勉強会 6話
リビング以外の掃除を済ませてからリビングに戻ると、二人は神妙な顔で勉強をしていた。
「お前ら大丈夫だったか?」
「陸くん!あのね、あれは……」
「あーいや、わかってるから。水こぼしたんだろ?」
「そうそう……って、わかってたの!?」
ガバッと立ち上がる月乃。
そんなに驚くことか?
「月乃さん!?」
「……あっ」
慌てて座り直す月乃。
……いったい何だってんだ?
「あの……やっぱり月乃さんは……」
「……ううん。私が悪いんだもん」
何やらひそひそ話をする二人。
よくわからんが、よくわからんことはよくわからんままでいいやってのが俺の信条だ。
「んじゃあリビングも掃除機かけてっていいか?」
「はい。ホコリは落としときました」
「さんきゅー」
ぶおおおおおんと掃除機を鳴らしながらリビングを回る。
「……」
「……」
「……」
なぜかこちらをじっと見てくる二人。
ふと振り返ると、慌てて目を逸らされた。
(なんでこんなに見られてんだ?俺、何かしたっけ……)
ダメだ。心当たりがなさすぎる。
さっき少しいじわるはしたが、そんなの日常茶飯事だしなぁ。けど、何かあったとしたらさっきのだよな。確かにちょっと下感はあったが、こんなピリピリするか?
結局どれだけ考えても答えは出ず、聞くわけにも行かないので忘れることにした。
二人も努めて平常を装っているようだったのでそっとしておこう。
掃除を終え、俺も席に着く。
すると二人はピクりとして、先程より重めの緊張が走った。
気にしない気にしない。
そのままスマホを弄っていると、急に麗奈が立ち上がった。
「ちょっとトイレ!」
そして勢い余って、椅子に足をぶつける。
「あだっ!」
「ちょっ!?」
麗奈は体勢を崩し、机の上のコップは倒れかけた。
ギリギリのところでコップの方は防げたが、麗奈は盛大に転けていた。
「〜〜っ」
「お前なあ……」
「麗奈ちゃん、大丈夫……?」
仕方ないので麗奈に手を貸す。
「りっくんありがと」
「気をつけろよ?」
「うん……」
麗奈は腕から転けたようで、そのまま腕を抑えながらトイレに消えていった。
さすがに気にしない方が無理な話になってきたので、今のうちに月乃に聞いておこう。
「月乃、結局なんなんだ?」
「な、何が?」
「いや、何かあったんだろ?あからさま過ぎるぞ」
「えっとー、まあそれはそうなんだけど……ごめん。内緒にさせて?」
月乃からも話せないことか。
「わかった。けど、無かったことにするならちゃんとしてくれ……よそよそし過ぎて見てられん」
「……頑張ります」
うん。この様子じゃダメそうだな。
麗奈も多分テンパってるだろうし、俺が気合入れて無視するしかないか。
……まさか、スルーすることに力を入れないといけない時が来るとは。
この時の俺はそのことに意識を割きすぎて、月乃の表情にまで気が回ることはなかったのだった。




