第五章 敵陣突入
アタシと通君は、城の外に出て、転移の準備を始めた。
ミカエル様他、たくさんの仲間達が見守っている。
何か照れるな。
「今度は何するのか前もって言えよな。さっきはちょっとびっくりしたからさ」
と通君は小声でアタシに言った。
やっぱりこいつ、超純情なチビちゃんなんだね。
何か可愛くなって来たな。
「今度は何するのか聞かない方がいいと思うな」
「えっ?」
キョトンとする通君にアタシは、
「さっ、目を閉じて」
「あ、うん」
通君は素直に目を閉じた。
さァ、アタシもサッサと終わりにして、恥ずかしい思いは少しでも短くてすむようにしなくちゃ。
それにしてもミカエル様ったら、何も城中の仲間を連れて見に来られなくてもいいのに。
「うっ!」
アタシは通君の唇に唇を重ねた。
通君はビクンと動き、目を見開いたが、アタシが目で、
( 閉じてなさいよ )
と合図して、もう一度瞑らせた。
アタシは通君の首に両腕をしっかりと巻きつけて抑えていたので、彼は動く事が出来ない。
もしかして、「ファーストキス」を奪ってしまったのかな?
ごめんね、美津子ちゃん。ハハハ。
やがてアタシの身体が輝き出し、スーッと通君に溶け込み、続いて通君の身体が輝き出し、アタシの身体に変わった。
ミカエル様がニッコリして、
「成功したな」
と呟いた。
通君はハッとして自分の身体( だったところ )を見て、
「ワーッ! ホントにこんな…。ヒエーッ!」
と大騒ぎした。
ミカエル様は城の遥か前方を指差し、
「この方向にサタンの城はある。心して向かえ、通」
通君( 姿はアタシだけど )はニヤリとして、
「おう! ありがとよ、ミカエルさん」
と答えると、もう信じられないような速さで、サタンの城に向かって飛び立った。
「面白い男だ」
ミカエル様は楽しそうに笑った。
その頃、地球の久美子ちゃん達のところは、夜になっていた。
「何か通ってさ、いつも俺達の想像を超えたことするよなァ」
久美子ちゃんの手料理を食べ終えて、信一君が言った。
香ちゃんはお皿を片づけながら、
「そうね。矢田君て、何をしても不思議じゃないのよね。あのエンジェルさんの存在だって、矢田君絡みだと全然不自然じゃないんだもん」
「そうだよなァ。あいつ、ホントに不自然じゃないように不自然な事をやってのけるよなァ」
「うん」
香ちゃんはお皿を持ってキッチンで洗い物をしている久美子ちゃんに近づき、
「矢田君は、必ず帰って来るわ。美津子を助け出して」
「香さん…」
久美子ちゃんは泣いていたようだ。
彼女は涙を拭って香ちゃんを見た。
香ちゃんは久美子ちゃんの涙を指で拭い、
「だから泣かないで。絶対に大丈夫だから」
「はい」
久美子ちゃんはようやく微笑んで応えた。
香ちゃんもそれに応じて微笑んだ。
「キャホーッ!」
そんな久美子ちゃん達の気持ちを知らないこのお調子者は、実に楽しそうに五次元の空を飛行していた。
こいつ、転移を解いたら一発殴らないと気がすまないよ、全く!
「あっ、あれか?」
遥か前方にサタンの城が見えて来た。
ついに来たのだ。
通君はニヤッとして、
「さァて、大暴れできるぞ。あそこで何しようが、先公もポリも美津子も、誰も口出しできねェからな」
と言った。
こいつ、とことんケンカ好きな奴。
目的は美津子ちゃん救出だってことを忘れてるのかね?
「おっ?」
何て言っていると、早速お出迎えがやって来た。
下っ端のアークツールス人の兵士達だ。
ざっと数えて1000人はいる。
「おうおう、盛大なお出迎え感謝するぜ」
通君はさらに加速し、先発部隊に急接近した。
「おらおら、雑魚共! 時間稼ぎにもならねェぞ!」
通君のパンチ一発で、数十人が吹き飛ばされた。
こいつ、アタシの転移でまたパワーアップしたらしい。
「うわーっ!」
あれほどいた兵士達が、たちまち蹴散らされて、通君は城に向かった。すると、
「待てーい!」
とさっきの連中より大きい奴が一人現れた。
先発部隊の隊長のようだ。
そいつはニヤリとして、
「さすがに強いな。しかし、このわしはそうはいかんぞ。わしはアスタロト様麾下の…」
と口上を述べ始めたのだが、最後まで言えなかった。
通君( くどいようだが身体はアタシ )の右キックが、股間に炸裂していたのだ。
もう、人の身体使って、どこ蹴ってんのよ!
そいつはもがき苦しみながら、
「ぐおお…。貴様、話を最後まで聞け…」
「バーカ、何か言ってる暇があったら、パンチの一つも繰り出して来いってんだよ」
と通君は、全く血も涙もない裏拳をそいつの顔面に叩き込み、止めを刺した。
隊長は遥か彼方に飛んで行き、見えなくなってしまった。
「よォし!」
通君は城の門をパンチでぶち破り、中に入った。
「こらァ、こんな雑魚ばっかじゃ身体があったまんねェぞ! もっと強い奴いねェのかよ!?」
と怒鳴った。
美津子ちゃんは通君の声が聞こえたような気がして天井を見上げた。
「通…?」
( まさか。まさかね。いくらあいつが無茶苦茶な奴でも、こんなわけのわからない所まで来られるはずないよね )
美津子ちゃんは顔を俯かせた。
その時、
「美津子ォッ! 待ってろォッ! 今助けてやるからなァッ!」
と声がした。
その話し方は通君だったが、声はアタシなので、美津子ちゃんは戸惑った。
「あれは…。でもあの声は確か、あのエンジェルって子の声…」
そうだけど、通君なのよ。
わかってよ、美津子ちゃん。
転移解きたいけど、貴女を救出して城を離れてからじゃないと、危険だからできないんだ。
転移をもう一回するには時間がかかるからね。
「私ったら、何を期待してるのかしら…」
美津子ちゃんは赤面した。
( 私、何で通が助けに来てくれるなんて思ったんだろう? )
もう、美津子ちゃん、素直になりなよ。
さっきみたいにさ。