きれいな夕日だね
超短編ホラーです。
おばけ系ではありません。
きれいな夕日だね
「ねぇ、みてみて!今日の夕日はすごく白くて眩しくてきれいだね!」
わたしは夕日の方を指差しながら振り返った。ベンチに座らされたクマのぬいぐるみは、ボーッと草むらを眺めて何も反応してくれない。
わたしはベンチに駆け寄り、クマを抱きかかえると夕日の方へ向き直った。
夕日は先程よりも近づいて見えた。
「なんか、さっきよりも大きくなったね!すごい!こんなのはじめて見る!」
その時地面からドサッと鈍い音がした。
興奮してぴょんぴょん跳ねたせいで、クマの頭が取れてしまったのだ。
あ…また落ちちゃった…
その光景を見ると、不意に悲しい気持ちが全身を包み込んだ。
お父さんから一生懸命に守ってきたクマさんも、そろそろ死んじゃうのかもしれない。
クマさんじゃなくて…わたしにも、わたしを大切にしてくれる家族とか…友達とか…いたらいいのに…
どうしてわたしにはいないの…?
大粒の涙が頬を伝った。
いっそみんな消えて無くなればいいのに…
一度強く目をつむってから、そっとクマの頭を拾い再び空を見上げた。夕日は先程よりも近くにあった。白い煙を濛々と上げながらこちらに急接近している。
どうせ、わたしはずっと一人ぼっちなんだろうな
そう思った瞬間、強烈な光とともに空から突風が吹きつけた。
わたしは反射的に目を閉じた。
その瞬間、時がゆっくりと流れているような不思議な感覚におそわれた。まぶたの裏には何か映像が流れている。
(みーちゃん、4歳のお誕生日おめでとう。これ、お母さんからの誕生日プレゼント、開けてごらん。お父さんには内緒だからね。2人だけの秘密。
箱を開けるとそこには、目がクリッとした可愛らしいクマのぬいぐるみが入っていた。
わー!可愛い〜!ありがとう、お母さん!大切にするね
ふふふ、喜んでもらえてお母さんうれしい)
お母さんが微笑んだのを最後に映像は途切れた。
心の中は暖かい気持ちで満たされていた。なんだか、もう一度お母さんに会えるような気がした。
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