し訳がない。
冷蔵庫のラインナップと相談しながら適当におかずを作っていると、スマホに通知が届いた。
「こんな時間に何だ?」
キリのいいところでスマホを確認してみると、月乃からのメッセージが届いていた。
「なになに……『一人じゃまともなおかずが作れなかった。ごめんね』……って、そりゃ初心者じゃそうだろうな」
正直そんな気はしていたので驚きはしなかったが、何か嫌な予感がした。
(昨日の感じだと結構はっきりものを言う奴だったよな……まさか)
『それを俺に食わせる気か?』とメッセージを返信する。
すると、すぐに返信が来た。
『もちろん』
いやいや、もちろん。じゃねーよ……
つーか一人でってどこまでだ?レシピとかも見ずに作ったのか?流石に食わせるってことは食えるレベルだよな。
まだまだ月乃のことを知らないからこそ、妙な不安を拭いきれない。
流石に食えないもんを食わせてくるような奴ではないと信じたいが……
そんな不安を抱きながら、支度を済ませて学校へと向かうのだった。
☆☆☆★★★☆☆☆★★★
今日の登校景色は、少し新鮮なものだった。
いつもはそれなりに人が多い時間帯に登校しているのだが、今日はほとんど人がいなかったのだ。それだけで、感じるものが全然違う。
(ずっとこの静寂感に包まれていたい……)
朝の空気感と静かな状況が相まって、神秘的な空気が漂っている。
こんな時は、目を瞑って深呼吸だ。
あー……最高。
「アンタなにしてんの?」
……空気読めよ。
「おーい。後藤ー」
「……」
「光合成してないで反応してよ」
「俺は植物か?」
しまった。俺のツッコミ魂が。
いや、そんなものは持ち合わせていないが。
渋々声の主を確認すると、同じクラスの九条怜だった。
確か九条は……いやこいつのこと全然知らないわ。
「アンタって朝こんなに早かったっけ?」
「いや、たまたま早くに目が覚めたからな。
そういうお前は早いのな」
嘘だが。
「アタシは朝練」
「何部なん?」
「バレー」
「うちの女バレって強かったよな?」
「まあね。その分練習は大変よ。朝練も毎日あるし」
なんか凄い軽くやり取りしてるけど、初対面だよな?俺が覚えてないだけか?
「後藤って噂通り結構やりやすい奴なんだね」
あ、やっぱり初対面でしたわ。
「どんな噂だよそれ」
「『話してみると気がいいのにぼっちで、何故か浅田くんと仲がいい人』」
「その噂広まりすぎだろ」
まさか月乃と全く同じ回答が返ってくるとは。
もしかして、俺って俊平のせいでかなり目立ってんのか?あいつ…ないわ。
そこから適当な会話をしたりしなかったりして、学校へと辿り着いた。
すると、九条が別れ際にメッセージのやりとりが出来るアプリ『L〇NE』の友達登録を要求してきた。
断る理由もなかったので交換したが、俺はこれから一つの教訓を得た。
「──どっと疲れた。やっぱいつもと違うことをするとダメだな」
九条は悪くないやつだったけど、これから関わって来られるとちょっとめんどくさいな…
そう思いながら、なけなしの気力を出して教室へと向かって歩き出したのだった。




