登校風景 2話
「陸くんおはよう」
「月乃か」
やってきたのは月乃だった。
「浅田くんと平田さんもおはようございます」
「五十嵐さん、おはよう」
「五十嵐さん!」
……騒がしくなってきたな。
つーか、なんで登校中に示し合わせたように知り合いばっか集まってくるんだよ。
「五十嵐さん、麗奈のことありがとうね」
「いえいえ」
「それでさ、麗奈に成績のこと聞いても全然教えてくれなくて──」
それから、俊平と月乃は二人で話し込んでしまった。そんなに麗奈のこと気にかけてたのか俊平。
「ちょっと後藤、なんで俊平くんと五十嵐さん家族ぐるみの付き合いをしてるの?」
「色々」
「そこを教えなさいよ」
当然、取り残されたのは俺と平田。
平田が俺に話し掛けてくるのも、当然の道理だった。
「ていうか夏休みの件忘れてないでしょうね」
「ああ、忘れていたかったよ」
「は?」
「冗談だ冗談」
怖えーよ。平田はおっかないですよ俊平さん。
「つーか平田、俊平の前でも俺に容赦ないよな」
「まあね」
「もう俊平の前でキモくなるのやめれば?」
冗談めかして言ったが、半分は本気だった。
実際、俊平に本性を隠す気はなさそうなのに俊平の前では取り繕う意味がわからない。俺は平田情緒不安定説を提唱したい。
「んー……」
平田は珍しく濁すような返事をして黙り込んでしまった。ラッキー。
なんて思ったバチが当たったのか、平田から相談をされる。
「なんて言うか引くに引けなくなったっていうかね。私にも若い頃があったって話」
「ババアの相談は受け付けてねえぞ」
「ふふふ。面白いこと言うじゃん後藤」
おっとこれは初めて見るパターンだ。こういう時は謝るに限る。
「すまんすまん。平田は可愛い女子だったわ」
「じゃあ相談に乗ってくれる?」
俺の失言を盾にしてくる平田。相変わらず容赦ねえな。
「わかったよ」
渋々了承すると、俊平達には聞こえないように平田が話を始める。
「ありがと。まあさっきの話なんだけど、私もこのままじゃダメだって思ってるのよ」
「やめりゃいいじゃん」
「それができないから困ってるんでしょうが!」
まったくもってその通りです。まったくもってその通りなので背中を叩くのやめてください!
「でもそんなん平田の気持ち次第だし、俺に何しろってんだ?」
「うーん……俊平くんってガード硬いじゃん?」
「そうなのか?」
「うん。それで、やっぱり接し方を変えることで今の関係が壊れちゃうのが怖くて」
「そんなことになるか?」
「かもしれないって話。そこを後藤に取り持ってもらいたいんだけど」
「そんなことできるかね?」
「使えないわねあんた」
呆れた眼差しを向けられる。
勝手に期待したのはそっちなのに……
「仕方ねえな。全部俺に任せとけ」
「いや、やっぱ不安だからいい」
「おい」
今の話はなんだったんだよ。
結局、平田はそれ以降この話をすることは無かった。




