五十嵐月乃との出会い 4話
明日の朝告白するからOKしろ。
俺には五十嵐が言ってきたことの意味が、よくわからなかった。
「……じゃあ、今日のこれはなんだ?」
「うーん……打ち合わせ?」
「明日する意味は?」
「みんなのいるところで改めてするんだよ。そしたら早いとこ広まるでしょ?」
こいつ、俺を殺す気か?
「いや……意味あるのか、それ?俺が嫉妬の目に晒されるだけだろ」
「我慢して」
「俺は平穏に学校生活を送りたいんだが」
「それなら尚更だね。あなたの選択肢は私に敵対して学校生活を送るか、私の隣で学校生活を送るかの二択だよ。
後者は最初は色々あると思うけど、そのうち望み通り平穏に過ごせるよ。私に嫌われたい人はいないだろうし。
それに対して前者は……わかるよね?」
「……」
なるほど。これがこいつの言う俺側のメリットということか。
まあ、確かにこいつの隣というポジションに収まることが出来れば、それは平穏に過ごせるだろう。それどころか一気にカーストトップだ。
しかし、そんなポジションに俺なんかが認められるのだろうか?
答えは否だ。
こいつの誘いは悪魔の誘いだ。一見お得に見えても、絶対に面倒なことしか待っていない。
しかし、断ることは出来ない。
クソ。いっそ転校でもするか。いや、そっちの方がめんどくさそうだな。
「わかったよ……」
渋々。
渋々提案を受け入れると、五十嵐は満足そうに頷いた。
───クソ。可愛いな。
さすが学園のアイドルと言われるだけもある。
五十嵐を悪魔のように感じている俺でも、その笑顔はとても魅力的なものだった。
「じゃあ、少し前に助けてもらった時に私があなたのことを気にし始めて、それで好きになったって設定で行くね」
「なんだそれ。無理あるだろ」
「……そう?普通だと思うけど」
「まあ、設定ならそんなもんか」
「それに、ここ最近は気になってる人がいるって断ってたから大丈夫だよ」
「用意周到なことで」
それから二・三言言葉を交わしたら、今日は解散となった。
明日からがとても憂鬱だ。審判待ちの罪人ってこんな気持ちなのだろうか。
早く帰ってふて寝しようと思って階段を降りていくと、五十嵐は本意なのか不本意なのか、特大の爆弾を落としてきた。
「設定じゃないんだけどな……」
俺にわざと聞かせたのか、本当に口から漏れてしまったのか。
俺が慌てて振り返っても、五十嵐はこちらのことを気にすることもなく廊下の先へと歩いて行ってしまったのだった。
「設定じゃないって……俺は学校で誰かを助けたことなんてねーぞ」
誰かと勘違いしているのだろうか。
それならなんかそいつに申し訳ないな。
いや、嘘です。今すぐポジションを変わってあげるので名乗り出てください。
──そんな現実逃避をしながら、俺は自宅へと帰るのだった。




