五十嵐月乃との出会い 5話
誤字報告感謝、感謝です。
家に帰ってからというもの、明日のことで頭がいっぱいで何にも手がつかなかった。
「あー……情けねえ……」
こんな状況で、予定通りの芝居をするだけのはずなのに、変に意識してやまない。
仮にも学校一の美少女から告白されると思うと、緊張が止まらなかった。
「───っあああああ!!」
忘れよう。
家事して気を紛らわそう。
そう思って晩飯を作ろうとしても、すぐに手が止まってしまう。
(興味なさげな態度をとっておいてこれか…笑いもんだな)
いくら我が道を行くタイプの俺でも、一介の男子高校生だ。頭では割り切っていても、どこかでこの状況を喜んでいる自分がいるのだろう。
「ダメだな。惣菜でも買いにいくか……」
米だけは炊き始めていたので、スーパーで惣菜を買ってそれを晩飯にしよう。
そう決めた俺は、早速最寄りのスーパーへと向かうのだった。
☆☆☆★★★☆☆☆★★★
スーパーに着いて惣菜コーナーを物色していると、突然声をかけられた。
「あ、陸くんだ」
「あ?……五十嵐!?」
なんという神のイタズラか。
そこには、件の五十嵐が立っていた。
「どうしたの?」
「いや、奇遇だなと思っただけだ」
「ふーん……あと、五十嵐じゃなくて月乃でしょ?名前で呼び合うって決めたじゃん」
「ああ、悪いな月乃」
俺と五十嵐──もとい月乃は、別れる最後に二つの決まり事を決めていた。
一つ目は、名前で呼び合うこと。これはもちろん朝の茶番劇が終わってからだが。
二つ目は、毎晩連絡を取り合うことだ。
月乃曰く学校でボロを出さないためだそうだが、正直そこまでする必要はあるのか?と俺は思っている。
「陸くん、今晩はお惣菜なの?」
「ああ。誰かさんのせいで飯作る気が起きなくてな」
「えー、なにそれ」
「つーか、月乃もスーパーで買い物なんてするんだな」
「私はお使いだよ」
お使いか。俺は一人暮らしになる前までは買い物なんて行ったことなかったな。偉いこって。
「ていうか陸くん、料理するんだ」
「俺は一人暮らしだからな」
「え!すごい!」
「そうか?」
急にテンションを上げてくる月乃。
「すごいよ!私なんて家事はさっぱりだもん」
「学校のアイドル様にも苦手なもんはあるんだな」
「むむ。違いますー。やったことないだけですー」
え。急に何。可愛いんだけど。
「何その顔。絶対信じてないよね」
呆気に取られていただけなのだが、勝手に勘違いをする月乃。
「じゃあ明日お弁当のおかず交換しようよ。私自分で作ってくるから」
じゃあってなんだよ。じゃあって。
俺は何も言ってないだろ。
「私そろそろ行くね。また明日」
「おう」
勝手に約束をするだけして去っていく月乃。
「嵐のようなやつだな……」
でも、悪い気はしなかった。
あと、実際会ってみると緊張してたのがアホくさくなってきた。
学校のアイドルなんてあだ名が独り歩きしているだけで、実際は結構フレンドリーなやつなのかもしれない。色々脅してくるけど。
俺はなんとなくおかず交換は手が抜けないなと思って、明日は普段より早く起きようかなと悩みながら適当な惣菜を手にレジへと向かっていったのだった。




