九条タイム 1話
「後藤ー。ちょっといい?」
その日、俺は学内で珍しい人物に絡まれていた。
「どうした?」
「んー。すごく面倒なことを頼みたいんだけど」
「断る」
やはり。やはりあの朝早起きなんてしていなければ……!
「だと思った。だから交換条件としてこれを持ってきてる」そう言って差し出されたのは、映画無料券のペアセットだった。
「これは……」
「これでなんとかならない?」
……全く欲しくもねえ。
だが、月乃と付き合っているということにしてる手前、欲しがるのが普通だろう。
「……案件次第だな」
ここは一旦様子見だ。
「先輩が五十嵐さんの知り合いらしくて、アンタのことを教えろってうるさいんだ」
「俺なのか?」
「そう。知り合いだって言ったら詳しく聞かれてさ。でもアンタのこと何も知らないし」
ふむ。これは悪くないんじゃないか?
いや、勿論付き合ってる体を保つためだ。それがなかったらお断りしている。断じてだ。
「具体的には何が知りたいんだ?」
「誕生日と血液型」
「相性占い目的かよ」
「冗談」
「冗談かよ」
九条のペースがわからねえ。冗談とか言うやつだったのか。
「先輩にもそこまで具体的に聞かれてないから。まあ教えてもらうというよりは一日一緒に遊ぶって感じかな」
そう言ってペアチケットを掲げる。
「いやその為のチケットかよ」
「冗談」
「冗談かよ」
冗談好きすぎだろ。
「行き先はアンタの好きなとこでいいけど、やっぱり五十嵐さんとのこともあるし厳しい?」
「それは構わんと思うが、俺個人的にめんどいな」
「遊んだ後のご褒美が欲しいってこと?」
「ご褒美て、おま!?」
「冗談」
もうええわ。
「ダメなら適当に誤魔化しとくけど」
「あー、じゃあそれで」
「ナンパ野郎でいい?」
「ダメに決まってるだろうが」
「なら今日の放課後でいい?部活ないから」
「え?ああ……」
「よろしく」
約束をすると九条はすぐに去っていった。
え、『冗談』って流れじゃなかったの……?




