勉強会 3話
「……」
心を無にして皿洗いする。ああ、まるで俺の心まで洗われていくようだ……
このまま心を無にして、日々の嫌なことを───
「はっ!?」
俺はいったい何を考えているんだ。ストレスから逃げてるために家事にのめり込む奥さんじゃないんだから。
……いや、奥さん以外の部分はあってるわ。
しかし、先程の月乃は強烈だった。あれをされてしまっては、顔が良いって良いなってなってしまう。ややこしいな。
月乃とは平日は毎日昼休みを共に過ごし、土曜日は麗奈との勉強会で顔を合わせている。ずいぶんと親密になってきたと思うが、いまいちその人間性を掴めないでいた。
月乃はとても素直だ。素直すぎて怖い。裏を感じさせなすぎて、底が知れないのだ。
表情は豊かでもないが乏しくもない。喜怒哀楽はハッキリとしており、その表現度合いは低いが感情は読み取りやすい。
そして言葉もその表情と常にリンクしており、何も隠すものは無いといった風を感じる。
まるで、人と関わることに諦めをつけているようだった。
道化の俺とは似ているようで正反対だ。相性こそは悪くないと思うが、その関係が進むこともないだろう。
(ま、長くて卒業までの付き合いだろうし、構わねえか)
ドライな付き合い上等だ。深いお付き合いは俊平で間に合ってるわ。と思っていると、月乃がやってきた。
「陸くん、なにか手伝おうか?」
「ん?麗奈は?」
「問題解いてる」
「あいつ……」
変な気ぃ使いやがったな。
まあハッタリだが俺と月乃は恋人同士だし、麗奈にもそんな俺らの間にいて思うところがあるのだろう。
しかし、今は月乃と居たくない。
「それじゃあ皿洗いの続き頼んでいいか?俺は掃除するから」
「……」
「なんだ?まさか、皿洗いすらできないってわけじゃ……」
「お皿洗いくらいできるよ。そうじゃなくて、私は陸くんを手伝いに来たんだけど」
わけのわからないことを言う月乃。
「いや、だから皿洗いをだな」
「もー。そうじゃなくて、陸くんと一緒に何かやりたいってこと」
「は……」
なして?
「じゃあ私お皿拭くから。陸くんはそのまま洗ってて」
「おう……」
月乃と並んで皿を洗う。
ちらりと月乃を盗み見ると、穏やかな顔で皿を拭いていた。
(新婚夫婦かよ……)
なんて普段なら口に出してる台詞も、今は口にすることができなかった。




