勉強会 4話
「そういや麗奈の出来はどうなんだ?」
無言で居るのもいたたまれなく、なんとか絞り出した話題がこれだった。
引き出し空っぽ過ぎだろ、俺……
「……うーん」
「厳しそうなのか?」
「麗奈ちゃんに聞けば?」
「おう……」
何故か不機嫌そうな月乃。
だがすぐに不機嫌オーラは消え去り、今度は月乃から話題がやってきた。
「陸くんはどうなの?期末試験」
「まあいつも通りかな」
「向上心がないなあ……あ、じゃあ私と点数勝負しない?」
「断る」
もはやそれは向上心というよりは無謀な挑戦だ。
「じゃあ敵前逃亡ってことで、陸くんの負けね?」
「いやいや、俺達は敵じゃなくて味方だろ?」
「……意味がわかりそうでわからない」
わかる。俺も自分で何言ってんのかよくわからなかった。
まああれだ、俺は月乃の事を大事に思ってるとかそういう…………いや、忘れよう。
「そんなに勉強したくないの?」
「それだと人聞き悪いけど……まあそうな。普段からしてるし、テスト前に急に入れるほどの気合いはねえ」
「しょうがないなー……」
どうやら勝負の件は諦めてくれそうだ。
いや、最初から勝負にもならないしもはや勝負でも何でもない何かだったが。
「つーかなんで急に?」
「陸くんが頑張ってるところ見てみたいなーって」
「あー、そりゃ無理だな」
「自信満々に言わないでよ……」
努力友情勝利。
それは俺のためじゃなく、俊平のためにある言葉だ。
俺にはせいぜい無力無情無理…………いや、忘れよう。
「私としては彼氏が頑張ってるところを見たいんだけどなー」
月乃が上目遣いにこっちを見てくる。
反則です。はい一発退場。
「ちょっと、なに!?」
月乃の背中を押してキッチンから追い出す。
「皿洗いは終わりだ終わり。そんなに俺の努力が見たいなら、見せてやるよ……今からな」
「えっ?」
「俺の掃除は……本気だぜ?」
何言ってんだ。俺は。
「今のナシで」
「バッチリ記憶したよ」
「無情なり……」
ダメだ。月乃に迫られるとおかしくなっちまう。男の性が憎い。女に生まれてくればよかった……いや、月乃の可愛さは性別なんて関係ないか。
「陸くん変なこと考えてない?」
「月乃がなんで可愛いのかを考えてた」
「ふぇ?」
『ふぇ?』だって。聞きました?奥さん。
真っ赤な顔で俯く月乃。
月乃は照れると俯く癖があるらしい。
しかし、可愛いなんて月乃からしたら聞き慣れてるもんだと思ったが、これはまさか冗談で言っていい感じじゃないのか?
いや、可愛いと思ってないわけじゃないけど。なんというか、正面切って言うにはやっぱり冗談チックに言わないとキツいというか…………いや、忘れよう。
「ありがとう……」
「おう……」
いや、やっぱりキツいわ。こっちまで恥ずかしい。いや、一番恥ずかしいのは俺の言動か。
などと頭の中で色々考えていないといけないくらい、俺の調子は月乃に狂わされていた。




