九条タイム 2話
詐欺まがいの手法で俺の放課後を獲得した九条。あんな強引なやつだとは思いもしなかった。
なんて文句を言っても意味はなく、気がつけば放課後になっていた。
一応スマホを確認してみると、九条からメッセージが届いていた。
『商店街で待ってる』
九条の思いやりだろうか。確かに月乃とのことを考えれば一緒に下校というのは少し抵抗があった。
『制服でか?』
『後藤の家が近いなら一旦帰ってもいいよ。私服の方がバレないだろうし』
『商店街なら近いぞ。九条も?』
『近い。私服にしよう』
そうして俺と九条は放課後私服デートをすることになった。月乃ともまだしたことないのに。
いや、月乃とそこまですることもないだろうが。
一旦家に帰ってから商店街へとたどり着いた。九条からは既に到着しているとのメッセージがあり、北口で待っているとのことだった。
(九条は…………)
無事発見。とは問屋が卸さなかった。
俺が見つけたのは九条とガラの悪い男二人組。まああれだ、ナンパというやつだろう。
九条に近づいていくと、段々と声が聞こえてきた。
「おいてめえ……いい加減にしろよ」
「……」
「こっち来いや」
男の片割れが九条の手を───あれ?もう一人の男の手を掴んだぞ?
「すんません!ほんと、アニキの妹だって知らなかったんです!」
「ああ?てめえ、女にはいつも優しくしろって教えてるよなぁ!?」
「すんません!すんません!」
うーん……見なかったことにして帰ろうかな。
「あ、後藤」
「げ」
見つかった。
「ほう。てめえが後藤か」
先程アニキと呼ばれていた男が俺を値踏みするように眺める。
「これアタシの兄貴。出かけるとこ見つかっちゃって」
「へえ……」
驚きすぎて何も言えない。いや、へえとは言えたけど。
「怜はこんなやつが好きなのか……」
「兄貴。そういうのじゃないって言ったでしょ」
「ふん。ま、男は中身だ。ヘタレなことすんじゃねえぞ」
九条の兄は、意味深なことだけ言い残すともう一人の男の首根っこを引っ提げて去っていった。
「……ごめん。誤解は解いとくから」
「いや……すげえ兄さんだな」
「色んな意味でね」
九条にも思うところがあるのか、少し遠い目をしたような気がした。
「ま、このことは忘れて今日は楽しもう」
「いやいやいや無理がある」
ヤクザの頭みたいな感じだったし、その妹と二人っきりで遊ぶって難易度高すぎるだろ。
「キョドってる方が兄貴に目付けられるけど」
「さーて今日はどこに行く?なんでも奢ってやるぞー」
「……」
振り絞った勇気は、あからさまな空元気だった。




