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TORU 史上最強の悪ガキ  作者: 神村 律子
番外編PART2
28/28

その美少女、ガラスのハートにつき

 大田美津子は自分が素直でないために、沢本(さわもと)瑠璃佳(るりか)が不良共に連れ去られ、挙げ句に矢田通が助けに行く事になったのを知り、酷く落ち込んでいた。

「美津子、貴女のせいじゃないから。そんなに落ち込まないの」

 親友の宮田香の言葉も、美津子のショックを和らげる事はできなかった。

「私、どうすればいいのかな?」

 美津子は遠くの商店街の明かりをボンヤリと見ながら呟く。香は自分に問いかけられたのかどうかわからなかったが、

「沢本さんに謝る必要はないと思う。但し、はっきりさせないといけない事がある」

 美津子はキョトンとして香をみた。香は美津子をジッと見て、

「矢田君は美津子の彼氏なんだっていう事よ」

「なっ!」

 美津子は真っ赤になった。普段なら怒り出す彼女が赤面したという事は、精神的に参っている証拠だ。以前も宇宙人に連れ去られて酷い目に遭った時、美津子はとても素直になったのだ。

「あ、あいつは私の事なんか、うるさい女くらいにしか思っていないわよ」

 美津子は火照る顔を背けて強がりを言う。

「そんな風に思っていたら、命懸けで何だかわからない所にまで貴女を助けに行かないわよ、美津子。もう少し素直になりなさいよ」

 美津子は香に言われて、その当時の事を思い出した。

(あんな状況で、あいつは私を助けに来てくれた。それなのに私は……)

 いつだってそうだった事を思い出す。


 二人がまだ小学校に通っていた時。

 美津子は高学年の男子にかまわれて困っていた。それに気づいた通が、身体の大きさが全然違うのに飛びかかって行ったのだ。

「何すんだよ、チビ!」

 通は相手に一方的に組み伏せられてしまった。結局通は美津子を助けられず、美津子は騒ぎに気づいた先生に助けられたのだ。

「俺、強くなる。強くなって、美っちゃんを守るから」

 涙をグッと我慢しながら、通が言った。美津子は幼心に、

「通ちゃんのお嫁さんになりたい」

と思ったのだった。

 そして通は強くなった。いや、強くなり過ぎた。彼とまともに戦って勝てる相手は東京近郊には存在しなくなった。そして彼はある事故をぎっかけに桁外れに強くなった。


「小さい頃は、もっと素直だったのにな……」

 美津子は自嘲気味に言った。香はそれを聞いて、

「それはみんなそう。いつの間にか、いろんな事を考えるようになって、素直な心を忘れてしまうものよ」

「偉そうに」

 美津子はやっと笑顔を取り戻して言い返す。

「良かった、美津子が笑ってくれて」

 香も微笑む。美津子は涙ぐんで、

「ありがとう、香」


 一方、通と信一は、公園のジャングルジムの上に並んで座っていた。

「どうして俺に黙ってたんだよ?」

 いきなり通が切り出した。信一はそこから見え始めた夜景を見たままで、

「全部僕が片を付けるつもりだった。ワル達も、沢本さんの事もね」

「フーン」

 通はそう答えると、ニヤッとした。

「今度からはそういうのなしたぞ、信一。俺の事は俺が片を付けるからな」

「わかったよ」

 信一は肩を竦めて応じた。

「で、沢本さんはどうしたの?」

「家に送ったよ。寄って行ってくれって、言われたけど、彼女、父親と二人暮らしらしくてさ。女の子が一人でいる家には上がれないからって、帰って来た」

「お前らしいな」

 信一がクスクス笑った。

「うるせえよ」

 通はプイと顔を背ける。その時信一の携帯が鳴り出した。

「はい」

 信一はジャングルジムから飛び降りて携帯に出た。

「うん、わかった」

 それだけ言うと、信一は通を見上げて、

「帰るか?」

「ああ。久美子が心配してるな、多分」

 通もジャングルジムから飛び降りる。

「いろいろな意味でね」

 信一が戯けて言うと、通はまたムッとした。

「お前、一言多いんだよ」

 それでも二人は顔を見合わせて笑った。


 美津子と香も家路に着いていた。

「遅くなっちゃったね、美津子」

「そうだね。ごめん、香、変な事に付き合わせちゃって」

 美津子が手を合わせて謝ると、

「何よ、他人行儀な。親友なら、これくらい当たり前でしょ?」

「香……」

 美津子はまた涙ぐむ。

「あ、いけない」

「えっ?」

 香は突然走り出した。

「ごめん、美津子、今日大事な用事があるの忘れてた。先に帰るね」

「ちょっと、香!」

 親友じゃなかったの? そう愚痴りたくなる美津子だった。

「勝手なんだから」

 追いかけようと思ったが、やめた。美津子はそのままゆっくり歩いて家に向かった。


 通と信一も話しながら歩いていたのだが、

「いけない、今日大事な約束があるのを忘れてた! じゃ」

といきなり信一が走り去ってしまった。

「あいつ、ホントに忙しない奴だな。香以外に女がいるんじゃないのか?」

 通は妙な疑惑を持った。そんな事は絶対にないのが信一と香なのだが。

「全くよォ」

 通は仕方なく一人で歩き出す。そして家まであともう少しという路地の角を曲がろうとした時、反対側から歩いて来る美津子に気づいた。美津子も通に気づいたようだ。

「……」

 お互い、何となく気まずいのだが、逃げる事はしない。それでもそのままでいるのを我慢できなくなった通が歩き出し、角を曲がった。

「待って、通」

 美津子が呼びかけ、彼に駆け寄った。通は立ち止まった。

(信一の奴、香とはめやがったな)

通は二人の策略に気づいた。

「ごめん、通。私が変な意地を張ったせいで、沢本さんが大変な目に遭って……。ごめん」

 通は仰天していた。美津子がそんなに素直に謝ったのを見るのは、生まれて初めてだったのだ。だから、それに対してどういう反応をすればいいのか、すぐには思いつけない。

「昔は私達、こんなじゃなかったのにね。もっとお互いに素直だったのに。いつからこんな関係になっちゃったのか……」

 美津子は泣いていた。それを見て通はパニックになりかけた。

「お、おい、泣くなよ、美津子。俺、どうしていいかわからなくなりそうだよ」

「だって……」

 それでも泣き続ける美津子。通は困り果てた。対応を考えあぐねていると、美津子が動いた。

「通……」

 彼女は通に抱きついて来た。

「わわっ!」

 身長は美津子の方が大きいので、傍目には姉が弟を慰めているように見える。

「うう」

 身長差のせいで通の顔は美津子の胸に埋もれていた。

(し、死ぬ……)

 通はいつ気絶するかわからない程緊張していた。

「私、もう意地張らないから。だから……」

 美津子が更にギュッと抱きついて来る。


 そして通は気絶してしまった。

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