第八章 別れの時
アタシは何となく寂しくなっていた。
「どうしたんだよ?」
と通君が声をかけてくれた。
アタシはハッとして、
「ううん、別に。どうもしてないよ」
アタシは通君と美津子ちゃんを伴い、三次元世界の通君の家の前に戻ったところだった。
夜も更けていたので、誰も外にいなかった。
「何か今思い出してみると、夢みたいな日だったなァ」
「ホントね」
通君と美津子ちゃんのツーショットがあまりにも絵になっているのを見て、アタシは何とはなしに嫉妬してしまった。
「やっぱり2人は相思相愛なんじゃないの」
アタシは嫌味を込めて言った。
すると通君と美津子ちゃんはキッとアタシを睨み、
「こんな奴、そんな関係じゃないってば!」
と見事にハモって言った。
アタシは大笑いして、
「そこまで気が合えば、大したものよ」
そんなアタシ達の声を聞きつけて、久美子ちゃん達が外に出て来た。
「お兄ちゃん! 美津子さん! エンジェルさん! 無事だったのね」
「よォ、今帰ったぜ。晩飯、遅くなったけど、大丈夫か?」
「うん!」
久美子ちゃんは涙を拭いながら応えた。
通君は恥ずかしそうに美津子ちゃんを見て、
「飯食ってけよ。いろいろあって、腹減ったろ?」
と声をかけた。
美津子ちゃんは素直に頷いて、
「久美子ちゃんの料理、おいしいからね。頂くわ」
「エンジェルさんもどうぞ」
と久美子ちゃんが言ってくれた。
アタシはヘラヘラして、
「そ、そう。ありがとう」
と応えた。
実はもう倒れそうなくらいお腹がすいていたのだ。
久美子ちゃんと香ちゃんは協力して、たくさん料理を作ってくれた。
美津子ちゃんは参加していなかったが、深く追求するのは彼女の名誉にも関わるので、何も尋ねなかった。
みんなは楽しそうに食事していたが、アタシだけが気分が乗らず、沈んでいた。
通君達と別れるのが、何となく悲しかったから。
「さてと」
アタシはこれ以上長居をしてますます寂しくなるのも嫌なので、立ち上がった。
みんながアタシを見た。
「おいしかったよ、久美子ちゃん」
「ありがとう、エンジェルさん」
アタシは通君を見て、
「いろいろ迷惑かけたね」
「そうかな? 俺は楽しかったぜ。ま、死にかけた時は焦ったけどな」
「ハハハ」
アタシ達は外に出た。
星がいっぱい輝いていて、綺麗な夜空だった。
「じゃあね、みんな。もう会う事もないかも知れないけど、元気でね」
「ああ。お前もな」
と通君はニッコリして言った。
美津子ちゃんはグッと涙をこらえているが、香ちゃんと久美子ちゃんはすっかりヒクヒクしている。
「まァ、会う事もないなんて言わずに、たまには遊びに来て下さいよ。いつでも大歓迎ですよ」
とお調子者の信一君が言ってくれた。
アタシは苦笑いをして信一君を見た。
「それじゃ」
アタシは翼を広げた。
「あれ?」
アタシは知らないうちに泣いていた。
頬を伝わる涙を感じて、やっとそれがわかった。
( ダメだ、アタシ…。ダメだ… )
アタシは心のわだかまりを振り払うように首を横に振り、通君を見た。
美津子ちゃんはハッとしてアタシを見た。
「大好きだよ、通」
「えっ?」
アタシは通のほっぺにキスをして、バッと飛び立った。そして、
「美津子ちゃん、今度会う時までに通とくっついてないと、アタシが通をとっちゃうぞ!」
と言った。
すると美津子ちゃんはフフンと笑って、
「どうぞご勝手に。こんな男、いつでも連れてっちゃってよ。せいせいするわ」
「素直じゃないわね」
「大きなお世話」
美津子ちゃんはニッコリしてアタシを見上げた。
通君はやっと我に返って、
「こ、このヤロウ! 俺は物じゃねェんだぞ! とるとかとらねェとか、勝手に決めるな!」
と叫んだ。アタシは通君を見て、
「バーイ、通。またね」
と言うと、上空へ飛翔した。
そんなアタシを見上げている通君を見て、
「もう、デレーッとしちゃって。嫌らしいんだから」
と美津子ちゃんが言った。
通君はムッとして、
「何が嫌らしいだ! お前なんかより、エンジェルの方がずっといい女だぜ。あいつについて行きゃよかったよ」
「何よ、その言い草は!?」
「何だよ!?」
「やる気!?」
「まァまァ、二人共」
香ちゃんと久美子ちゃんが美津子ちゃんを、信一君が通君を止めた。
この2人、しばらくはこんな具合に続いて行くんだろうな。
ま、いっか。
とにかくアタシは、アークツールス軍に勝って、もう一度あの子達に会いに来よう。
今はそれだけを考える事にする。
じゃあね。